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英雄の居た国  作者: 黄色
1/3

第0話 人柱―地球にて

警告タグは一応です。

 都会から離れた場所に、一軒の大きな屋敷があった。今、辺りはとても薄暗く、屋敷には明かりがついていた。

 そして、背の高い雑草のおかげで、2人の人間が隠れていることなど、誰も知らない。



「あの、まだですか?もう、いいかなぁ…と思うのですが?」

「いいや、このまま夜になるまで待て。これから盗みに入るのに、顔を見られたら一発で終わりだぞ。」

「えっ?…あのー、その私は何かを拝借しに行くと、聞いていたのですが…。」



 この人ものごとを大袈裟にするのが、好きなんだろうか?私には泥棒の知り合いはいないんだが。

 もし仮に本当だとしても、私はこの世界の住人じゃないぞ。余所にあたれ!



「あ?じゃ、どっかで情報の行き違いがあったんだろう。気にするなって。まさか、初めてじゃないだろう?こんな仕事、まず一般人に頼むはずねぇからな。」



 そう言って、この一度も会ったことのない男は言う。て、ていうか、ものすごく怖いんですけど!なんですか、その眼…。はい、もう駄目です。視線で心を殺されました。勘弁してくださいよ。本当に!



「ひぃぃ!!は、はい!わ、私、全然大丈夫ですよ!フガッ」



 自分でも何を言ってんだか。ああ、もう駄目。このまま、気絶して本当は夢でした、とかならないだろうか。



「ったく、大声出すなよ。本当なんだろうな?お前を”箱”で見たことがないんだが?」



 い、いきなり口を塞がないで下さいよぉ。っていうか、一般人だって気がつかれたら、私いったいどうなるんでしょうか?まさか、殺されるってこと、ないですよね!あと、箱って何でしょうか?なんか狭そうですねぇ…。



「え、えっーと、んーと、あ!じ、実は、あまり成績が良くなかったので、普段はサラリーマンをして生活していたんです。あと、結構長い間です。はい。」

 


 大丈夫だろうか?こんなグダグダで。自分なら、騙されないけどなぁ…。



「ははっ!何だそれ。聞いたことがないな。…なんか変だけど、まあいいか。」



 いいんですか!泥棒の才能がないからって、サラリーマンをしてるなんて嘘、信じるなんて!

バレたら、首が飛びますよ!

 大声を出しそうになり、私の口を塞いでいた手が、やっと離れた。あぁ、これで呼吸が楽になった。ふぅ、一安心。とりあえず窒息死は免れました。



「と、ところで、何を盗むんですか?あの家には、お金があるようには見えないんですが?」



 見たところ、あまり裕福そうではない。屋敷の玄関前には多くの落ち葉が折り重なっている。壁にはツタが絡まり、窓が所々割れている。廃墟というか、お化け屋敷というか…。人の気配が全くない。見られる心配なんてしなくてもいいような。って、私は泥棒でないんでした。もう!私は善良な一般人ですよ!



「いや、ある情報を盗むんだ。だがな、気をつけろよ。依頼人が不明なうえ、依頼度もあり得ないほど高かった。これは何かあるんじゃないかと思ってな。とにかくやばかったら逃げてもいい依頼だ。その場合、報酬はなくなるがな。…ああ、どんな奴があの家に住んでるのか調べろっていう依頼だ。…うん、そろそろ時間だな。行くぞ。」



 なんかそれ、ものすごく嫌な感じがします…。もう帰りましょうよ。ここにいたって、良いことなんかありませんよ!どんな住人がいるかなんて、警察任せましょうよ!意外と、動物が住んでいました、とか、誰も居なかったとか、そういうこともあるじゃないですか!あ、でも、ちょっと気になります…。はい。ちょ、ちょっと待ってくださいよ!



「裏口があるみたいだな。じゃあ、お前は裏口の方を見てきてくれ。」

「え?」



 なんで置いてくんですか?迷子になったら責任取ってくれるんでしょうね?後で後悔しますよ。ね、今のセリフ、取り消してください。正直怖いです。本当に。幽霊でも出て、取り憑かれたら、どうするんですか?おーい!待ってください!



