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包丁。
その怪しげな煌めきに見入られた俺はこれをメインウェポンにすることを決めた。
それを決めたときには他人からアレコレ言われたものだ。
やれ「バカ」だの、「マヌケ」だの、「アホ」だのなんだの。
しかし、今となったらどうだ?
ダンジョンランキングで圧倒的に一位となっている俺を見てどう思う?
やっぱり俺の感覚はあっていた。
やはり、包丁が最強武器だったのだ。
ん?魔王の間に誰かがやってきたみたいだな。
どれどれ、誰が相手かは知らないが相手してやることにしよう。
アルバは魔王の物だった玉座から立ち上がり、来訪者を迎え撃つ。
その右手には光輝く包丁。
弘法筆を選ばずという言葉があるように、アルバも包丁を選ばない。
これは始まりの街で売っているなんでもない包丁だ。
彼にはそれで十分だったのだ。
実際に魔王を倒したのもこの包丁だった。
「誰だ?お前は」
「魔王様の仇を取りに来た!!お前を――」
魔王と同じような姿をした人型の魔族。
基本的には魔族とは人の形をしている者の方が強いとされている。
その中でも魔力が高い者は必然的に魔王に近づく。
魔王と同じような角に、魔王と同じような赤い瞳、魔王と同じような牙に、魔王と同じような体格。
それはその魔物がアルバに勝てないことを示していた。
現に、瞬間移動したアルバによって腹部を貫かれている魔物。
「バカ正直にご苦労様。名乗った時点で俺の手のひらの上に移動したお前が居るのに気がつかなかったのか?」
「“グハァ!”な、い、いつのまに……?」
「包丁はこの世界で唯一、即死能力を付与させることができる武器だ。そんな武器を持った俺の前で油断したお前はあるべき場所へと向かうことになる」
息も絶え絶えな魔物に対してアルバは答える。
そう、彼が言った通り、この世界で唯一即死能力を持つことができるのは包丁のみだ。
これはとある包丁を武器にしたモンスターが即死能力を持っていることが理由になっている。
そのモンスターの技を習得することで即死能力が付与された包丁を使えるようになる。
「あ、あるべき場所とはどこだ……」
「地獄だ。おつかれさま」
冷酷にそう告げた俺。
あまりにも強すぎて覇気すら纏うようになってきた。
もう誰かに負けるようなイメージは全く沸いてこない。
もはや最強と言ってもいいくらいに最強だった。
「死んだか」
目の前の魔物は崩れ去るように死んでいった。
もはや無双状態だ。
誰にも負けるはずがない。
アルバは他には誰もいない魔王の間で静かに生活を送っていた。ここにはなんでもある。決して腐ることがない冷蔵庫に詰まった数百年分の食材や、この世の中でもっとも優れた技術を持つ職人が作ったインテリア。
工夫に工夫を重ねられた立派な建造物である魔王城に、数千年前から保管されている国が買えるほど高級なワインまでなんでも揃っていた。
しかし、ただ、一つだけ問題があった。
アルバは仲間が欲しかった。
あまりにも強すぎる彼には仲間など必要なかった。
それでも仲間が欲しかったのだ。
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