抜けば玉散る氷の刃
『接近中の所属不明機に次ぐ、大東亜連合の領空内に於いて違法行動を取っている―――直ちに転身し、去れ。尚勧告に従わない場合は貴様らを敵性体と見なし破壊する。』
叢雨の通信機越しに警告をオープンチャンネルを通して発する。
聞こえていないという冗談は通じない。
基本的に専守防衛が理念である国防軍は正当防衛以外では攻撃行動を赦されない―――しかし、自衛隊とは違いロックオンにより即座に反撃を行える権利を持っている。
敵が攻撃して来るのを態々待ってからの反撃では、兵士に死ねと言っているだけだ。
そんなデタラメの法に縛られた軍隊がかつて日本を守っていたと言うのだから呆れるばかりだ。
之は、嘗ての中国・韓国に対するハト派外交がかの国の増徴を許し、結果として第二次世界大戦と全く同じ過程を経て、第三次世界大戦に突入したためだ。
第二次世界大戦、第三次世界大戦それぞれに共通するのは、タカ派外交またはやくざ外交とも呼ばれる恫喝を基本とした外交により、独裁国家が戦争をしたくないという相手のロジックに突けこみ、外交上の利権や土地などを奪い国力を増強した上で、特定の国家を驚異に仕立て国民感情を煽り最終的に強大化させた軍備で最終的に武力侵攻に至る。
そして、周辺国は武力侵攻を危惧して当然同盟により軍備増強を図るが、タカ派外交を行った国家が軍事侵攻を行い、同盟関係の国を全て巻き込む為に戦火が世界へと広がるのだ。
第二次世界大戦は、ドイツのポーランドに対する武力侵攻が発端であり、敵の敵は味方という事で同盟を組んでいた日本は第二次世界大戦に巻き込まれた。
つまり、欧州の火種が太平洋戦争の火種へと引火したのだ。
『まぁ、聞くわけ無いわな』
ロックオンアラームと共に、機体の視界を投影した全周囲モニターに重なって紅い警告が表記される。
呆れを含むため息と共に機体を操作、同時に飛来するモニターに映る敵影が多弾頭ミサイルを発射する。
回避行動を取るが、そのミサイルが全て叢雨の機体を追いかけるてくるのを確認する。
『俺には撃ってきて輸送機を傷つける気は無い―――つまり、狙いは積み荷か。
全く、情報局の奴等ちゃんと仕事しろよ……情報が筒抜けだろうがッ!!!』
吐き捨てると、最新鋭機であるFA,叢雨の本当の能力を開放する。
馬鹿でかい両側面を覆うシールド、其れは見たままの防護装備という訳では無い。
両肩のシールドの装甲がそれぞれ自在に稼働しつつも、青白いプラズマの炎を吐き出し始める―――人工衛星の姿勢制御に使われる電磁推進システムだ。
特徴としては化学ロケットに比べ比推進力が格段に高く、実用出力さえ獲得できれば通常のロケットエンジンなど比では無い加速を得られる。
原理的には収束率を低下させた荷電粒子砲と思えばいい。
背の重力子噴射スラスターと相まって、叢雨に超機動を可能とさせるのだ。
一瞬で超音速に突入し、ヴェイパーと呼ばれる圧縮された空気による結露現象から成る白い雲の尾を引く。
弧を描いて雲海の上を翔ける機体を追従するミサイル群―――それに対し即座に反転、その腕に所持したドイツのH&K G11アサルトライフルをモデルにした57mmサーマルガンを発射する。
―――ドドドドドッ!!―――
FAが放つアサルトライフルの反動の感触が伝わってくる。。
相対速度がゼロの切り取られた刹那の時間、後尾を追従するミサイルに突き刺さる弾丸がミサイルを誘爆させる。
―――……ドゴォオオオオオオオンっ!!―――
空中に咲く、爆炎の彼岸花が視界を一瞬埋めた。
誘導兵器が健在のこの世界では、ビームやレーザーのような強力だが連射が効かない兵器よりも、マシンガンのように連射が可能かつ、構造的信頼性の高い武器が主だ。
『―――戦術もへったくれも無いな。』
ぽつり、と独りだけのコックピットで呟く。
遠距離で誘導弾を使う、それ自体を見れば特に問題が無い。
だが、ミサイルのような兵器はFAからしてみれば文字通り猪突猛進―――反射反応でも機体を動かせる為、よっぽどの不意打ちでない限りミサイルを回避できるのが一般レベルだ。
そして、宇宙飛行士が活用するANBACと呼ばれる四肢の運動による慣性変化・重心移動を用いた柔軟な三次元機動能力。
その圧倒的な運動性能にモールドと呼ばれる防護フィールドを展開する特性を持つFAには有効打撃と成り得ない。
また、ミサイルは誘導のために自ら大量の熱と電波を発信しているため、FAはその熱量と電波を逆利用すれば迎撃は十分可能。
先ず、相手の動きを抑え回避運動を制限した後にミサイルなどの誘導弾を通常攻撃と織り交ぜ波状攻撃を行うのがこの場では有効だ。
其れを行き成り全機がミサイルを発射―――こっちを舐めているのか、それとも考えが無いのか。…或いはこちらの想像もつかない戦術か
―――考えて居ても仕方がない。
『……往けっ!!』
