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執念の澱(おり)

捜査一課の猪瀬は、押収された「狂信的な隣人」の地下室の写真を眺め、何度も首を傾げていた。

毒物、不気味な祭壇、犯行計画の手記。あまりにも「揃いすぎている」。


「……綺麗すぎるんだよ」

猪瀬は、佐伯の自宅から数キロ離れた廃材置き場に立っていた。そこは隣人が犯行に使ったとされる軍手や瓶が捨てられていた場所だ。警察の鑑識はすでに捜査を終えている。


だが、猪瀬は地面に這いつくばり、雨に流された土の端をピンセットで探った。

見つけたのは、一欠片の「青いガラス片」。


それは、佐伯が「妻との思い出の品」として大切に飾っていた、ベネチアン・グラスの花瓶の破片だった。事件当日、隣人が暴れて割ったと佐伯が証言していたものだ。


「隣人がわざわざ、割れた花瓶の破片をポケットに入れて、自分の犯行現場(地下室)ではなく、こんな遠いゴミ捨て場に捨てるか?」


猪瀬の脳裏に、カウンセリングルームで聖者のように微笑む佐伯の顔が浮かぶ。

隣人の地下室にあった毒物は、実は佐伯が「隣人の趣味」を熟知した上で、彼に「特別なハーブの育て方」として教え込み、精製させたものではないか。隣人は自分が毒を作っていることすら知らず、佐伯に操られていたのではないか。


猪瀬は、佐伯が妻に淹れたという「最後の一杯」のティーカップの鑑識結果を思い出す。検出された毒は微量。だが、もし佐伯が「妻が自ら飲み干すように仕向けた」としたら?

「あんたの『色』のなさが、逆に目立つんだよ」


猪瀬は青いガラス片を証拠袋に入れ、夕闇に沈む街を見つめた。

佐伯が松嶋を殺害し、さらに「悲劇の連鎖」を演出している頃、この執念深い老刑事だけは、聖者の足元に広がる真っ黒な泥沼に指先を触れていた。

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