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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

仮面の殺し屋

作者: きっこー

 殺し屋ってなんだろう?

 人を殺す仕事だよね。

 じゃあさ、どんな人が殺し屋になるのかな?

 人を殺したい人?

 そう、かもしれないね。

 でも、そうじゃない人もいるんだよ。

 人を殺したくもないのに、殺している人、とか。

 私も、人殺しは嫌い。

 でも、私は殺し屋。

 だから、とある道具を使うんだ。

 迷わず人を殺せるように。

 仮面で心を封じるの。

 えっ?どうしてそこまでして殺し屋をする必要があるのかって?

 それは秘密かなぁ。

 いいや、やっぱ教えてあげる。

 一つ、覚えておいて。私には主人がいる。

 私を拾ってくれた、優しい、優しい主人に、私は殺し屋をさせられている。

 才能があるから。

 だから、どんな感情も仮面の下へ。



 ある寒い夜、通りの端で、一人の少女が震えていた。どんどん降り積もっていく雪。どんどん青くなっていく少女の手足。その顔に浮かぶのはは虚無。この世に一切の希望を持っていない様子だ。

 通りを行きかう人々は少女に気が付いていながらも気にせず通り過ぎていく。

 そんな中、一人の女性が少女に声をかけた。よく手入れされた金髪、輝くような青い目。明らかに高級品であるとわかるその服は、とても暖かそうだった。

「大丈夫?」

 少女は答えない。否、答えられない。少女の唇はもう、動かないのだ。

「よっと」

 金髪の女性はそんなこと意にも介さず、少女を抱えて運ぶ。端的に言えば、拉致した。道行く人々はそんな女性を見ても何も言わない。気にしてすらいない。

 少女は感じた。人のぬくもり。それは、生まれて初めて与えられた温かいものだった。少女はそのぬくもりに身を任せて眠りに落ちる。




 目が覚めたら、少女は暖かい部屋にいた。隣には、声をかけてくれた金髪の女性。

「こんにちは、私はイリシェ。人の才能が見えるんだ」

 イリシェというらしい。この人は、私を助けてくれたのだ。

「こんにちは、わたしは……」

 少女には名前がなかった。口を開くも言い淀む。

「名前ないのかな、いいね!あなたの名前はキラ。決定」

 イリシェは強引に言い放つ。少女はそれでよかった。イリシェがいなければ、少女は名前どころか、命すらなかったのだから。

「こんにちは、わたしはキラです」

 今度こそ、少女は名乗る。胸を張って、名乗れる名前を手にしたから。

「言った通り、私は人の才能が見えるの。あなたは殺しの才能がある。ねえ、私のための殺し屋になってよ」

 イリシェは黒い笑みを浮かべながら淡々と語る。

 自分に拒否権などないということはキラ自身が一番理解していた。ここで断ったら、殺される。本能が警笛を鳴らしていた。

「はい」

 幼いキラはそう言った。殺しについて、なにも理解しないまま。



 これが私が殺し屋になったわけ。

 私の主人、イリシェ様はとても優しい。

 人を殺すのがつらいって言ったら、仮面をくれたのだ。

全部押し殺してしまえばいいんだって。殺し屋らしく、自分を殺しなさいって。

 私は輝ける。殺し屋として。イリシェ様のおかげで。これは素晴らしいことだ。

 ずっと、そう信じ込んだ。余計な雑念は殺して。



 それで、今まではずっとやってこれた。今までは。

 あの娘に出会ってしまった。出会いたくなかった。

 私はあの娘のせいで、あの娘のせいで……

 ちょっと、その話をしよう。



 今回イリシェ様に頼まれた殺しのターゲットは、商人の娘。

 この商人は、明日、イリシェ様に毒を盛る予定らしい。だったら商人本人を殺せばよいと思い、イリシェ様に尋ねてみたところ。

「あいつを殺したら、あいつの娘が毒を盛るだけよ」

 そんな風に言われた。つまり、黒幕は商人の娘だからそっちを殺せということらしい。

 ということで、私は商人の屋敷に来ていた。もちろん、仮面をつけて。

 屋敷の三階にあるのがその娘の部屋。私は今その部屋の窓の下にいる。

 壁を上る。もう、これは慣れたものだ。窓のカギを外側から外す。ピッキングも余裕である。

 窓を開けて、気配を消して、中に入る。

 私の気配は消していたはず。それなのに、相手の気配は感じないのに、目の前に人がいた。ターゲットだった。

 私は腰に差していた短剣を抜こうとした。

 しかし、それよりも早く、商人の娘の手が私の仮面に伸びる。そして、仮面が外されてしまった。

 こんな風に、仮面を外されるのは初めてだった。短剣にかけていた手が、がたがたと震える。目の前にいる娘の顔が見られない。

 怖い。

「大丈夫だよ」

 そんな私に、娘は優しく声をかけた。

