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光霊機アウゴエイデス  作者: 霧丸
新たな狼士
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第二話

暗闇の中、人工の明かりで照らし出される鋭端なシルエット。

それは鳥のようでもあり、騎馬の鎧のようでもある。

それは鋭利にして重厚、優美にして剣呑。

それは――――戦闘機のようでもあり、爆撃機のようでもある。




「…これは、戦闘機ファイター?いや、大きすぎる。」



沖ノ鳥島、その人工島中枢エリアの一角に隠されたブロックへと案内された守晃は二重の意味で驚愕した。

其処で守晃を待っていたのは、人型機動兵器FAでは無かったからだ。



「では、吉良守晃少尉―――貴様の初任務だ。」


驚きに固まる守晃に八代はサングラスの奥に思惑を秘めて、守晃の名を言い直し告げる。



「―――仕方あるまい、やってやる……やってやるさ!」


袖を捲りあげる。

そして八代に渡されたナノマシンを封入された無針注射器を腕に押し付ける。



「俺は今、この瞬間で―――人間を捨てるっ!!」



注入スイッチを押す、プシュという排気音と共に中の液体が皮膚を透過し体内に流れ込んでくる。

今、この瞬間より吉良 守晃は唯の人ではない。

武力を以て敵を排除する―――自分の命を懸け、守護を義務として背負う兵士だ。


武とは、止めるとほこの合成文字だ。

戈を止め、戈にて止む。

この世界で最強の力とは何か、経済力・魅力・技術力・知力数多ある力の中で結局は暴力こそ最強なのだ。


暴力以外は、搦め手しか行えない。

暴力以外は暴力をより強くするための副次的な力に過ぎない。


世界は所詮、弱肉強食――――弱ければどんな理不尽・不条理も受け入れなければならない。それは自然の摂理、人が自然の一部である以上はこの理からは逃げられない。


理不尽な暴力、不条理な現実に抗うには暴力が必要なのだ。

目には目を、歯には歯を、暴力には暴力―――その暴力を、武力と呼ぶかどうかはその人間による。



「一つ、肝に命じておけ―――力だけでは守れない人間も居るぞ。」

「かつて、日本国憲法では兵器を捨て、兵士を封印すればそれが平和だと言った。

 吐き気を催す独善―――法が人を守らないのであれば、兵士という暴力が人を守らねばならない………力じゃないと守れない人間も居るんだ。」



忠言、八代の言葉は何度も思案したものだった。

だが、それでもこの生き方を捨てれなかった、言い捨てると鎮座する鬼械へと足を向ける。


日本国憲法、それはどんな耳触りのいい文章を書き綴っていても、その本質は「他国の武力に対し国民の生命・財産・人権を一切保障しない」という内容だ。


実際、日本が侵略されなかったのは正面切っての正攻法の侵略に対しタダで返さないだけの軍事力を所持していたからだ。


そして日本人の遺伝的に近しいチベットは非戦争主義でまともな軍隊を持たなかったが故に中国に侵略され120万以上の死者をだした。

之はチベット全域の人口の五分の一を超える人数が虐殺・行方不明となったという事だ。


その後数十年で更に数字の上でも内容でも超える虐殺や強姦が平然と行われ、そしてその混乱のさ中子供たちは拉致され犯罪の使い捨ての先兵とされ、豊かだった自然は深刻な無理な開発と核廃棄物の放棄で無残な姿へと変えられた。


そして人口統制の名のもと、三人以上純潔のチベット人が集まるのは禁止とされ、強制敵に中国人との混血が推し進められている民族浄化という目に逢った。


これは第二次世界大戦に日本を引きずり込んだフランクリン・ルーズベルトが占領後の日本に対し行おうとしていた事と全く同じ内容だ。

 武力を持たなかった末の結果は実例が近代でも既に在り、歴史を紐解けば枚挙に厭わない。


 戦いを放棄することと、平和を求める事は=では結ばれないのだ。同一視すればその報いは、自らの地獄が生優しいくらいの破滅だ。




「それが貴様の復讐の大義か?」



その後ろ姿を見つめながら八代は呟く。

守晃はそれについて、武を収めた者特有の刃金のように深く鋭い視線を言葉と共に返すのだった。


「一生、奪われた痛みを我慢して鬱屈した人生を送るなんて俺は真っ平だ。

けれども、どうせ復讐するなら正々堂々打ち負かして格の違いを見せつけた上で引導を渡してやりたい、それだけだ。」









『くっ……敵の数が多すぎる!!』


超大和級戦艦 紀伊。

従来の戦艦と違い、正面から見た場合◇形の船体を持つ防空母艦だ。この形状は船体の吃水を下げ被弾率を低下させると同時にレーダー反射を抑えステルス性を保持することにも成功している。


