1万円の価値
約束通り、5万はヨシキに返すことができた。
ただ、今までとは少し違う。
お金が余ってる。
しかし、僕はヨシキを飯には誘わなかった。
これは、多分、特別なお金だから。
(どうしようか....)
いつものように、パチンコに行きたいとも何か買いたいとも思わない。
お金を持っているのに、気持ちが晴れない。
(今家に帰ってもなぁ.....)
顔は合わせづらい。
とりあえず、親に買ってもらった中古のボロい車の中で、タバコを吸うことにした。
(父さんは、気付いている。でも、なぜ?)
(助けてくれたのか?怒ってないのか?それとも、呆れられたのか。)
1人息子が、いい年して親のスネをかじっていれば、呆れられてもおかしくない。
辺りはもう暗くなってきた。
仕事帰りのサラリーマンが、僕の車の前を通り過ぎる。
(同じ年くらいだろうか、僕より若いか.....)
(彼は結婚してるのだろうか.....)
(子どもはいるのだろうか......)
(僕はいったい何をしているのだろうか......)
(僕はいったい何をしているのだろうか......)
(僕はいったい何をしているのだろうか......)
タバコの煙が、車内に立ち込め、僕は窓を開けた。
風はあるが、少し暖かい。
(もうすぐ、夏......か.....)
何人もの人が、僕の車の前を通り過ぎる。
(この人たちに、僕はどう映っているのだろう。)
僕は、本性がばれないように、普通を装ってる。
キチンとしてるよ、普通の人だよ、って。
でも、しんどくて。
普通が、しんどくて。
だんだん、メッキが剥がれるように、崩れていく。
(僕はどんな人間なんだろう.......何を隠してるんだろう)
(溢れる壺の中は、どうなっているんだろう....)
僕は、僕を知りたくなった。