(3)せいとかい
私は生徒会役員である。なぜならば、昴が生徒会とトラブルを起こすからだ。コミックス一巻の終わりから始まるから、夏手前くらいか。そろそろか?
からからっと軽快な音を立てて横にスライドする扉。狭く物の多い室内が謎のオーラに圧迫されるような存在感。
「おはよう雀ちゃん。早いね」
生徒会長の辰井響が爽やかに笑った。けど、喋り方がウザく聞えるのは私だけだろうか。いや、そんなことはない(反語)。
整っている。まさにしゅっとしたイケメンである。鋭い切れ長の瞳に、きゅっとしまった薄い唇。すらっと高い身長と、暑苦しくない程度の筋肉質な体型。ワイルドだけど上品さも兼ね備えた肉食獣的なオーラがある。微妙に爬虫類系の冷たさもある。私は後者の冷たいところがけっこう好きである。
イギリスからの帰国子女。二年生。生徒会長。彼は一年のときに生徒会選挙で会長の座を勝ち取った。
ここまでは漫画通りだ。
彼と私は二年間同じクラスで、私は彼の秘書をしている。そうなった理由は彼の生徒会選挙を全力でサポートしたからだ。彼が会長になることを知っていたし、なればおもしろいことをするのも知っていたから、手伝った。
おそらく彼は放っておいても勝つだろう。しかし、負けない試合だからこそ手伝い、恩を売って信頼を買う。そして、昴のために生徒会にもぐりこむのだ。
「挨拶週間が始まるでしょ? 早く来るのに慣らしておかないと」
私は新入生向けを意識した生徒会新聞の四月号(手書き)のラフを書く手を止めた。
響君はボンとスポーツバックをイスに放り投げて、日当たりのいい窓際の指定席に腰掛ける。私の隣の席でもある。
「なるほど、偉い偉い。僕なんか春休みですっかり寝坊が身についちゃったよ」
「遅刻してないから大丈夫」
「遅刻しなくても眠いんだよね。一眠りしたいから膝貸してくれない?」
響君は口の端をにまーっと吊り上げてうさんくさい笑みを浮かべた。漫画の初期みたいに黙ってラスボス臭出していればモテるんだろうけどね。いや、そうじゃなくてもモテているから、この言い方は違うな。さて、どういうべきか。わからん。
「私の膝は取り外しがきかないので……」
膝を机に付けるように座りなおす。
響君は私のすぐ隣までイスを持ってきた。響君は男子のくせに近寄っても臭くないから妙に腹が立つ。
「相変わらずつれないな。セクハラのやりがいがあるってもんだ」
なんて言いながら髪の毛を触ってきた。
「嫌がられて燃えるなんてイケナイ自分を発見した喜びで戸惑いを隠せないよ。あぁ、雀ちゃんの冷ややかな視線が恋しくて夜も眠れない」
「だから眠いんじゃないの」
「you cool! 責任をとってもっと嫌がってくれ!」
なにやら楽しそうなのでシカトすることにした。黙々と手を動かす。
響君はイギリス紳士故か女の子の扱い方が妙にうまいので、髪の毛を触られても気持ちいい。イケメンだし気を許しているし、付き合ってもいいかなくらいには考えているので、嫌な気がしないのだろう。所詮顔面格差社会よ(ただし弟は除く)。
「うわシカト」
ふっと肩を揺らして笑う響君。それでもめげずに髪の毛をいじってくる。
「たとえば五年とかもうちょっと経って、雀ちゃんがOLになったとしよう。僕が君の会社の上司だったり大手取引先の重役とかだったら、シカトしないだろ? 見合いの話とか断れないじゃん?」
「生々しい話はやめてよ……ムーンライトノベルズに行ってください、どうぞ」
「あ、枝毛」
響君は、話をそらすように、机の上に転がっていたハサミをとって切った。なんか怖いので思わず身震いしてしまった。
「よーし、朝一でセクハラしたから元気が出たぞ。SP回復だ」
「SP?」
「スズメポイント。時間経過ごとに減っていって、ゼロになるとやる気をなくすんだ。秘書ならパラメーター管理くらいしっかりやってよ」
こいつ私と同じ感性の持ち主か。それとも私が漫画の響君に影響されていたか。
それからはきちんと仕事に入ったから文句は言わない。