幕間
「おい、ケルトー。いい加減起きろ」
「……んあ?」
軽く肩を揺すられてケルトーは目を覚ます。双眸が開ききらないままに首を動かすと、其処では呆れ顔のパティが腰に両手を当てて自分を見下ろしていた。
「お前は寝すぎだ。夕飯食べちゃってくれ。片付かないじゃないか」
「あー……」
そこまで言われてケルトーは、自分が今の今まで眠っていたことを漸く自覚する。
ふと隣を見ればまだ熱が残っているのか、ほんのりと頬を赤らめてすやすやと寝息を立てているラパンの姿があった。
ケルトーはラパンを起こさないようにそっと上体を起こしてベッドから下りる。動いた途端に腹が小さく唸って空腹を訴えた。
「……なあ、ケルトー?」
「あ?」
横に落ちてしまっていたタオルを拾い、桶の中に浸けながらパティは小さな声でケルトーを呼ぶ。そして、冷たさを取り戻したタオルをラパンの額に乗せてやりながら言葉を続けた。
「どうして、ラパンちゃんの看病をしようと思ったんだ?」
優しい蜂蜜色の瞳が、じっとケルトーを見つめる。
その視線を肩越しに振り返って無言で受けていたケルトーだったが、ふっと口角を上げると背中を向けた。
「病人なんざ珍しいから、気が向いただけだ」
そう言ってケルトーは部屋を出て行った。
静かに閉じられたドアをパティは暫し眺めていたが、やがて穏やかに微笑んで、小さく寝息を立てるラパンの頭を優しく撫でた。
きっと、あの狼男は本当に気が向いただけなのだろう。だけどその気紛れが、今までの彼ならば起こる事すら無かったであろう事には本人も気付いていないらしい。
(さてと、これからどうなるのかな? ……でもきっと、素敵な事が起きるに違いないんだろうな)
温かな色に包まれた未来を想像する心優しい魔女は、そんな未来を夢見させてくれる傍らの少女にそっと微笑みかけたのだった。
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