観光者-01
-王国の竜-
姉妹がやって来たのは、北大陸西部にあるサンベロナという町。
そこは豊富な資源と砂糖、それに竜神を崇める信仰のある平和な町。
二人は戦うことなく甘味を楽しみ労働に勤しみのんびりと過ごしていたが、ある事態を切っ掛けに王国と、竜神に纏わる物語へと関わっていくことになる。
「ねえアーサー」
「何ですか姉さん」
「もし魔法が使えたらアーサーはどんなことしたい?」
「呪文なら私がいつも使ってるじゃないですか」
「違うよ、あんな日常の知恵みたいなしょっぱいのじゃなくて」
「……普段そんな風に思ってたんですか?」
「いや、まあ、それは置いといて。もっと凄い何でも出来ちゃう魔法が使えたらってことね」
「……そうですね。気候を完全にコントロールして過ごしやすくする、作物や家畜の生長を早める、雑務の処理速度向上……そんな所でしょうか」
「いや違うよ、そういうことじゃないでしょ。魔法だよ魔法? アーサーは考えることがちっさ過ぎるよ」
「目の前の幸せを守っていく。これは一見小さいけれどとても大事で難しいことですよ。ちっさくなんてありません。大体それなら姉さんはどうなんですか」
「私はね、まず空を飛びたいな。空を自由に飛び回って高い所から景色を楽しんで、それからワープとかしてみたり、使い魔とか呼び出したりして、それから」
「私が小さいなら姉さんは子供じゃないですか」
「えー、いいじゃん。そういうのってなんかいいじゃん。浪漫があるよ」
「はいはい浪漫浪漫」
「ちぇーっ」
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長い長い平坦な一本道を、二人の少女が歩く。
周囲には、赤い茎を持った薄紅色の花。緑と赤の広大な花畑のど真ん中を横切る道を、二人は黙々と歩いている。風はやや強く、時折石畳の道を土埃が舞う。
片方は女性にしては少し背が高めで、少しくすんだ金髪を背中まで伸ばしている。やや細い釣り目と澄んだ緑の瞳がいかにも取っ付き辛そうな印象を与えており、表情も硬い。
もう片方は背が低く、後ろで編み上げている明るい茶色の髪が印象的だ。隣の少女と同じ緑色の瞳を持ったその目は垂れ目で、表情は明るい。
二人ともそれなりに整った顔立ちをしているが、その顔は土埃にまみれて少々薄汚い。
フードがついた袖付きの外套、薄茶色の長袖のシャツとズボン、革製の上着。外套の隙間から見える二人の服装には露出が全く無く、色気のかけらも感じられない。
ズボンの上から穿いている分厚く丈の短い革のスカートが、かろうじて女性の服装であることを主張していた。
彼女たちの足取りは力強い。腰のベルトに吊った武具と背中に背負う大きな背嚢をものともせず、灰色の石畳で舗装された道を一歩一歩ペースを崩さず進んでいく。
二人は冒険者であり、そして姉妹である。
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「女二人で冒険者ねえ。武器はこれだけか?」
門番の兵士は疑り深そうな顔で二人を見回してから、テーブルの上に並べられた武器へと視線を向けた。
机の上に乗せられているのは、鞘から出されたシンプルな片手用の手斧と直剣がそれぞれ一本。それに革張りの丸い小盾と小さな弓、七本の矢と二本の短いナイフ。
どれも使い古され、修理の跡が散見されている。特に手斧、剣、小盾は損耗が激しく、手入れが追いついていない。
「見た所呪文が使えるような顔ではないが、呪文は?」
長い金髪の方は門番の視線に嫌悪感を露わにしていたが、茶色い編み込みの方は門番の視線などどこ吹く風で興味深そうに周囲を見渡している。