背面の大型バーニアと両肩のプラズマスラスターが連動し、音を遥か彼方に置き去りにして白と青の装甲を持つ重騎士風の機体が翔ける。
あっという間に、敵に急接近する―――敵のFAは日本製のソレとは違い、肩と背に剣状突起をもち、全体的に細身で曲線と直線の織り交ざったフォルム
そして前後に長い頭部と単眼が合わさって何処か映画に登場する宇宙人の様だ。
三機の機体は両肩に装着されたミサイルコンテナをパージし、二機が左右へと広がり挟撃を行おうとする。
『フラットシザースか……温い!』
両肩のプラズマスラスターが爆裂する―――圧倒的な加速、挟撃ため左右に分かれた敵機を置き去りにする。
直線運動と挟撃の為の弧曲機動ではどちらが加速を得やすく、距離が短いかは言うまでもない。
空中で、急遽方向転換した二機から背後へ、アサルトライフルの照準が追いかけてくるが、あんな不安定な姿勢では殆ど当たらない。
あたっても、数発程度なら機体のモールドが弾く。
『抜刀!!』
腰部サイドアーマーのナイフシースが展開、刀の柄がせり出す。
そしてそれを抜き放つ、銀単子を核に刀身固定、モールドをコーティング、結晶化
柄しか存在しなかった剣に銀の筋が通る翡翠の結晶の刀身が構築される。
『うぉおおおおッ!!』
正面の機体が機関砲を斉射し、背後から挟撃を行おうとした二機も機関砲の狙いを定め斉射する。
しかし、両肩の大型シールド兼大型ブースターであるユニット独自に動き、変幻自在な機動を行い砲弾は叢雨の機体を捉える事が出来ない。
そして超加速した機体がついに敵機の懐に踏み込んだ。
『遅いッ!!』
咄嗟に突撃銃を向ける敵機、その手に携えた刃でその銃口を跳ね上げる。
そしてブースト、加速の乗った膝蹴りを敵機の腹部にめり込ませ続く回し蹴りにより叢雨と敵機の位置を入れ替え、背後へと流す。
自身との間に味方機が流された為、一瞬射撃を戸惑う挟撃を行おうとした二機―――その瞬間が命取りだった。
『纏めて消えろッ!!』
両肩のシールドが角度を90度変え、プラズマスラスターの青白い火炎を噴きだす噴射口が敵捉える。
迸るプラズマ、そして収束する光―――やがて、閃光の槍が解き放たれる。
『スラストビームキャノン―――いけぇッ!!!』
両肩の大型プラズマスラスターは収束率や出力を制御しただけで、荷電粒子砲と全く同じ原理・構造の機構。
その大型の機甲は盾でもあり、ブースターでもあり――――そしてビームキャノンでもあった。
空気を、音を吹き飛ばし奔る一条の閃光。超高熱のプラズマの奔流は三機の内二機を完全に呑み込み瞬時に粉々に砕き。破片は融解、そして蒸発―――残った外延部に居た一機も半身を余波の衝撃波で吹き飛ばされる。
力なく墜ちてゆく機体。突如、その漆黒の機体が突撃砲を輸送機に向けた。
『――やらせん!!』
叢雨、右手に握られたサーマルライフルの銃口が敵機に向く。
感覚で動かしているFAは外観上のアクションはなるべく人と同じである事が望まれる為、この銃にも引き金は存在する。
――――そして引き金を引く。
ダダダダ
機関銃の銃口が火を噴き、プラズマの残光を引きながら銃弾が敵の持っていた突撃銃を射抜いた。
刹那、暴発する突撃銃の爆発――――敵機は唯一残った片腕さえも吹き飛ばされる。
錐もみ状に回転しながら落下する機体には、超加速により既に刃を振り被った叢雨が肉薄していた。
「――――フンっ!」
落下速度を利用しての頭上から急速降下のままのすれ違いの斬撃が、片足しか残っていないエイリアンのような機体の胴を泣き別れにした。
一瞬遅れて爆散する機体の爆光を背負いUターンで高度を回復する叢雨、一先ずの息をつく亮一に通信が入る。
『お疲れさまです亮一さん。』
通信が入り、視界にウィンドゥが展開されたそして映る一人の少女が彼に労いの言葉を掛ける。
だが、しかし―――
『―――妙だ、呆気なさすぎる。』
負に落ちないと云った表情の彼
事前に情報をサーチしていたにしては脆すぎる………積み荷を狙う理由は世界中何処にでもあるが、この襲撃は事前に準備が為されていたにしてはお粗末すぎる。
拭えない疑問が不快感となって脳裏に沈殿する。
――――――そんな時だ。
“ビー!ビー!ビー!”
鳴り響く警告のレッドアラーム、視界に表記される警告から雲海に敵を潜んでいる事を悟るとセンサーの指示に従ってサーマル突撃砲の弾をばら撒きつつ、両肩のプラズマスラスターを噴射させ急いで距離を取る。
『この距離まで気付かないとは―――ステルス機か!?』
その時、漆黒の竜騎士のような―――昆虫などに見受けられる曲線の輪郭を持ちつつもシャープなフォルムに、一角の角と竜の翼膜に似た翼をもつ夜闇の機体が雲海を突き破って現れ、異常な速度で叢雨に迫りその手に握る大剣を振るった。
「――――くっ!!」
叢雨の結晶剣と大剣が衝突し、電光石火を散らした――――――