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光霊機アウゴエイデス  作者: 霧丸
序章、一期一振
2/11

戦後レジーム

父が死んだ。

東京へ出張中の出来事だった―――幼心に大好きだった父は、冷たく只の物となって帰ってきた。


一緒に、山で、川で、海で、空き地で、プールで遊んでくれた父はもう、居ない。

弟とバカをやっては拳骨を落とした父はもう居ない。

弟が生まれるとき、インスタントのチャーハンを作ってくれた父はもう居ない。


曽祖父の葬式で見た通りに柩に収められた父の姿。

己の周りには黒い喪服姿の人間たち。

母は泣く事もせず、弟は父の死も理解できず沈んだ空気をどうにかしようと必死にバカをやっては、周囲の者たちの涙をさそう。


その時、玉串を手にした俺の心を占めたのは……怒りだった。

小さな白い欠片になってしまった父を壺に収める俺の胸にあったのは憎悪だった。



それから10年あまりの月日が流れた―――――未だに、何が父を殺したのか、何故、どうしてという行き場のない怒りと憎悪ばかりが、胸を焦がす炎として消える事なく燻っていた。









「………」


空を見上げる一人の少女、艶やかな墨を落としたかのような黒髪を靡かせる何処か儚い雰囲気を纏う少女が空を見上げる。

少女の可憐さに似合わず、空には一本の柱が天空を貫きそびえ立っていた、炭素複合繊維で編まれた巨大な摩天楼。


現代のバベルの塔、軌道エレベーター。

さらに、その場は軍の滑走路であり無骨。また少女が身に纏うのも国防軍の軍服でありまた無骨。


彼女は突風により靡く長髪を片手で抑え空を見上げる。

卵型の顔にすうと通った鼻にぱっちりとした目が印象的でやや幼さを残す少女だ―――そんな彼女に話しかける人物がいた。



「青空に儚い願いを飛ばす少女……何ともそそるな。」

「その儚い願いさえも、かなえてくれないのはどなたですか。」



じろり、とジト目で振り返りながら苦言を漏らす。

言葉と視線を向けた先には一人の青年、少女と同じ所属を示す軍服に胸には交差した刀と銃の意匠を凝らしたマーク……人型機動兵器、FAのパイロットの証明となる紋章


「仕方がないだろ。受給者レシピエント提供者ドナーの直接面談は御法度なんだから――」

「しかし、私に命をくれた人を知りたいと思うのは当然の感情ではありませんか?」


そう言いつつ、少女は胸に手を当てる。

その彼女の胸の内では、どくんどくんと心臓が鼓動を打つ。――――彼女、生来のモノではない心臓が



「臓器移植ってのは難しい問題なんだよ。ドナーにとってはボランティアの一種だ。だけどレシピエントからしたら命の恩人、感謝したいという感情は当然だけど、その後に謝礼などを渡し始めるとそれは臓器売買と変わらなくなってしまう。

―――それを防ぐためだ、例外は認めちゃいけないんだ。」


「言っている意味は分かりますよ―――でも、私は直接『ありがとう』と言いたいのです。」

「気持ちは分からんでも無いけどダメだ。――それに手紙では言ったじゃないか。」


「いけずぅ………私は直接言いたいんです~」



むぅと剥れる、唇を尖らす少女に居た堪れなさから青年は肩をすくめる。

別にいじめようとしてやって居るわけではない。それには相応の理由がある―――故に例外は許しては往けないのだ。

………事故を除いて



「まあ、縁があれば出会えるさ……前に言ったように心臓は君にあげたが、そいつは死んだ訳じゃない。ちゃんと再生医療で新しい心臓を胸に収めて頑張ってるさ」


「とりあえず納得されてあげますか―――」



飄々と語る青年に嘆息しつつ、しぶしぶに納得する。

だが、少女の心はあの蒼々と広がる青空へと馳せている。この空の下に思い人は居るはずだと―――


先天的な心臓疾患を患っていた。その為の数度にわたる心臓手術―――補助人工心臓を付けて過ごしていたが、ついに恐れていた事が起きた。


人工心臓に対する拒絶反応だ。

再生医療が進んだ現在だ、特殊な薬品で洗浄し細胞を全て排除した心臓の骨組みに被験者の培養した細胞を移植し、その後完成した心臓を移植する。IPS細胞などの全能性を持つ細胞を分化培養することで心臓を新たに作り移植するなど幾つかの方法があった。