「私が少し。攻撃に使えるようなものはありません」
「そうか。じゃあ次、名前は?」
憮然とした顔のままぶっきらぼうな口調で金髪は答えた。敵意むき出しだが、門番は特に気にする様子を見せず次の質問を続けている。
不機嫌が顔に出ている金髪に代わって、今度は編み込みが答えた。
「私はピエール、こっちの機嫌悪そうなのがアーサー。男みたいな名前だけどれっきとした女だよ。ちなみに私が姉で、アーサーは妹。よろしくね」
そう言って、ピエールはにっこり笑う。その顔は毒気の無い背丈相応の少女の笑みだったが、門番の表情が軟化することはなかった。
「ピエールとアーサー、名前は男だが性別は女、っと。小さいほうが姉なのか。……それで、ここに来た目的は?」
「りゆ」
アーサーが一瞬口を開きかけたが、すぐに中断して一歩下がる。未だに不機嫌そうな表情のままだが、今の表情は先ほどとは違い釈然としない、という顔だ。
「あての無い旅だから、特に目的とかは無いよ。まあ観光って感じかな」
ピエールの言葉に返事を返すことなく、門番は無言でじっとピエールの目を見つめる。軽く笑い返すピエール。二人の視線が、暫くの間交錯した。
「ま、いいだろう。揉め事は起こさないように。ようこそサンベロナへ」
一つ小さく息を吐き、門番は扉を開けた。
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「姉さん」
扉を出て町へと入った所で、アーサーが耐え切れず口を開いた。
「すぐ私の足を蹴ろうとするのは止めてください。当たると結構痛いんですよあれ」
妹の文句に対し、うんざりした表情で返す姉。
「だってそうでもしないとアーサーすぐ余計なこと言うじゃん。どうせあの時も『理由が無ければ来てはいけないんですかばーかばーか』みたいなこと言うつもりだったんでしょ」
「流石にそこまで直球での反撃はしませんよ。もう少し遠回しに嫌味を言う程度です。大体あんな適当な検問で一体何を知ったつもりなのか、まるきり格好だけの……」
ぐちぐちと小言を並べ立てようとするアーサーを、うんざり顔で押し留めるピエール。
「門番に喧嘩売ったらどうなるかなんて分かりきってるでしょ」
続いた言葉に、反論をしようとしたアーサーは少しだけ言い淀んだ。
「なーんですぐ人に喧嘩売ろうとするのかなこの子は、全く。ほらアーサー、行こう。まずは宿屋でしょ」
そうして背の低い姉は、背の高い妹の手を引いて町を進んでいく。
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煉瓦で出来た二階建て程度の大きさの建物。扉の上には、看板が一枚ぶら下がっている。羽の生えた妖精が、ベッドの上でくつろいでいる絵だ。
「きっとここですね。看板にも妖精の絵が書いてありますし」
そう呟いて、アーサーは建物を眺めた。まずは見上げて全景、そして扉、最後に根元の地面。
「なんて名前だっけ。妖精の、妖精の……溜まり場?」
「止まり木。妖精の止まり木亭ですよ。……さっき姉さんが聞いてきたばかりなんだからちゃんと覚えててくださいよ」
「そうそう止まり木! 止まり木ね。いや覚えてたよ? ほんとほんと。ただ思い出すのが面倒だっただけ」
アーサーが何か言おうとするも、ピエールは逃げるように扉を開け中へと入っていく。呆れ半分微笑み半分で、後へ続くアーサー。
「……いらっしゃい」
中に入ると、カウンターの向こうには痩せた中年男が一人。白髪混じりの長い髪を後ろで無造作に束ね、短い無精髭にも白と黒が混じっている。男は二人を見て、無愛想な挨拶を一つよこした。