その甲板にて、鎧騎士とスポーツカーが入り混じった白いフレームに藤色を彩る鋼鉄の機人が手に持った突撃銃から銃撃を放つ。


無人島に墜落した亮一と光姫の二人を救援に来たこの艦に乗り、数日したころに再び襲撃を受けたのだ。

今、紀伊の上空を飛びながら先日襲撃してきた単眼の機体が複数、ミサイル迎撃システムを破壊しようとしているのを防ぐ。


複数に分散した地点から弾道ミサイルが紀伊へと降り注ぎ、ステルスを考慮した紀伊の形状と特殊塗料、それにジャマ―と相まってレーダー誘導出来ないミサイルをあの単眼のエイリアンのように後頭部の長い機体のセンサーをデータリンクで接続して誘導しているのだ。



『自立プログラム風情が!!』

『おい!前に出るな!!』


既に先日の戦闘データからあの機種が無人機であることは割り出しが完了していた。

それが此方の三倍近い戦力で攻めてきている事態に堪え切れなくなった味方機。


亮一の乗機、叢雨と共に甲板から迎撃を行っていた機体……叢雨と違い、より角ばった武者鎧を纏ったような重厚なフォルムの機体……日本帝国の正式量産機、影光の数機存在する内の一機が背の双発戦闘機の胴体部を左右分割・巨大化させたようなフライトユニットを噴射させ飛翔する。



『―――ッ!!!』


サマーマル突撃砲を連射しながら敵に切り込む影光、しかし次の瞬間。

敵の攻撃が一斉に向きを変え全て影光に殺到した。


『安田ぁああああっ!!!』


一瞬で紙屑のように殺到する弾が影光を砕いた。

刹那、噴き出るオイルと紫電の流血――そこへ幾つものマイクロミサイルが食らいつく。そして機体が爆散する。


『……随分といやらしいプログラムを組んだものだなっ!!!』



破片とコアモジュールが海面に落ちるさまを見て亮一が歯噛みする。

あれだけの集中砲火を食らえば、如何に最新素材と防御フィールドを持とうが意味がない。


無人機特有の超長時間待機により、反応を消し包囲網に紀伊が入った瞬間全機起動。ジリジリと物量作戦と合間無い連続攻撃で攻めてきている。

そして、攻めあぐねて単機が飛び出たところで集中撃破。

イヌ科の動物の狩りに似ている。


大和は防空母艦にカテゴリーされる戦艦であり、ミサイルなどの誘導兵器は一切ない。

如何に防空用レーザーを装備していても、その発射口の物理的回転速度に対しミサイルの飽和攻撃では対処が難しい。


その為、艦載FAで敵FAを牽制し、ミサイルのルートを限定させてどうにか迎撃に成功している状態だ。


ただセンサーに反応した物体を自動追尾するだけの迎撃砲塔ではそれは無理だ。



『くっ…これ以上は限界です!!』

『奴らは神璽アニマを動力に使ったFAじゃない!稼働限界時間が迫っている筈だ!今の陣を維持するんだ!!』


FA特有の機体周囲に展開される力場、モールド。

これは相互に干渉させることで特殊な重力偏差を引き起こし、FAの防御力を上げてくれる。

これが包囲されながらも紀伊と叢雨を初めとするFA部隊が撃墜されていない原因だ。


そして、神璽アニマは人間の感情という量子波動を機械的エネルギーとして抽出する媒体だ。当然人が乗らなければその動力も、重力制御能力も発揮できない。

それゆえか、この空を支配している機体はどれも通常のジェットエンジンとロケットエンジンのハイブリットで飛行している。


また有人機特有の操縦のムラもなければ、鋭さもない。一言で云えば動きが淡泊だ。



人型機動兵器を無人で動かすAIのソフトとプロセッサー、そしてジェットエンジンとロケットエンジンという原理が単純極まる機構で、人型機動兵器を飛翔させる技術力。

恐らく、宇宙開発と第三次世界大戦で実用化された特殊燃料と最新のエンジン機構学を用いているのだろう。それらを結びつけば、後ろに居る存在は判明出来る。


(おそらく、こいつ等は紛争地用の特殊兵器のプロトタイプ―――高性能な代わりに幼少期からの訓練と量産限度数でパイロットと機体共に量産できないFAを有する日本帝国の包囲網として第三国に外装を変えて売りまくる心算だな。)



『偽物風情に押し切られてると武士の名が廃るぞ……!!』


仲間に激励を飛ばす亮一、しかし叢雨は先の戦闘で中破。

応急処置程度の修理ではこの状況を打破できないし、敵が更なる手を打ってくることは容易に想像がつく。

今、安易に打って出るのは先ほどのように自殺行為だ。


(流れが変わるとき……流転の時を見逃すな……!!)


