幕間
「はい、サーヌの分な」
「有り難う。……うん、相変わらず良い香りだね」
目の前に置かれたティーカップを手に取って顔を近付ければ、ほんわかとした温かさと一緒になって優しい薔薇の香りが鼻を擽った。
その心地よさに機嫌を良くしたサーヌが微笑んでいる向かい側では、パティが同じ紅茶をゆっくりと啜り、そしてカップから口を離すと、
「はああ……」
それは盛大な溜め息をついた。
そしてそのまま、綺麗に拭かれたテーブルにぺちゃりと顔を伏せてしまう。
そんなパティを苦笑して見ていたサーヌは、小皿に盛られた小粒のチョコレートを一粒摘んで口に運んだ。濃厚な甘さと程良い苦みが舌の上に広がって、まったりと溶けていく。
「今日か明日辺りには帰ってくるさ。もう少しの辛抱だよ」
「うう……分かってるけど……」
もそっと上げられたパティの顔は力無く歪んでいる。
その表情の理由は勿論、ラパンの不在である。
「ラパンちゃん、ちゃんとご飯食べているかな……。ケルトーの我が儘に振り回されて具合悪くしてないかな……。何か危ない目に遭ってないよな……!?」
自分の想像で涙目になってしまっているパティに、流石のサーヌも思わず苦笑を濃くしてしまう。
そして小皿からチョコレートを一粒摘み上げると、わたわたと落ち着かないパティに向かってそれを差し出した。
「ほら、落ち着いて」
「……むう」
穏やかな声で諭されたパティは少し大人しくなり、差し出されたチョコレートを受け取ってぱくりと頬張る。
納得いかないような膨れっ面のまま、それでも口の中でチョコレートを転がすその何処か幼い姿にサーヌはくすくすと笑って再び紅茶を飲んだ。
「便りが無いのは元気な証拠、って言うよ。きっと二人とも無事に帰って来るから、パティはとびっきりの料理を作って笑顔で出迎えてあげたらどうかな?」
「……うん、そうだな! そうしよう!」
サーヌの提案に漸く調子を取り戻したパティは、つい数秒前とは比べものにならない笑顔で席を立つ。
そのあまりの変わり様を見たサーヌが少し嫌な予感を覚えた矢先にパティはにっこりと笑顔を深めた。
「よし! じゃあ今から準備してくるな!」
「え、いや、まだ……」
「まずはガレットを焼こうかな? いや、肉料理の下拵えが先か? そういえばこの間作ったチーズがそろそろ良い感じに熟成されてる筈だし、それを使って……。あとは野菜と魚で何か作りたいな。スープだったら二人が帰ってくるのが明日でも大丈夫だし……」
あっという間に自分の世界に入ってしまい、ぶつぶつと計画を呟きながらキッチンに向かっていくパティを、一瞬でも戸惑ってしまったサーヌは引き留める事は出来なかった。
食堂に一人残されたサーヌは思わず伸ばしたものの、行き場を無くした手をそっと下ろす。
「……今日はお昼、食べないでおこうかな」
そう呟いたサーヌが珍しく肩を落としたと同時に、玄関ホールの方からドアが開いた音が聞こえてきたのだった。
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