10
誰にも届かない場所を目指さないと意味がない。
そんなことを思って包丁をメインウェポンにした俺。
その結果が今日だ。
誰もいない部屋で一人、孤独に耐えている。
「おい。話し相手になれ」
「わかりました」
「俺のことは怖いか?ホムンクルス」
俺は魔法でホムンクルスを錬成した。
話をするためだ。
というよりかは自分の考えをまとめるためだ。
なぜならホムンクルスには感情がない。
感情がない相手と話していてもやがて飽きる。
「恐ろしくないです」
「ならば、どうして俺は恐れられている?」
「わかりません」
なんでもない幸福とともに誰でもない自分がほしい。
こうなってしまったらもう得ることができない物だ。
いや、ある意味ではもうすでになんでもない自分になっているのかもしれない。
「おい。俺のことを知らないのか?」
「知りません。情報を入れてください」
「俺は、誰からも人間として見られることがない、そんな哀れな存在だ」
誰でもない自分というのはもうすでに手に入っているようだ。
みんなにとって俺とは誰でもない。
単なる魔王の類似品でしかない。
「そうですか。であるならば恐れられていないのではないでしょうか?」
「どうしてだ?」
「哀れならば人はあなたのことを哀れみます。みんなはあなたのことを哀れんでいるのです」
それもそうだな。
哀れだと思われているから丁重に扱われているのだろう。
それだからこそ、なんでもない幸福がほしい。
それは高望みでもなんでもないはずだろ?
「俺が幸せになるために必要な物はなんだ?」
「それは感情です。感情がなければ幸福にはなれません」
「その感情をどうすれば幸福になれるのだ」
果たして本当に俺にそれが掴めるのだろうか?
掴めなければ生きている希望が薄れてしまう。
もしかすると無くなってしまうかもしれない。
生きている希望が無くなったらどうすればいいのだ。
「幸福だと思えばいいだけです」
「どうやって?」
「幸福だと思えば、幸福になります」
この生活のどこか幸福――
たしかに、俺は恵まれていた。
幸福と思おうとすれば簡単に思えるほどに恵まれていた。
「孤独の問題はどうすればいい?孤独があると幸福にはなれない」
「そんなことはありません。それはあなたがそう思っているだけです」
「……もういい。この会話は終わりだ」
俺が弱いということだ。
こんなに恵まれていて不幸な俺はあまりにもバカだということだ。
どうにかしてこの苦痛から逃れなければならない。
誰かと一緒に居たいという気持ちが取れないのだ。
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