「イリシェも相変わらずだね。いろんな子に無理させすぎなんだよ」

 私はただ茫然としたまま話を聞く。

「ほら、帰りな。見つからなかったっていえばいいから」

 その言葉に、我に返った。

 ターゲットを殺さずに帰ったら、私はどうなるのだろうか。

 今までは、失敗することなく全員殺していた。だから、分からない。

 殺し屋になるように頼まれた時のイリシェ様の黒い笑みが脳裏をよぎる。

「なっ……」

 次の瞬間には、私は娘を刺し殺していた。短剣は正確に、娘の心臓を貫いた。返り血が顔に直接かかる。仮面越しではない人の血。

 私は思わず叫びだしたくなる衝動を何とか抑えて仮面を回収し、イリシェ様のもとへ帰った。殺しは成功したのだ。何も問題はない。自分にそう言い聞かせる。

 イリシェ様に成功の報告をした。何も問題はないはずだ。

 しかしな、これは、私にとって忘れられない出来事となった。

 私は、イリシェ様を信じられなくなってしまったから。




 この娘の次には、商人本人を殺してほしいと頼まれた。何やら、娘を殺した人物について調査を始めたらしい。

 それによって、殺したのはイリシェ様の指示によるものであるということがばれてしまっているらしい。

 私は聞いてみた。ばれたら、ダメなんですか?と。

「ダメなの。人殺しは悪いことだからね」

 その時初めて、私は殺しについて考えた。考えてしまった。雑念が殺せなかった。

 今まで、殺しっていうのはただ怖いものだと思っていた。違った、悪いことだった。

 なんで。なんで。

 ふと、記憶をたどる。私は今まで何人殺したんだろう?

 もう、分からなかった。考えるのも、大変なくらいたくさん。

 私には、殺しの才能があった。でも、それ以外は全くできない。

 なんで、こんな風になっちゃったんだろう。

 そうだった。私は、自分が、イリシェ様の元で生きるため、生きるために、人を……

 生きなきゃ。殺さなきゃ。

 仮面があれば、自分すらも殺せる。

 行かなきゃ。




 ということで私は、再び商人の屋敷へ。一応、仮面をつけて。

 目を閉じて、震える手で、短剣を握る。それでも、短剣は商人の心臓を正確に貫く。

 私には、殺しの才能があった。相手を殺したくなかったとしても、一撃で相手を仕留められるくらいには。

 返り血を浴びて、感じる。人の温かさ。仮面越しだとしても、耐えられなかった。

 ダメだ、ばれてはいけないとイリシェ様が言っていた。叫んだら、ダメだ。

 私は仮面を顔に押し当てる。感情を殺さないと。

 仮面にかかった血が手に触れる。私はあわてて手を放す。

 とりあえず、帰ろう。殺した。成功した。何も問題はない。



 問題はなかった。イリシェ様は笑顔だった。

 大丈夫。殺されない。

 でも、商人は死んだ。その娘も死んだ。その前に殺した、貴族の愛人も死んだ。その前さらに前の、どこかのメイドも死んだ。そのさらに前の……

 みんな、死んだ。

 私が殺した。

 これで、よかったのかな?

 なんで、私は人を殺したの?

 イリシェ様が怖いから。

 これからも、その理由で何人も殺していくの?

 じゃあ、もし、イリシェ様がいなかったら?

 私は凍え死んでいた。イリシェ様には感謝しないといけない。

 本当に?

 私は短剣を握りしめた。

 殺すのは、あと一人だけにしよう。



 私は短剣を抜いたまま、イリシェ様に話しかける。

「私を殺しに来たの?」

 イリシェ様は穏やかに話す。

「はい」

 私は返事をした。殺し屋になるように頼まれたときと同じように。

「そっか、よくあるんだよね。私ってこんなんだから、人望ないもん」

 イリシェ様は無防備だ。できる。やれる。

 私は短剣を、イリシェ様の心臓に突き付けた。

 次の瞬間、口の中を血の味が満たした。

「やめとけばいいのに、今まで何人もの子が私を殺そうとして失敗してるってことだよ」

 なんで。

 意識が遠のく。私はその場に倒れた。

 その中でうっすら見えたのは、イリシェ様のあの黒い笑みだった。

「私は才能が見える。どうすれば、最大限に引き出せるのか、分かるんだ。それは、私自身だって例外じゃない」

 イリシェ様が私の頭をなでる。そこには、人のぬくもりがあった。

「私はまず、私の才能を最大限に引き出した。だから、大抵のことはできるよ」

 イリシェ様の言葉は、優しかった。




「ねえ、キラ?どうしちゃったの?私に逆らっちゃいけないことくらい分かってたよね」

 金髪の女性が、死体に話しかけていた。

「なんで、仮面をつけて来なかったの?キラ、期待してたのよ。こんな私を終わらせてくれるかもって。みんなに無理させてる、こんな私を」

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