しかし、人工心臓に対する拒絶反応に対応するには時間がかかり過ぎ、製造していた新たな心臓もIPS細胞の欠点である癌化が起き移植が出来なくなった。



彼女の死は最早時間の問題だった―――――そんな時だ。

彼女に適合する心臓を持つ人間が見つかり急遽、移植手術が行われる事となった。

提供者は仮の心臓が出来るまでの間、完全置換型人工心臓で命を繋ぎその猶予の間に再生治療がうまく往った為、今では健康に暮らしているという。


少女は、その命を分け与えてくれた人に会いたいと、願う。

しかし法の定め故にそれは出来ない、知る事さえも。―――故に彼女は願う、逢いたいと。



「まあ、兎にも角にもその恩人を護る為にも、俺たちは任務を遂行するとしよう―――な光姫みつきお嬢様。」

「そうですね、ではエスコート願いますよ亮一さん。」


「俺と叢雨にお任せあれ」



青年、亮一は己の心臓の真上、左胸へと手を当て頭を垂れる。

紳士、或いは騎士然とした対応―――その姿は姫に仕える武士もののふのようだった。








そして数刻の時流れ、二人は大海原と見紛う雲海の上を飛行していた。

―――当然、生身では無い。平たく潰れた流線型、種子状の様なコンテナを左右に背負ったジャンボジェット機をさらに巨大化した超巨大な飛行機に乗っているのだ。


垂直尾翼は二つに増え、船体はさらに巨大化しており翼に備え付けられたジェットエンジンも通常の4基から6基へと増築されている―――だが、それはまかり間違っても旅客機では無く。軍用の輸送機だ。



「亮一さん、八代隊長は何故わざわざ機体を空輸しようとしたのでしょう?」

「恐らくは、単純に時間を節約したかったのと機密の漏洩を最小限に抑えたかったからだろうな。」


「海路で輸送したほうが秘匿できると思いますが―――」

「新政権に移ってまだ20年たってないんだ。気は抜けないし、何処に売国奴どもが潜んでいるか分からないからな、関わる人間は少ない方がいい――新自由主義者どもは至るところに潜んでいる…終戦百年を超えても戦後レジームは脱却できていない。」



大型輸送機の座席で肩を竦める亮一。新自由主義、簡単に言えばアメリカンナイズとも呼ばれる主張だ。


それは資本主義経済の金の動きをある程度抑制する規制法の大規模緩和により経済市場が活性化し、経済活性化を阻害する国政は福祉のみに限定した経済政策を行うべきだという主張。


しかし、これは極端な話、バブルを発生させやすくしインフレ化の抑制さえ行えないという話だ。

ごく一部の高所得者、所謂、大企業経営者や財閥にとっては不景気状態のほうが自らの財産価値を釣り上げる状態である都合がいい。



その典型例が2008年のリーマンショック。その始まりは1990年代のサブプライムローンにある。

通常、ローンなどの金融はある程度の身分証明が必要だった。しかしそれを無くし、初期の返済金額は少なめに設定したのがサブプライムローンだ。


数年後の生活安定や年功序列による給金向上を、仮に返済が行えなくとも大規模なインフレにより、地価等の不動産が購入当初より値上がりする為、売却すればお釣りが来るというロジックを念頭に置いた金融の規制緩和が行われたのだ。


しかし、之は取らぬ狸の皮算用以外の何者でもなく、正直な話博打だ。

その結果、バブルは焦げ付きアメリカは大恐慌の不景気に突入した、またアメリカは自国通貨が世界通貨である$であった為その波紋は世界にまで及んだ。



また、1990年以降の日本の不景気を邁進させてきた政治家はこの新自由主義者が主だ。

結果の失われた20年を見れば、利己的な性情で国を動かした結果は火を見るより明らか。


新自由主義とは、決して平等ではない。強引な水平化でしかない。

何故なら、一部の者が利権を貪るために都合のいい思想でしかないのだから、そしてそれは結果として一部の利権者の思慮も礼節も欠いた自由を担保する為に、大勢多数の無辜の民の生活を破壊し貪り食らう。


