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(9)あいさつしゅうかん

 学校には正門と裏門がある。挨拶週間は服装チェックも兼ねているため両方に人を配置しなければならない。そして、服装チェックのために男女のバランスを取るようになっている。

 私は正門担当。犬飼さんとペアになった。

 響君は裏門担当。蛇走さんとペアだ。三年生の副委員長がこちらの服装チェックに入った。

 響君は「やだやだやだやだやだー! 雀ちゃんと一緒がいい!」とダダをこねたけど、犬飼さんに散々怒られて仕方なしなし従った。別々にする必要はなかったけれど、多分、犬飼さんなりの嫌がらせだったんだと思う。

 そして、私は正門に立ち、笑顔で頭を下げまくる。

「おはようございます」

「声が小さい!」

 風紀委員と書かれた木刀を携えた犬飼さんが声を張り上げる。

「おはようございます!」

 もう一つ声を張り上げる。恥ずかしい。挨拶を返してくれる生徒ももちろんいるけれど、やっぱり視線が妙だ。体育会系の中に紛れ込んだ文科系の場違い感っていったら。こんなにも朝の光は心地いいのに、疲れるし恥ずかしいし、辛い。

「気合が足りないぜ」

 隣で牛沢冥うしざわめいさんがポソッと呟いて、肩を震わせた。笑っているのだ。ボリューム抜群のおっぱいも肩の震えにあわせて揺れた。

 女性にしては尖りがちの目。片方吊り上げて笑う唇は小さく、肉厚で、艶っぽい。長い髪をサイドに寄せて面倒くさそうに一つ縛りしているけれど、きちんと手入れがされている。一見ワイルドに見えるけれど、その睫毛は長く繊細で、実は内面も繊細だ。さすが次期風紀委員長というところか、制服の着方はしっかりしている。

「私、こういうの初めてなの」

 肩をすぼめて小さくなると、牛沢さんの柔らかい肩がトンとぶつけられる。

「じゃ、声揃えてやりゃいい。オレの声に負けんなよ」

「自信ないよ」

「うだうだ言ってんじゃねーよ。ほら。せーの」

「「おはようございます!」」

 ちょっと負けた。牛沢さんのハスキーで色っぽい声に押されてしまう。

「なぁぁぁにやってんだよ」

 また肩で小突かれた。楽しくなってきてクスクス笑ってしまう。牛沢さん、可愛い。

「遊ぶな!」

 犬飼さんに吠えられた。しゅん。ウゼーなんて、私はちっとも思っていない。牛沢さんは「すみません」と背筋を伸ばして謝った。

「雀といるとついつい遊んじゃうな。何かの毒か?」

「失礼な」

 牛沢さんがこっそり囁いた。嬉しい言葉を失礼さで打ち消されるけれど、やっぱり嬉しいかも。ひとまずプンと唇を尖らせてみたりすると、またクスクス笑ってしまうので、犬飼さんの視線が厳しい。

「お前達、特に鳥居は、あの生徒会長を見張らなくてはいけないんだ。そんな調子でどうする」

「ごめんなさい……」

 もう一回、しゅん。萎縮する。また校門を生徒が通り過ぎていく。怒られている姿を見られるのも情けない話だ。こうやって私の気持ちを強くする特訓パートなのだろうか。勘弁。

「わかったならしっかりやることだ」

 さすがに犬飼さんも気分がよくないのか、声のトーンを気まずそうに落ち着けた。

 並んで挨拶活動に戻る。

「おい、そこの一年。ズボンが下がっているぞ」

 早速犬飼さんが腰パンマンをしょっ引いた。

 さて、昴はいつ来るのだろうか。漫画通りならイベントが発生するはずだ。

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