中にはカウンターが一つと、丸い木製のテーブルが数個。テーブルにはそれぞれ椅子が三つずつ備え付けられているが、今一階にいるのはピエール、アーサー、そして店主らしき中年男の三人だけだ。
カウンターの右には二階へと続く階段が一つ。客室は二階なのだろう。
木張りの床やテーブルは掃除が行き届いており、わずかに光沢を発していた。他にも壁や階段の手すりの掃除具合を、アーサーは入ってすぐの場所で立ち止まったまましっかりと観察していく。
「おっちゃん、泊まりに来たよ。一泊いくら?」
アーサーが宿の質を値踏みしている横で、おおよそ初対面とは思えない馴れ馴れしさでカウンターに肘を突いて店主に話しかけるピエール。
幸い、その口調で店主が機嫌を損ねるということはなかった。
「ベッド一つの部屋で一泊三十ゴールド、ベッド二つなら四十ゴールド。朝食付きは一人につきプラス六ゴールドだ」
「だって」
カウンターにもたれかかったまま、姉は自分で尋ねた内容を妹へ丸投げした。アーサーは宿の値踏みを終えたのか、カウンターの前まで歩み寄る。
「ではベッド二つの部屋を一つ。朝食二人分付きで二十日分前払いします」
「えっと……」
「まいど。千四十ゴールドだ」
「九百ゴールドになりませんか」
ピエールが『今から計算してみよう』と奮い立ったその時にはもう交渉が始まっていた。
無言のまま暫く間を置いて、彼女はそっと階段の隅でうずくまる。ベルトに吊ってある幅広の鞘が床に当たって音を立てないよう、丁寧に抱え上げている。
ピエールの前で、金額の綱引きが始まった。彼女は、それをじっと見つめるだけだ。交渉事では、基本的に彼女の出番は無い。
「……分かった。千でいい」
交渉が終わり、いそいそと懐から硬貨の入った袋を取り出すアーサー。そしてその横で床にのの字を書き続けるピエール。
「ではこれで」
直径四センチほどの、銀色に輝く百ゴールド硬貨がぴったり十枚。カウンターに並べられたそれを一枚一枚チェックする店主と、その様子を膝を抱えて丸くなったままじっと見つめるピエール。
「よし、いいだろう。お前ら二人の名前は?」
「私の名前はアーサー、横の小さいのはピエール。性別は女、ピエールは私の姉です」
名前と性別を告げると店主は驚き、眉をひそめた。
「女? その名前で?」
「……何か、問題でもあるんですか?」
その呟きに対しアーサーははっきりと怒りと敵意を込めて、対面の男を睨みつけた。
特に怯んだ様子は無いが、店主は佇まいを直し表情を元に戻す。
「いや、何も。……朝食は朝ここへ降りてくれば出す。遅れてもある程度は融通を利かせるが間に合わなくても朝食代の払い戻しはしない。シーツの洗濯、部屋の掃除などは頼まれればするが何も言われなければこちらからは何もしないし、部屋にも入らない。部屋は十二番、二階奥突き当たりの右だ。もし部屋の鍵を無くしたり部屋の物を壊したら弁償はしてもらう。以上。……じゃ、ごゆっくり」
店主は後ろにある棚から鍵を取ると、カウンターの上に置いた。それと同時に、無愛想だった顔がニヤっと笑みに変わる。
アーサーは未だに不機嫌そうなものの何も言わず目で頷き、渡された鍵を受け取った。
話が済み、ふと横を見て、蹲ったピエールと目が合う。
「終わった?」
「終わりましたよ姉さん。さあ部屋に行きましょう」
「うん。私はちょっと計算が苦手だからね。アーサーよりちょっと遅いけどちゃんとあの代金くらい分かってたからね。本当だよ」
「そうですね」
姉の言い訳を聞き流しながら、アーサーは階段を登る。木製の階段でありながら、登る時に軋む音が殆ど鳴らない。そんな小さなことに、アーサーは好感を覚えた。
二階へ登ると、一階と同じく木張りの長い廊下が真っ直ぐ伸びている。