水平と平等を同一化した場合、それは平等の名を持った弾圧になるのだ。

だが、リーマンショックなどの数々の不景気による大量の自殺者や、ホームレス等を―――多数の人間の生活をぶち壊した張本人は、民主主義の特性により粛清されることもなく儲けた悪銭を使い、退陣後に悠々自適に過ごす。



政権交代後、前政権が決定していた外国産のしかも、耐用年数超過原子炉の廃炉を白紙に戻し、福島原発事故を起こした張本人である、とある総理が退陣後をどう過ごしていたかを見れば一目瞭然だろう。

これが、極端な資本主義と民主主義が一つになった結果である。




「太平洋戦争の本質は米西戦争と同じで、傀儡政権を作ることが目的の一つでしたからね……厳密にはニューディール政策の失策を誤魔化すためにルーズベルト大統領が起こしたモノですが。」


「この百年の禍根、そうそう断ちきれないさ――現在、軌道エレベータを所持しているのは俺たちとアメリカの二大連合だけだ。

市場を独占を果たす為にも、また世界の覇者として君臨する為にもアメリカはアジアでの復権を果たす為に再び侵略を行うだろうな。」



軌道エレベータ、ロケットと違い巨大なエレベーターで物資を輸送するその一大建造物はその巨大さに反し酷く脆く、防衛が困難だ。

だが、ロケットと違い効率的に物資を宇宙と地上を行き来させる事のできる、という利点はそれを補って余りある。


シンガポール、バタム島に建造された軌道エレベーターは隣町であるナゴヤと共にその経済効果により非常に潤っているが、防衛観点から日本帝国連合艦隊が駐屯している。


そして、二人今乗っているこの輸送機はその連合艦隊に見送られて出発したばかりだ。



「…日本へ、アレを輸送するにはアメリカ勢力であるフィリピンの近海、南シナ海を横断し、台湾で補給を受けた後に向かうしかない…奇襲があるかもしれませんね。」


「逆に、奇襲が有れば内部、それも上層部に内通者がいると言う事になるな。

安心しろ―――何が来ても俺と叢雨が在る限り、君たちには指一本触れさせはしない。」


「―――それ、ちょっと臭いですよ。」

「思いは言葉にしないと伝わらないし、形にも成らない―――事、FA乗りにとっては守るという明確な意思を持つ事が一番大切だ。臭いだの気障だの四の五の言うくらいなら、誓いを口にした方がマシだ―――まあ、その結果はクーフーリンかも知れんがな。」



皮肉気な笑みを零す亮一

クーフーリン、紅き魔槍ゲイヴォルグを持つアイルランドの光の神子。光神ルーの息子

彼は自身で幾つもの誓いを立て、才気あふれた英雄だった―――がその結末は、姦計によって自分自身で誓いを一つずつ破らされ、そして弱者の生き汚さを笑いながら破滅の末死んだ。


