幕間
サーヌ視点です。
「どうしたの、それ?」
たまには付き合えと言われて自室に呼ばれた僕は、見慣れない物がテーブルに飾られている事に気付いて部屋の主に問いかけた。
酒を瓶から直接飲んでいた彼は一瞬何の事か分からなかったようだったが、僕の視線が向けられている方を見ると「ああ、それか」と言った。
「パティにやってもらった」
蔓で編んだ籠を象った金の台座に支えられて輝く水晶の置物。一切の汚れも無い水を閉じ込めたような透明の中に、鮮やかな緑色の四つ葉のクローバーが一輪だけぽつんと浮いている。
彼が選ぶには随分と愛らしいデザインの置物に違和感を覚えていると、それを察したらしい彼は酒瓶を揺らしながら話してくれた。
「彼奴がくれた」
「え?」
「幸せになれるからってよ」
「……ああ、そっか」
こんな可愛らしい贈り物を彼にするなんて、この屋敷には一人しかいない。
きっと頑張って考えたんだろう。微笑ましさに思わず笑みが浮かぶ。
「良かったね、ケルトー」
「は? 何がだよ」
「ううん、何でもない」
「……変な奴」
怪訝そうな顔をしてナッツを摘み始めた彼の横顔を眺めながら、僕はそっと笑う。
きっと彼は自分では気付いていないだろう。自分がいつもよりも穏やかな雰囲気を纏っていることに。ーーでも、僕はまだそれでいいと思う。
(これからもケルトーの事、宜しくね。ラパンちゃん)
きっとこれから先、彼に沢山の幸せを運んでくれるであろう少女に、僕は内心でそっとお願いをしてから赤ワインを口にしたのだった。
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