左右には六対、計十二個の扉。美しい装飾や凝った細工などは皆無の殺風景な見た目だが、どこを見てもきっちりと掃除されている。特に金属製のドアノブなどは、どの部屋のものも顔が写りそうなほどぴかぴかだ。
扉には、それぞれ番号が振られている。一番手前左が一、右が二。突き当たり右の扉を見ると、確かに十二番だ。
鍵穴に鍵を差し込んで、扉を開く。部屋の中にはベッドが二つと衣装棚が一つ、そして三つの窓。ベッドが二つある所為でやや手狭に見えるが、部屋そのものの広さは二人用として十分な広さだ。
木製の窓は全てつっかえ棒で半開きにしてあり、部屋の中は明るい。
「はー疲れた」
部屋に着くなり背嚢を降ろし外套を脱ぎ捨て、上着、ベルトに吊ってある鞘、革の手袋、ベルトポーチを全て外してぽいぽいその辺に放り投げ、ベッドの上に仰向けにダイブするピエール。
気の抜けた笑顔でごろごろ転がっている。
「二日ぶりのベッドはいいねー、もう寝れちゃいそう」
「もう、みっともないですよ」
そう言ってアーサーは放り投げられた物たちを拾い上げ、背嚢とまとめて部屋の端に寄せた。その口ぶりとは裏腹に、彼女の表情も保護者が子供を見守るかのような穏やかな笑顔だ。
ピエールの荷物を部屋の端にまとめると、アーサーも自身の背嚢をその横に降ろした。
大きな伸びを一つ、肩を少し回し、ベッドの脇に腰掛ける。
ピエールとは違いベルトに吊った道具や外套はそのままだ。
「いい宿ですねここ。見た目は質素ですが中身はきっちりしている、私好みの宿です。合わせて千二百ゴールドくらいまでは出しても惜しくなかったかもしれません」
「でも値切ったんだ」
「節約するに越したことはありませんから」
相変わらずベッドの上でごろごろしながら、悪戯っぽく呟くピエール。しかし、アーサーはそれが当たり前とばかりに平然と答えた。
暫し無言のまま、ベッドでくつろぐ二人。
五分ほどしてから、アーサーが沈黙を破った。
「さて、荷物も置きましたしあんまりごろごろしてないで町の確認をしに行きましょう。昼食もまだですからね」
「今回はー道案内どうするのー? この町さーそれなりに広くなーい? いつもみたいに誰かに案内お願いしないのー?」
仰向けになって弛緩している身体に釣られてか、ピエールの声もどこか間延びした気の抜けた声だ。
「そうですね……。丁度いい人がいれば雇いたい所ですが、いなければそれでもいいでしょう。治安も安定しているようですし、たまにはぶらぶらするのも悪くない」
「そっかー、じゃあ行こー」
ピエールが勢いをつけてベッドから飛び降りたのを見て、アーサーも立ち上がる。ピエールは腰から外していた道具類を再びベルトへ吊り下げ、脱ぎ捨てていた上着と外套を羽織った。
その間にアーサーは部屋の窓を閉め、閂をかけていく。
「行きましょうか」
姉が仕度を終えたのを見てから、アーサーは部屋の扉を開いた。
: :
一階へ降りると、カウンターの向こうで店主が小さな女の子と会話しているのが二人の目に入った。
少女の背丈はピエールと同じくらいかやや低い。耳を隠す程度の長さに切り揃えられた茶色の髪は前髪が不自然に長く、目を半分ほど覆い隠している。
袖の長いカーキ色のロングドレスに汚れの目立つ白いエプロンという出で立ちは、いかにも使用人といった風体だ。
少女が先に降りて来た二人に気付き、次いで店主もこちらへ顔を向ける。
少女は一度たどたどしくお辞儀をしてから、逃げるようにカウンターの奥の部屋へと去っていった。
「よう二人とも、お出かけかい」
右手を上げ、軽い口調で言う店主。その口ぶりに、二人が宿へ来た時の無愛想な面影はどこにもない。
「これから町を見て回る所です。所で主人、尋ねたいことがあるのですが」
続けて喋ろうとするアーサーを、店主は手で遮った。
