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光霊機アウゴエイデス  作者: 霧丸
序章、一期一振
4/11

流転開始

人気の無い無人島の一つ、そこに墜落した輸送機は地面を抉り、そして幾つもの木々をなぎ倒しながら森の中腹あたりで停止していた。


その傍らに膝を着き鎮座する白と青の装甲を持つ機体…叢雨がその飛行機能を失った輸送機を見守っている。―――――だが、その叢雨の鋼鉄の四肢は右腕を欠いていた。


ステルス特性により奇襲を受けた叢雨は右腕を切り飛ばされた。

さらに敵はそのまま叢雨の、切り飛ばされた右腕が持っていたサーマルライフルを奪うと、輸送機のエンジンの内、左側の二機を破壊したのだ。


そんな墜落した輸送機の内部で、厳つい軍服を纏う黒河の髪を流す少女、光姫が手傷を負った青年を労わる。



「大丈夫ですか亮一さん………」

「大丈夫だ、右腕を仮想骨折しただけだ。」




座席に座り首から吊り下げたギブスに右腕を固定した状態で亮一が光姫に答えた。

FAは起動時にパイロットと密接にリンクする。その為、鋭敏な操縦を可能とするがそれは諸刃の剣。


機体の損傷が、パイロットにフィードバックしてしまうのだ。

その為、先の戦闘で右腕を切り落とされた叢雨のダメージ、信号の衝撃を神経系に直接受けてしまったのだ。


其れは仮想骨折という現象を彼の体にもたらす。

強烈な刺激で、右腕の神経が骨折したように麻痺してしまったのだ――――こうなると二・三日は右腕が使い物に成らないどころか、時折酷く痛む。


けれども、頭部に直撃を受けたり、あまりに大きなダメージを一度に受けると最悪ショック死の可能性もあるため、右腕一本で済んだのは行幸な部類だ。



「にしてもトンでもない奴だった…」



苦虫を百匹ほど纏めて噛み潰したような苦い顔をする亮一。

脳裏に過るのは漆黒の機体、夜闇が凝縮したような装甲に、竜騎士のような攻撃的なデザインと大剣を装備したあの機体。


仮にも最新鋭の専用機を与えられるほどの腕前、そして世界初のFAパイロットの一人として幼少期から積み上げてきた研鑽の成果。

目的を果たしたと云わんばかりに、敵は反転し雲海に消えた――――亮一は片腕を失った状態の機体を操り失速コースにあった輸送機を叢雨で支え、どうにかこの無人島に軟着陸させたのだ。



それは気が遠く成るほどの精鍛の結果だった。しかし、それ程にさえ卓越した空間認識能力と、操縦センスを以てしても出し抜かれたのだ。


亮一の最強一角としての自負と矜持は痛く傷つけられていた。

けれども彼の心を苦くしているのは、それとは別の懸念だった。



「ええ、亮一さんと叢雨相手に、輸送機を墜落させない範囲で航行不能に陥れた技量。さらに片腕を奪った戦闘センス……侮れません。

 しかし一体何者なのでしょう……FAの動力であるエキゾチックマテリアルは、日本でしか生産出来ないのに。」


「―――多方、鹵獲したか横流しされた機体のモノを流用しているだろう。今回の襲撃で上層部に内通者が居るのは明白だ。

 しかも、アイツは叢雨のサーマルライフルをそのまま使った。武装規格もそのまま使われていたんだ。」



FAはその動力に未知の物質であるエキゾチックマテリアル、神璽アニマから放出されるエネルギーを電力に変換し駆動している。

だが、この物質は通常では生成することすら出来ず、製造環境・技術を持っているのは日本のみだ。


そして、その軍事的有用性から管理にはシリアルナンバーが打ち込まれ、厳重に管理されている筈だった―――――つまり他勢力のFAとの遭遇ということは其れだけ上層部、それも国政に関わる人間の暗躍があることを示している。

しかも、末端とはいえ軍需規格であるFAの携行装備の規格が流出していた―――これは、相手が正規戦闘を行わず、局地戦などで此方の装備を強奪する意図があることも伺わせる。


また、アサルトライフルをそのまま使われたという事実は、

ガンカメラ・信号伝達・プラグの物理的形状・供給電圧・制御ソフトなど………それらが一切流出していたという事実に敵の根がどれほど浸透しているのかと、恐ろしくなって疑心暗鬼に駆られそうだ。



「でも、其れだけとは思えません……エキゾチックマテリアル、神璽アニマは分割培養して量産されている。けれどそれ故にオリジナルから遠くなれば成るほど其の能力は劣化します。

