第〇話 流転開始
いろいろ政治がくどくなり過ぎてしまったのと、PCの故障からバックアップなどが消えてしまったので再構成して行くことにしました。
読者様方には混乱を招くかもしれませんがよろしくお願いします。
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人類が三度目の世界大戦を経験してから早、数十年が経とうとしていた。
多国家連合による国家圏の間引き、エネルギー問題に軌道エレベーターの建設、宇宙進出、月開発など人類の科学技術の目覚ましい発展と共に、国際社会はその在り方を変え始めていた。
世界が変わる転機では必ずしも起きる事象がある―――戦争だ。
第三次世界大戦はまさにその起爆剤だったと言えた。しかし、まだ完全な終戦には程遠かった……かつての第二次世界大戦のように。
そして、戦争は科学技術の発展を加速させる――――ステンレス包丁、形状記憶ブラジャー、新幹線、電子レンジ等々……すべて第二次世界大戦・冷戦期に発見・実用化された技術で生み出された物だ。
日本の産業・経済の3割の電力を賄っていた原子力発電も元を辿れば知ってのとおり、広島長崎に落とされた原爆だ。
当然、兵器は科学で作り出され――――武器が変われば戦争の在り方も変化する。
近代兵器の高度化、核拡散により大戦と銘打ってはいてもその戦局は局地化し、泥沼のまま膠着状態を長年続ける事態となったのだ。
高性能化の代償として高騰し続ける兵器のコスト、核による共倒れの可能性、戦後補償の膨大な出費……かつての様な勝者が敗者を蹂躙する植民地政策は事実上不可能となった。
其れが、新たな紛争の火種となり次の代理戦争の呼び水となるのだ。
そうやって世界各地の紛争地で大国が代理戦争を行い続けていたのだ――――2010年初期のシリア内戦のように。
そんな中、紛争地での戦闘を有利に進めるため局地戦に特化した汎用兵器が求められるのは当然の帰結だろう。
その一つとして歩兵を機械的に強化するパワードスーツの開発に各国が躍起となっていくのは時間の問題だった。
だが、正面切っての武力衝突は少ないものの各地の紛争は激化し、パワードスーツによって強化された機械化歩兵とは別の機動兵器の需要が高まりだす。
汎用性を維持したままでのより高機動・より高火力な兵器。
戦線を構築するにあたって複種の兵器を用意しなくてはいけない通常兵器と違い、単機で多戦局に対応可能で、装備を容易に換装でき、誘導兵器に対するジャマ―を搭載可能なペイロードを有したままでの高機動戦闘を可能とする兵器―――――その求める先は、かつてSFなどの空想上で語られた人型機動兵器へと集約されていった。
当時では技術的困難から実用化には至らなかったものの……それは、大戦が終息し、世界が五つの国家圏へと分裂した現在に於いても変わらなかった―――――
そして西暦2070年―――それを実用化にこぎつけた国家があった。
人が駆る乗り物としてのロボットと言う概念そのものを生みだした国家。
第三次世界大戦初期に於いて、日米安全保障条約不履行という盛大な裏切りを受けた日本だった。
「やっと着いたか……さすがに暑いな。」
ジリジリと照りつける日差しに眉を細めながら、焼けたアスファルトの地面に降り立つ。
沖ノ鳥島――――日本の最南端の島である。
以前はただ24時間365日海面から顔を出しているだけの岩だったが、人工島として生まれ変わり、宇宙開発の最先端と成っていた島だ。
何故なら宇宙開発、つまりはロケットの打ち上げは地球の自転による遠心力で重力が相殺される比率の高い赤道が最も効率よく宇宙へ進出できるからだ。
実際、多くの衛星や軌道エレベーター建設のための資材がこの島のマスドライバーから打ち上げられた。
「あれが日本最古にして最大のマスドライバーか、さすがにでかいな。」
手で日差しを作りながら港区からでも視界に収まりきらない陽炎の向こうに容易に判別がつく巨大な橋とも、鋼鉄の万里の長城とでも形容できそうなレールを見やる。
マスドライバー、その概念自体は古く1,865年に小説で語られたものが初出だ。
その発想は恐ろしいまでに単純、巨大な大砲の砲弾に人や物資を載せ宇宙にまで打ち上げるのだ。
そして、その大砲にレールガンを使う……それがマスドライバーだ。
尤も、軌道エレベーター完成と同時にその役目を終え、モスボールされ今はこの島の記念碑扱いらしい。
文字通りエレベーターである軌道エレベーターと違い、マスドライバーは巨大な電磁カタパルトであるため消費電力と物資輸送の効率が悪すぎるのだ。
しかも発射しか出来ず、速度が速度であるため危険はどうしても付きまとう。
その為、着陸施設が必要とされ当然この島にはそれも存在する。
運用される設備・資材を整備・活用する人間、更にその人たちが暮らす為に必要な施設、更にある意味国境にもっとも近い軍事的に重要な場所でもあるため軍事施設なども備えた正に要塞ともいえる一大人工島へと変貌していた。
「さて、観光も悪くは無いが……それは後にするか――――こんなガラクタに今さら何の用かは知らんがな。」
自虐的な笑みを浮かべ、薄茶色に陽光に透けた髪を靡かせた青年が歩き出した。