「俺の名前はアーノルだ。これから三週間顔を合わせることになるんだし、主人じゃ素っ気無いだろ。そう呼んでくれ」
アーサーは小さく頷いてから、話を再開した。
「ではアーノル。先ほども言った通り私たちはこれから町を見て回りますが、出来るならこの町のこと、町並みや文化について詳しい人に色々と案内をして貰いたい。そちらの方が効率がいいですからね。もしそういう人に心当たりがあれば紹介してくれませんか」
アーサーの言葉に、アーノルはついさっき鍵を渡した時のような、にやついた笑みを浮かべた。
「そういうことなら丁度いいのがいる。……ニナ! ちょっと来い!」
アーノルがカウンターの奥へと叫ぶと、やや間を置いて先程話していた少女がやってきた。
カウンターの向こうにいる二人に気付き、露骨に動揺して縮こまる。
先ほど同様小さく会釈をしてから、二人の視線から逃げるようにアーノルの後ろへと隠れた。
「お父さん、何か用……?」
「この二人はアーサーとピエール、客だ。町の案内が出来る人を探しているらしい。……お前、行ってこい」
「えっ……ちょ、ちょっと待ってお父さん、突然言われても、無理だよ!」
アーノルの発言に狼狽し、声を荒げるニナ。しかし、アーノルの意思は変わらない。
「いいや駄目だ、行ってこい。お前は宿屋の娘なのに人見知りが過ぎる。いい機会だから少し人に慣れることを覚えろ。……それにこの二人は二十日分の宿代をポンと払うような上客だ。上手くやれば何か買って貰えるかもな」
ニナはきょろきょろ視線をさ迷わせながら、必死に父親への返す言葉を探していた。
しかし何も言い返す言葉が見つからなかったらしく、やや間を置いてためらいがちに俯く。
にっと歯を見せて笑うアーノル。横へずれると、隠れていたニナの姿が二人の前に晒された。
「という訳で、俺から紹介出来るのは娘のニナ一人だ。知らない人間に対する人見知りは激しいが町の顔馴染みとは普通に会話出来るし、この町のことはそれなりに詳しい。質問には大抵は答えられる筈だ。……どうするね?」
売り物を値踏みするかのような冷たい目でニナを見つめていたアーサーが、一つ息を吐いてアーノルに視線を戻す。
「町のことに詳しいのならそれで構いません。……期間は今日と明日の二日間を予定していますが」
そこで区切り、アーサーはじっとアーノルを見つめる。
「一応これでもうちの従業員だから連れ回すのには金は払ってもらう。そうだな、二日で四十ゴールドって所か」
「こちらはそれで構いません」
「じゃ、決まりだ」
「……随分安くして来ましたね」
「子供の使いだからそんなもんだ。それとも今から言ったら上乗せしてくれるかね?」
「まさか」
汚れ具合のまばらな、鈍い金色の十ゴールド硬貨が四枚。百ゴールド硬貨より二周りほど小さいそれを、アーノルは懐へとしまい込んだ。
「よし。じゃあ連れて行ってくれ。ちなみにニナの昼食代はそっちに持ってもらうからな。昼抜きで連れまわしたりしないように。夜はうちで食べるから日が暮れる前には戻らせてくれ。……あと、一応言っておくが変な気は起こすなよ。こっちには前金って人質がいるからな」
「わざわざ言われなくても分かってますよ。さあ姉さん、行きましょう」
不機嫌そうにアーノルへ言い返してから、アーサーは一足早く宿を出た。カウンター横の椅子に座っていたピエールが、遅れて立ち上がる。
「じゃーおっちゃん、行って来るよ。ニナ、よろしくね。ほら行こ」
「あ、ちょ、ちょっ、と、待っ、て、く、く、くだ、さ……お父さん、それじゃ行って来ます」
アーノルがニナへと手を振ったのを見てから、ニナの手を引いてピエールも宿を出た。
宿の一階は、再び静かな空間へと戻る。