アレだけの出力、一桁ナンバーの……それも、ナンバーⅤ以上の神璽アニマでも使わないと………」

「間違いない……あの感触、あの機体に使われていたのはナンバーⅣの神璽アニマだ。」



光姫の疑問に亮一が血を絞るように吐き捨てるように答えた。

神璽アニマには個性とも云うべき、エネルギー周波数の時間的変異がある。

エネルギー放射の余波をモールドという防御フィールドに転化してるFA同士の戦いでは機体同士の接触により、神璽の個性をパイロットが触感にも似た第六感で感じ取ることが可能なのだ。


それを耳にし、瞠目する光姫。ナンバーⅣの神璽アニマは10数年前に失われた筈だったからだ。


神璽の中でも、オリジナルから直接分化して生成されたⅡ~Ⅴ番のアニマは他の量産型FAに使われている神璽とは一線を化す。

それは例え機体性能に世代を超える差があっても軽く覆してしまうほどのアドバンテージを齎すのだ。


例えば、最新鋭機である“叢雨”で有っても一般的な神璽を搭載した状態で、最初期のFAである“景光”にⅡ~Ⅳの神璽を搭載して戦えば。


“叢雨”であっても勝率よりも敗率の方が遥かに高い。



「そんな……!?だってアレは……汐梨しおりさんと一緒に……」

「身内に火事場泥棒が居たんだろうよ……!

敵は、アイツの神璽アニマを奪って利用してやがるんだ………!!」



自由が効く左拳を固く、固く握り占めて亮一が憎悪を吐き出した。

使えるものは何でも利用する、確かに合理的だ。戦争なのだから何でも有といえば有だ。

だが、心は納得しない。


心境的には仇敵に、親しき者の刀を奪われ振りかざされている戦国武将のそれに近い。



「つくづく……他人の褌で戦争をするのが好きな連中だ……絶対に取り戻す……!」

「落ち着いてください。確かに奪われた神璽アニマの奪還は急務ですが、私たちには重要な使命があります。」



――――そうだ。

今はまだ、この胸に滾る怒りを爆発させるべき時ではない―――解き放つべきその瞬間にまとめて爆発させるのだ。


闇雲に怒りをまき散らすだけでは只の獣だ。

感情を理性で抑え込むのではなく、感情に理性で方向性を持たせ、制御するのだ。



「―――悪い、気が立っていた。今の俺たちにはアレを……叢雲を本国に送り届けるという使命があったな。」



握りしめた拳を解き、前髪を掻き上げながら、憤怒を飲み込んだ亮一が謝罪する。

この輸送機に搭載されたコンテナは二機、片方には護衛として亮一の叢雨……そしてもう一基には―――世界の希望が載っていた。


叢雲、日本神話において八岐大蛇の尾から出てきたと云われ、天羽々斬という神剣を欠けさせた三種の神器に因んだ機体。


―――その機体に操者は未だ居らず、目覚めの時をただ、ただ待ち、複合材の棺桶の中で眠ったままだった。



「―――お二方!救助艦の艦載FAと連絡が付きました!救援です!!」



その時だった。この輸送機の副機長が安堵ゆえの興奮を携え、操縦室から飛び出して来たのだった。



「良かった……これで皆助かります。」

「それはどうかな―――アイツは撃墜出来たのにやらなかった。つまり、確実に目的があるという事だ。

 さっきの戦闘で足を潰された……次からは本命が来るはずだ。」


「……やはり、彼らの目的は。」


「間違いなく“叢雲”だろう。奴らは何があってもアレを手に入れたいらしい―――覚悟しておけ、これからもっと人死にが出る。

 敵にどれだけの情報が流れているか分からないが、今度は特殊部隊が乗り込んでくる可能性もある―――君も標的に入っている可能性がある。」



冷静さを取り戻した亮一が冷徹な声で言った。


現状を見据え、敵の狙いを推察する彼の言葉には説得力がある。またそれを杞憂と足蹴にする事は出来ない、あまりに用意周到すぎるから。


輸送機を落とすだけなら何時でも出来たのだ敵は、それを敢えてやらず、輸送機が軟着陸できる程度の損傷を与えた……確実に、中に乗っている存在を確保したいがための動きだった。

それに鎮痛な眼差しで、只々その現実を噛みしめる光姫。其処には軍服を纏いながらも、軍人ではない少女が居るだけだった………。




それから数刻後、暗雲立ち込め、スコールの槍のような暴雨が今にも降ってきそうな空を背に4機のFAが輸送機と叢雨の元へと降り立つ――――。

かくして、運命の歯車は噛み合い。火車の如く回り始めるのであった。




神璽ってのは勾玉の別称で、大昔は剣の柄に勾玉を埋め込む場合があって、そういう剣は剣璽って呼ばれたそうです。


つまり、機体=剣。動力マテリアル=勾玉だから神璽。

機体名が基本的に日本刀由来なのも之が原因です。

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