歯噛みしながら、この半籠城戦を耐え抜かなくてはならない。

その時だ、紀伊の甲板ハッチが展開し、エレベーターが駆動する。


『何!?』


亮一の驚愕、叢雨のバイザーに隠れた無機質の双眸が視線を巡らせた。

其処には紀伊の内部より、叢雨によく似たフォルムでありながらバックパックが存在しない白と赤に彩られた機体が上昇してくるところだった。



『叢雲が……一体だれが!?』


いや、あの機体に用いられている神璽アニマ神璽アニマの中でも特別な物だ。

其れを起動させる事が出来る人間は一人しかいない。


『私です亮一さん!』


叢雲の全身にエネルギーが迸る、叢雨と同じくバイザーの奥の瞳に光が宿り機体が駆動音と共に傍らに鎮座させていた対戦車ライフルを全長を10倍程度に巨大化させたモノを持ち上げつつ立ち上がる。


『バカか君は!?君はクリティカル・エイジを持っていない!!機動は出来ても操縦出来ないだろ!?』

『セミオートモードなら私でも動かせます!』


コックピットのモニターウィンドウに展開された少女、光姫の頑固とした言葉。

こうなったら梃子でも意見を動かさないのは重々承知していた。

それに、今のこのこと収容しても紀伊内部へのダメージを受ける可能性が高くなるだけだ。


其れなら、モールドを干渉させ先ほど一機撃墜された分の穴埋めと同時に、固定砲台として用いる方が効果的だと結論をける。



『つぃ!仕方がない!!くれぐれも下手に動くなよ!スっ転んで海に落ちても引き上げてる余裕はない!』

『はい!』


忠告を飛ばしつつ、再び牽制に入る。

まだ―――まだ、叢雨の片腕を切り落とした奴が出てきてはいない。


(あのステルス性能、こちらの位置が割れている状態だと脅威だ…何時仕掛けてくる?)


神経を限界まで張り詰める。


『ええ~~い!!!』


微妙に気の抜ける掛け声と共に、叢雲が巨大対戦車砲……180mmバーストレールガンをぶっ放す。

だが、未来位置予測の精度が悪いのかパイロットの腕が悪いのか、敵機にはかすりもしない――――十中八九後者だが。


というか、セミオートでは従来の兵器と同じペダルと操縦桿で操作するため、機体の制御演算にかかる負荷が大きく、センサーレーダ系の処理能力が低下するため、全体的に数値として表しにくいが戦闘には大きく影響が出る部分が大きく落ちる。

それに加えて中身がほぼ素人のパイロットなのだから戦力としては先ず期待できない。


(さて……戦力をどう温存しつつこの戦況を抜けるか―――――何っ!?)

『あ、当たっちゃった……』


亮一が真面目に思案しているその横で、場違いな声が通信機から零れる。

そして、モニターには胴体を吹っ飛ばされて爆散する単眼の機体。


奇跡か?―――と思う横で、敵機が全機反転……戦線離脱シーケンスに移っていた。

どうやら、命令が切り替わるその瞬間にちょうど光姫の叢雲が180mmバーストレールガンをぶっ放したため、本当に偶々命中のしたのだ。


(ウソだろ、どんな確立だよ……だが、兵士の気が最も抜ける瞬間を奴はついてくる!)

『た、助かったのか…?』

影光の一機のパイロットが安堵の息を吐く。

その瞬間だ―――――



『―――――――ッ!!!』


ザッパーンと海面を白く割り、海中から漆黒の竜騎士が現れる。

その機械仕掛けの光沢を光らせ、叢雨の片腕を切り落とした大剣を振り被り、機械仕掛けの竜翼を広げフレアを噴射し一気に超加速………超大和級戦艦 紀伊の艦橋を狙う。


『やはりそこかぁッ!!』



電光石火、亮一の叢雨が漆黒の竜騎士と艦橋との間に割って入り、大剣を結晶剣で受け止めた。

力場を凝縮し疑似物質化させた結晶剣と、大剣の刃がせめぎ合い俊電の火花をい散らす。

そう、この瞬間こそが亮一が最も危惧した瞬間だったのだ。


(しかし不味い、致命の一撃は防いだが戦力の均衡が崩れた……!)



反転した筈の機械仕掛けの単眼エイリアンもどきが全機反転、再び攻撃を全方位から仕掛けようとしていた………万事休すとはこの事だった。


その時だ




『叢雲のパイロット、聞こえるか――――ドッキングシーケンスを開始しろ。』



亮一をはじめ、其処に居た一同の誰も聞いたことのない声が通信機から飛び出たのだった。


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