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贈り物

猪瀬が「青いガラス片」を手に確信を深めていた頃、佐伯はすでに次の舞台を整えていた。


彼は知っていた。猪瀬という男が、仕事に没頭するあまり家庭を顧みず、だが心の底では一人娘の「陽葵ひまり」を何よりも宝物にしていることを。


数日後。猪瀬が帰宅すると、玄関に一つの小さな箱が置かれていた。

差出人は不明。中には、陽葵が大切にしていたクマのぬいぐるみが入っていた。


だが、そのぬいぐるみの喉元には、佐伯の家で割れたはずの「青いガラス」が、まるで宝石のように埋め込まれていた。


猪瀬の背中に、氷のような悪寒が走る。

震える手でスマートフォンの通知を開くと、見知らぬ番号から一通の動画が届いていた。


画面に映し出されたのは、近所の公園で「親切な叔父さん」と楽しげに笑い、ハーブティーのボトルを受け取る陽葵の姿だった。


そして、その隣で聖者のような微笑みを浮かべる佐伯が、カメラ越しに猪瀬を見つめて囁く。

「猪瀬さん。正義というのは、何かを守るためにあるんでしょう? でも、守るべきものが『毒』に染まってしまったら、あなたはどうしますか?」


佐伯の狙いは、陽葵を殺すことではない。

「自分と同じ絶望」を猪瀬に味合わせることだ。


もしそのティーボトルに毒が入っていたら? もし娘がそれを一口でも飲んでしまったら?

猪瀬は、愛する娘を救うために「証拠」を隠滅するのか、それとも「刑事」として娘を見殺しにするのか。


佐伯は、猪瀬が積み上げてきた「正義の色」が、恐怖と自己愛によって濁っていく瞬間を特等席で眺めたがっていた。

「さあ、お父さん。娘さんの命と、僕の『証拠』。どちらが重いか、天秤にかけてみてください」

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