嘘の鎧
5月....僕は仕事をやめた。
(今回は3ヶ月か...)
働き始めたときは、あんなに生き生きしてたのに。
長くて1年、早い時は3日で仕事を辞める。
(なんで続かないんだろ...)
まだ肌寒い季節。
自宅のベランダで、大きなため息と一緒にタバコの煙りを吐き出す。
僕は青山 登、通称 ヒル、愛知県在住、29歳、独身、彼女いない歴5年、現在親と同居中。
ここまでは、まだ許せる範囲のプロフィールである。
「のぼるー!のーぼーるー?」
母さんだ。
母さんの声は関西弁の大きな声で良く通る。そんなに大きい家ではないが、家中に響き渡る。
「あんた、また奨学金の返済滞ったんか。父さんにバレへんように母さんが払っといたけど、ホンマあんたは金食い虫やなぁ。仕事も辞めてもて、夜にガサガサ、ゴキブリかいな」
会えば僕の悪口。だから家にはいたくない。
「わかってるよ....」
返済が滞っていることも、声が母さんに聞こえていないこともわかってる。
.......頭ではわかってる。
(もうダメなんだ........)
と。
(....死にたい....)
死にたいのに、死ねない。
いや違う、、、、死ぬのが怖いんだ。
テレビでは、平々凡々なダメ人間がスーパーヒーローになって地球を救ってハッピーエンドなのだが、現実は、、、、エンドが無い。
結局、僕が頑張ってもウルトラマンのように長くは続かず、一時逃れなんだ。
「♩ピピピピ....」
(誰からだろ?)
加えタバコをしながら、買ったばかりのスマホを取り出した。
[件名:返済期限のお知らせ]
[本文:いつもご利用ありがとうございます。まもなく返済期限が迫っております。お支払い金額は、、、、]
「おいうちかよ。」
「♩ピピピピ....」
(また?!)
違う、ヨシキから電話だ。
(なんだろ)
「もしもし?」
ヨシキ「もしもしー?ヒルー?よぉー。最近、お前なにしちょるん?」
声を聞いた瞬間思い出した。
(あ!金だ。忘れてた。電話、とっちまった ...)
「よぉ....あー.....最近....最近は、そうそう!友達が独立して会社起こすって言ってて、俺もメンバーに加わってるんだよねー。もう忙しくて、忙しくて....ハハ...」
ヨシキ「そうなんかー、そりゃ、大変やのー」
「ぁ、ああ...」
ヨシキ「そういやー、お前ー、前に借しちょった5万、まだ、返せんのかー?来週返すって言ってもうあれから1ケ月すぎちょるぞ」
(きた....)
「あー...あー....そ、そうだったねー。銀行行ってお金おろすの忘れていたよ。いつでも返せるよ。あ、でも今から、大阪いかないとダメだから、明日になる..かなぁ....ハハ...」
ヨシキ「ほうか、ほな明日でええで。あまり無理せんようにな。帰ってきたら必ず電話くれよ。」
「お、おう...」
僕は嘘つきだ。自分にも、人にも嘘をついている。
隠しきってない嘘は、自分1人では何ともできない嘘。正式には、なんとかして欲しい気持ち。
しかし、隠し通さなければいけない嘘もある。
(金...)
そう、僕は借金があるくせに、仕事を辞めた。
奨学金200万、ア○ム20万、プロ○ス50万、友人に同じ嘘を言いすぎて何人に借りたのか、もう思い出せない。20万くらいか。
(まぁ、ざっと、300万くらいか。。。)
普通に働けばきっと普通に返せる金額なのに、なぜか続かない。
(俺って、出来損ないのダメ人間だなぁ。。。)
毎回、返済のメールや電話が来ると、必ず思うことがある。
(昔に戻りたいなぁ。。。。)
僕は大学時代、地元を離れて一人暮らししていた。
そのときは、信頼できる友人もいて、お金はなくても充実していた。
(戻りたいなぁ。。。)
毎回恒例の【現実逃避】だ。
「ふー.......」
タバコの煙と一緒に、ため息。
(戻るか....)
ひと時、昔の自分を振り返り、僕は自分を慰めて、重い足取りで部屋に戻る。
(ふぅ.....)
この息は、ただの出不精。
部屋に入るなり、ゴロンと転がる。
手を伸ばして、昨日の新聞の間からとってきた求人広告に目を向ける。
(【介護職員募集!】か......まぁ...高齢化社会だもんな....)
そうやって、未来のことを考えていると、決まって、、、
「グー.....zzzz......zzzzz....」
寝る。