溶ける薬に踊らされ
茶髪の女性がデスクにもたれてかかっていた。その髪も呼吸も乱れ、頬も熱を帯びて紅潮している。コンコン、とノックの音が響いた。女性は息を整えようと懸命になりながら、深紅の瞳をドアに向ける。彼女の見る先で、ドアが開いた。
「ルビネス? いないのか?」
黒髪の男性が怪訝そうに中をのぞき込む。その藍色の瞳がルビネスの視線とぶつかった。
「サ、ファイ…」
息を切らしながら、ルビネスは彼の名を呼ぶ。彼女の様子に異変を感じ、さっとサファイは表情を険しくした。
「ルビネス!? どうしたんだ、一体?」
サファイは慌てて駆け寄ろうとする。が、ルビネスは片手でそれを制した。ギロリと睨むその剣幕に押されて、サファイは一瞬立ち止まってしまう。が、すぐに気を取り直してそばへ寄った。
「熱でもあるんじゃないのか?」
そう言って、ルビネスの首のの辺りにサファイの手が触れたとき。
「ひゃぁう!?」
ルビネスは素っ頓狂な声を上げてびくりと体を震わせた。突然のことに、サファイは慌てて手を引っ込める。息が荒いだけじゃない。触れた体温は普段より高く、じっとりと汗ばんでいた。これは相当ひどいと確信し、サファイは眉根を寄せる。
「無理はするな。今はとりあえず休んでくれ」
彼女は自分の体を省みない。やるべきことがあると、いつも寝食を抜いてしまう。しびれを切らしたサファイは、無理矢理にでも連れて行こうと彼女の腰に手を掛けた。と、また大げさなほどにルビネスは体を震わせた。半分抱き寄せた格好のまま、サファイは硬直する。ルビネスはすがりつくように彼に抱き付いていた。浅い息と共に肩を上下させ、わずかに震えている。
「…どこか痛むのか?」
訝しげに問いかけても、ルビネスはふるふると首を横に振るだけ。はあ、と湿った息を吐いて、顔を上げた。熱をはらみ、潤んだ深紅の瞳がサファイを捉える。顔を赤く染めしがみつき、何かを求めるように見つめてくる。その様子に、サファイはどきりとした。赤く色づいた唇が誘っているようにも見える。
「るるルビネス? いいいったいどうしたんだ……?」
過度に混乱して、サファイの声がうわずる。彼は完全に硬直してしまっていた。ルビネスはそんなサファイの服を掴み、つと腰を押し当てる。誘われるがままに、サファイは彼女を抱き寄せた腕を滑らせる。
「んっ――!」
ルビネスは体を震わせ、甘い声を漏らす。それがさらにサファイを煽る。
「ルビネス――」
ふわりとサファイの顔が覆い被さった。お互いの唇が触れあう。それは溶けるように甘く、深く。静寂は二人を包み込んでいた。