表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄の居た国  作者: 黄色
2/3

第0話 嵐の訪れ―ヴェルニアにて

 魔物の侵略も滅多にないヴェルリアに、魔王復活という噂が届いたのはほんの数か月前だ。

 当時は、そんな話を誰も信じてはいなかった。魔王は、御伽話の中での登場人物であり、また空想の中の人物とされていた。この国の最も古い文献にも、魔王は地中深くに沈んでいったと記されており、それ以来誰もその姿を見た者はいないのである。

 しかし、その話の真偽を明らかにしたのは、隣国から命からがら逃げてきた、ある王子の証言だった。

 


 ここはヴェルリアの王都にある、湖上の城の謁見の間。一際高い位置にある玉座に座っているのは、王位を受け継いでまだ二週間の若き王、ウィリアム王。王だけに許される白と金のローブを纏い、頭に宝石がちりまかれた王冠を被っている。

 他国から見ても、若き王の早すぎる王位継承は異例のことだった。これには、色々と訳があるのだが、今はさておき。

 

 今、ウィリアム王の肩にこの国の重責が重く圧し掛かっている。彼の眼の下には、うっすらと隈ができていた。

 彼には、王になるしか選択の道がなかった。そうしなければ、何百年前にやっと終わった、継承争いが再び始まり、多くの民が死に、争いの絶えぬ世になってしまう。王になり国の方針を決めることは、王族として生まれた彼の義務だった。

 

 そして、いつもと同じように始まると思われた、謁見の間での職務は違う形で幕を開けた。

 開始して、5分程過ぎた頃だろうか、突然、一人の兵が薄汚いマントにフードを深く被った人物を連れてきた。ちなみに、兵士は、ここまでの面倒な手続きを全てパスしている。兵士はそのまま、この国で2番目に偉い宰相に耳打ちをし、謎の人物を引っ張り王の前へ進み出た。

 この行動に周りにいた護衛の兵士は、慌てて陛下を守ろうとしたが宰相の手によって塞がれる。護衛の兵士に命令を出した夏の将軍は、納得をしていないのか不満げな表情だ。

 夏の将軍に、訝しげな眼を向けられている宰相は、王にこう進言した。



「失礼します。…陛下にお目に掛りたいという者が訪ねております。陛下も多忙であることは存じております。しかしながら、客人の身分により、後回しにできることではありません。一旦、陛下の職務を中断することになりますが、ご容赦を。」



 王は興味深そうに頷き、



「許す。」

(職務を削る=自由時間がなくなるだからなぁ。早く終わってほしいなぁ。)



と言い、面倒臭そうに思った。



「はっ。私が西の門の警備をしていたところ、この方がご自分の身分と名を仰られて…。本当のことかと調べてみると、確かにそうでした。この方のここに来た理由が謁見をするためでしたので…。」

 


 しどろもどろに言いながら兵士は緊張しながら言った。

(だから、この人誰?)

 王は心にそう思ったが、敢えて何も言わないことにした。

 何も言わなくても勝手に言うと思ったのだ。急いでいるのならの話だが。

 そして、フードを被っていた人物がフードを脱ぎ、その正体をさらした。

 フードの下の意外な人物に、間に集まっていた人々は、互いに驚きを隠せないでいる。



「私は、シ―レア王国第2王子、カルロ・ディ・ファ・シ―レア。訳あって、連絡もなしに来たことを謝罪する。」

「!、気にするな。よっぽどのことがあったのだろう。御父上はご健勝か?」

(!?。なんでここにいるんだ?何かあったのか?)



 実は、隣国シ―レアのカルロ王子とは、度々会っていた。その上の第1王子のレイ王子もだ。最後に会ったのは半年前だ。その時はシ―レアとの中を深めるために開催された、騎士のための武術大会で勝ったのはシ―レアの騎士達だった。

 対等に話せる友人として3人は非常に仲が良かった。だが、今は、王と王子、身分が違い対等な立場ではなくなったため、もう友人ではいられないのかもしれない。



「…わかりません。1か月前、突然魔王が魔物を引き連れ、シ―リア全土を襲撃し…。その時、父上と兄上が城内に残ると…。そして2週間前、シ―リアが落ちました。父上と兄上とは、今も連絡が取れません。もしかするともう…。陛下、どうか私に兵をお貸しください。国を取り戻した暁には、陛下が望むものを差し上げます。駄目だった場合、陛下に得はありません。それをわかった上で、陛下に直訴しております。陛下しか頼める者がおりません。どうかシ―リアの民の為、…我々の為に陛下のご慈悲を。」



