(4)せいとかい
生徒会室の机はコの字型に並べられている。会長の机が窓際にあり、そこから入り口に向けて左右に三つずつ机が連結されている。私は会長の右手側の端席だ。
「来週からは挨拶週間が始まる」
向かいの席の風紀委員長の犬飼さん――犬飼基さん(三年生)が起立した。
スポーツ刈りの頭はガチガチに硬く筋肉でできている。無駄に声が大きい熱血漢だ。真面目で律儀で面倒見がいい。だから「いいやつなんだけど……」って人に言われるタイプ。類型通りにアホ+天然さんだ。
「集合は七時四十分。八時までの二十分間だ。生徒会と風紀委員を中心に有志の参加を募る」
挨拶週間は風紀委員先導だ。生徒会は補助に回る感じ。つまり、企画運営だけをやりたいお調子者の響君的にはあんまり楽しくない話だ。鼻の頭にえんぴつを乗せないでください。
「会長は遅刻しないように」
犬飼さんはギッと響君をにらみつけた。四角く縁取りのはっきりした目はけっこう迫力があるのに、響君はコロンと鉛筆を落としただけでけろっとしている。
「はあああい」
そして聞いていなさそうなお返事のコンボ!
「遅刻しないように! 二度言ったからな!」
人差し指で響君の額を押して念を押す犬飼さん。曖昧に笑って眼球だけでその姿を捉えている響君の適当な感じといったら、その席を退けというレベルだ。
「はぁぁ……なんで俺はこんなのをいいと思ったんだ……?」
犬飼さんは俯くと、ため息をついて小声で呟く。会長には聞えているから多分あてこすりだ。
経緯を手短に説明しよう。私と響君は同じクラスだった。響君が生徒会長になりたがった。漫画通りにことが進むことを見越して、私は響君とそれとなく接触しつつ、響君の応援をしつつ、色々補助をしていた。結果、別に私が手を貸さなくてもなれただろうけど、響君は生徒会長になった。そして引き上げられる形で私は副会長という名の秘書になり、権力を握った。
響君もいい演説したんだよ。『みんなが仲良く楽しく過ごせる高校』というマニフェストは実行するために頑張っているしね。ただ、ちょっと「よきにはからえ」的なところがあるから、ね? 基本はいい会長だ。たぶん。どこかに黄金の精神があると思う(適当)。
犬飼さんは気を取り直したように顔を上げて、手元のメモを確認した。
「また、一年生は浮かれ出す頃だ。高校デビュー徹底排除の方向で、主に服装から指導を入れる。遅刻生徒も要チェックだ」
私はメモをしながら、頷くフリをして息を吐いた。
――そろそろか。頑張ろう。
なぜ私が権力を握ろうとしたか、説明せなばらるまい。ついでに、漫画においての辰井響の概要と漫画の初期の流れについても簡単にまとめておこう。
1)エバさんが未来からやってくる。昴のドラ×もんになる。
2)エバさんは昴の同級生として青南の生徒になる。
3)犬飼さんに絡まれたクラスメイトを庇う昴。昴と犬飼さんが喧嘩をして、エバさんの手助けにより犬飼さんがボロ負け。
4)風紀委員長は生徒会長の手下。芋づる式に響さんが登場。
まとめすぎて齟齬があるけれど、まあ、こんなところでしょう。
響君は『仲間になる前提で出てきた悪っぽい味方』だ。女子人気を獲得しやすい感じのアレ。もちろん私も大好きだ、面白いしかっこいいし。
別に漫画通りに物事が進むのなら、放っておいてもいいじゃない? と思うだろう。響君は生徒会室に昴とエバさんと呼び出すとき、人質として私をとっ捕まえるのだ。実に悪役らしいゲスな手段である。そういうところ大好き。キャラとしてね。でも、私は人質にはなりたくない。囚われのお姫様って憧れるけど、昴の足を引っ張りたくはない。しかも昴もエバさんも袋叩きにされるシーンがあったりする。そんなのは絶対にダメである。
ということで、根回し大事。お姉ちゃんは暗躍するのだ。