「ひどいですよ…。」



 辺りを見回しても、あの人の姿がどこにもありません。

 えっーと、これは、とりあえず裏庭へ向かえばいいのでしょうか?向こうで待ってるとか?

 と、とりあえず、裏庭へ行ってみようかな…?



「失礼しまーす…。」



 昔は花壇だったと思われる場所を越え、正面玄関の横を横切る。それにしてもこの屋敷、かなりの年代ものなんだなぁ。明治時代くらいの感じがする。明かりがついているけれど、電気は通っているんだろうか? そんなことを考えながら、中の住人?に見られぬ様、腰を低くし、こそこそと歩く。

 およそ20mほど歩いただろうか。少し開けたスペースがあり、そこには所々木板の剥がれた縁側に一人の少年が座っていた。



「!?っ」



 13,4歳ほどで、半そでに短パンを着ており、縁側から足をぶらつかせている。どこか嬉しそうな顔で雲の懸かった月を眺めている。



「今夜の月はとてもきれいだね。濁っていない。こんな日に、君と出会えるなんて奇跡だと思わないかい?」



 え?も、もしかして私に話しかけているんでしょうか?でも、顔はずっと月を見たままなんですが。それよりなぜ、こんなところに子供が?あまり、夜遊びをすると警察に補導されちゃいますよ。…まさか、この子供がこの屋敷の住人なのでしょうか?あぁ、なんだか鳥肌が出てきました。逃げてもいいでしょうか?



「駄目だよ。君は今夜、人柱になる予定なんだから。」

「駄目ですか…。って、え…。い、今私の…。」

「うん。少し、心を読ませてもらったんだ。怖がらせちゃってごめんね。じゃあ、ちょっと説明しようか。君がここに来た理由は一つ。ぼくが呼んだからだよ。」



 心を読んだっていう所も気になったけど、呼んだってどういうことだろう。さっきの男の人とグルだったりして…。聞いてみるのが一番かな…。



「あのー、なぜ私を呼んだのですか?あと、さっきの男の人は?」

「あの人は、記憶を消して帰らせたよ。欲しかったのは君だけだしね。なぜ呼んだかの説明は、省いてもいい?」

「え…だ、駄目です。お、お願いします。」

「あ、お願いされちゃった。しょうがないな…。実は僕、魔法使いなんだ。で、魔法の国に行きたいんだけど…。あのね!向こうと接続はできたんだ。でも安全に渡れるか心配で…。そのための人柱が君。もちろんタダじゃないよ。いくつかの力をあげるよ。どう?」

「どうって…。なぜ私を選んだんですか?」

「やっぱ聞くか。できれば説明はしたくなかったんだけど。まあ、いいか。一言で言うと、あちらで都合よく存在できるからかな。ほら、自然界のピラミットで何かが欠けたら、他の何かも欠けるでしょ。でも君の場合、それに何の変化も起こさないことがわかったんだ。どうしてかは分からないけどね。」

「そうなんですか…。ところで、力というのは?」

「魔力に、知性に、容姿に、なんでもいいよ。好きなだけ願ってごらん。」



「…私は○○○○で○○○な○○○○のような○○○○になりたいです。あと…。」




「リョーカイ!」



 この時、私は何も考えずにそれを願った。心のどこかで、そうなればよいと思う気持ちと、そんなことはあり得ないという気持ちがあったのだと思う。ただ、このどこか幻想的な雰囲気に呑まれ、自分の知らない世界への憧れを抱いてしまうことに、抵抗がなかったとは言えなかった。それでも少年が受け入れた条件はどれも素晴らしいものだった。そして彼は転星を受け入れた。



ー10分後



 ある星から、ある一人の人間が居たということを、証明することができなくなった。書類上からも、人々の記憶からも、彼を覚えている者はいない。いや、ただ一人、いつまでも無表情な月を見上げる少年だけが覚えている。そして。



「あの人には悪かったなぁ。今度会った時には、ちゃんと謝らなくちゃ。どんなに足掻いても、あれの人生は、人を害する魔王って決めているのに。正義のヒーローになりたいなんて。駒のくせに、出しゃばらないでよ。」



 それから西の国の妖精のように、彼は、冷たい月の下で嘲笑っていた。





 



 



 





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