 謁見の間がざわつく。誰もそのような話を聞いていないのだ。国が落ちれば早馬が駆け、真っ先に周辺の国々に知らされるからだ。また、魔王復活は3ヶ月前から噂されていたが、誰も信じていなく、何処で復活したのかも詳しいことがわからないので、小さな噂が独り歩きしただけと判断していた。



(え?シーリアが?冗談だろ?一体、何が目的なんだ?ていうか、断ったらカルロは何をするんだ?まぁ、詳しいことを聞くのが先だな。)

「カルロ王子、そのような話は今夜、食事しながらでも。」

「…陛下、信じられないのもわかります。ですが、これは真実です。魔王が…いえ。」



 カルロは、王を悲しそうに見た後、床に目を伏せた。

 複数いる大臣や将軍からは、疑わしげな視線や、挙句の果てに、逆にこの国を落とそうとしているなどの小言まで聞こえている始末だ。カロルにも真偽問わず、図々しい願いだとわかっている。失敗すると自分は命を落とすだけで損をせず、相手だけが大損をするのだから。だが、もし断られた時のことも考えている。この国の英雄に頼めばいいのだ。

 英雄という人物は、国に縛られることを嫌う。困っている人を見ると、国の言うことを聞かずに助けに行こうとする気性がある。15年前、ヴェルリアとシ―リアの近郊で起こった魔物大勃発戦争では、魔物を蹴散らしながら一番強い大ボスを殺し、魔界の穴を塞いだことで、英雄を呼ばれた男がいたらしい。これは、昔父上から聞いた実際にあった話だ。

 それ以来、シ―リアの王族の間では、何かあったら英雄に頼めという家訓まである。

 カロンはもう一度眼をあげ



「陛下、魔王が実際に統治し始めても隙があるのは、最初だけです。私にはもう時間がありません。陛下に挙兵の御心がないのでしたら、私はこの国の英雄に頼みます。陛下にはがっかりです。私の知っている陛下ではありません。私からは以上です。」



 不敬とも取られる言葉を言い、もう自分の心は決まっていると言うかのように真っすぐ王の眼を見た。

 


(え?英雄?誰?話が噛み合ってないんだけど。それに、挙兵しないとは言ってないし…。)

「英雄とは誰だ?」

「え?…英雄とはー」

「ーカルロ王子。貴公が何の目的で、此処で小戯言を言うのかは知れないが、陛下の御心を乱す発言は控えて欲しい。」



 と、途中で夏の将軍が慌てて口を挟んだ。いつもなら、ここでお節介な誰かが不敬だと騒ぐのだが、謁見の間は恐ろしいほど静かだ。

 しばらくして、静けさを打ち破るように王の隣の宰相が口を開いた。



「まず、カルロ王子とシ―リアに対してお詫びを申し上げなくてはいけません。貴方に対する我々の無礼をお許しください。そして、王子の言う「英雄」はこの国では禁句となっており、王が知らないのは仕方がないのです。「英雄」はこの国にはもういないのです。いえ、「英雄」ではなくなったのです。先ほどの夏の将軍の慌てようは見たと思います。あぁ、それと王は貴方を見捨てたわけではありませんよ。王も言葉を誤ったのでしょう?」

「えっ?」

「う、うん。なんかごめん。カルロ。で、「英雄」って誰?」



 王子は情報の整理が追い付いていないのか、唖然とした表情を浮かべている。同時に恥ずかしげな顔をした。

 そして王は元の砕けた口調に戻っている。宰相はそれを正すために、わざと王に仏頂面をして見せている。そして、



「まあ、それはさておき、ここではなんですし、違う場所で…。」

「ん?そうだな。カルロ王子、貴方もお疲れでしょう。すぐに部屋を用意させます。さあ、こちらへ。」

「ご厚意感謝します。私のご無礼、どうかご容赦ください。」



 王子は深々と頭を下げ、案内をする兵士について行った。王と宰相もそれに続き、謁見の間での騒動はこれにて終了した。

 


 

 

乱文、すみません。更新がとっても遅いです。m(__)m

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