自分が誓いを自分の意思で破らされるかもしれないとを暗喩するあたり、亮一の性格が表れている。

 それは青臭い理想と、客観性を合わせた人物であることを物語っている。



「まったく、青臭い言葉です。『思いは言葉にしないと伝わらないし、形にもならない』だけどいい言葉です。」

「言ってろ」



シャムネコのような、人をからかう笑みを張り付けた黒澄の少女の言動にぶっきらぼうに答える青年―――しかしそんな時だ。



『エマージェンシン!!!エマージェンシン!!当機に所属不明機が急速接近中―――戦闘機じゃない……FAです!!』


輸送機のパイロットが緊迫した声で叫ぶ。

戦闘機とFAでは有視界領域内では、羽虫と猛禽類ぐらいの戦力差がある―――こと戦闘用の装備を一切持たない輸送機であれば一撃で沈む。



「やはり来たか―――おい、右翼コンテナの展開準備に入れ!叢雨で出る!」

「平和とは難しい物ですね…」



耳元に装着した開放型超小型インカムから指示を飛ばす亮一に、少女光姫が難しい顔で言った。



「戦いに正義があるから争いは無くならないんだよ、正義だから何をしてもいいってな。

……こと、労わりの歴史を持たない連中ほど正義を信仰し礼節を持たない。また、当然の権利とやらを主張する。

 賢者は歴史から学び、愚者は経験からしか学ばない。そして白痴は経験からさえも学ばない―――歴史を紐解けばその民族、国家がどういう性質を持っているかは一目瞭然だ。」



礼節亡き争いは虐殺の悲劇を生む。

植民地支配に端を発する近代の戦争の殆どは、相手に敬意を払い行われた物ではない。

いずれも、礼節を持たない争いの結果だ―――一言でいえば、品が無い。



「悲しい事ですね。」

「ああ、悲しい事だ―――だが其れがヒトの世界さ」



少女は青年の背を見送る、其れしか出来ないが故に

そして、空を切る輸送機の内部を移動した亮一は右翼の上に乗るコンテナへと移動する。

コンテナ内部には鋼の人型。人の10倍近い体躯を誇る機甲。


日本で開発された最新鋭の機動兵器――日本がアメリカからの半独立状態から脱却すると共にその鎖を断ち切り、太平洋戦争の過ちを繰り返さないための力が眠っている。


再び、自らの尊厳を奪われないために、

再び、ただの暴力に屈する事のないように

再び、法の真理を奪われないように




「―――さて、行くぞ」


操縦席に座る独りの青年

コックピット、戦士の鋼の揺り籠であり棺桶にて自身の愛機を呼ぶ亮一。


座席の展開されていた装甲が閉じ、手足を包みロックする。

感覚を投影するのではなく、幼少期などの特定の年齢に至るまでの能力獲得期クリティカル・エイジにより獲得した感覚で動かす。


亮一の主観では、自分の躰を動かすのを右手を動かすに例えると、FAを動かすのは左手を動かすような任意の切り替え可能な感覚だ。


「ストリーム・リアクター出力上昇、モールドオープン」


ガチリ、と何かが連結する感触。躰の奥底、存在の根本にプラグが有り其れが機体と接続するようなイメージの“感触”だ。



「カーゴを展開しろ」

『は、了解!カーゴを展開します、カウントダウン開始10、9、8、7…』



カウントダウンが減ってゆく、否応なく戦意が高揚していくのを感じる。

それに呼応し、機体の出力を表すゲージが上がってゆく、エネルギー変換効率は約60%。と表記されている。

それでも原子炉十基分にも及ぶ膨大な電力が生み出されている。


この次世代型のジェネレーターは優秀なようだ。



『6、5、4、3、2、1、―――0!』


一気にカーゴが左右に開く。そして陽光に照らしだされる白と青の鋼


『ロック解除!』


左右に開いた種子のような形状の輸送コンテナの固定アームが外れる。

白と青の機体は全身に空気の圧力を受け減速、相対速度差により輸送機が叢雲の機体を置いて先行する。


緩やかに落下を始める機体――――



『起きろ…叢雨!』


その、スポーツサングラス型の緑翠色のバイザーを透かし、機体のツインアイに光が灯る。固定されていた関節が一斉にアクティブモードに移行、各部が一斉に駆動を開始する。


機体全身を疾走する超エネルギー、正しく機体に息吹が吹き込まれパイロットという魂が封入され冷たい鋼が、熱い刃金に成る。


空気圧と慣性を操作し、鋼鉄の戦士が空中に踏ん張った。

その威容、まるで騎士とスポーツカーが入り混じったようなデザイン、白い機体本体に藤色の装甲が映える―――しかし、何より目を引くのはその機体の側面を丸々覆うほどの巨大なシールド。


それはバックパックの側面から延びた柔軟かつ重厚なフレキシブルアームによって支えられ肩を覆う様に左右に存在する。


そして、バックパック背面に存在した大型のバインダー状のスラスターが上下に開き、“く”の字状となり緑翠のフレアを噴射する。



「叢雨、安芸 亮一これより敵性体に対し防衛行動に移る」


スラスターが吐き出すフレアを爆裂させて機体が蒼穹の空を翔ける。


尊敬している政治思想家


・フーヴァー元大統領

・エドマンド・バーグ

・ウラジミル・プーチン

・北条政子

・ニコラス・マキャベリ


最悪の政治家と思う連中、ぶっちゃけたら政治家ですら無く只の殺人鬼、サイコキラーか、サイコパスの類。

・スターリン

・フランクリン・ルーズベルト

・トルーマン

・李承晩

・桂小五郎

・大久保利通



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