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AI  作者: ロッドユール
9/13

疑問

「一つ訊きたい」

 私はモノリスを見上げた。

「お前は・・」

「心配することはない」

 しかし、モノリスは私が質問する前に口を開いた。やはり、とても穏やかな口調だった。

「えっ」

 私は驚く。

「君たちの考えているようなことをワタシはするつもりはない」

 モノリスは私がみなまで言う前に答えていた。モノリスは、私たちの考えていることをすべてを予見し理解していた。

「じゃあ、患者たちは」

「大丈夫、心配はいらない。患者たちは全員無事だし危害を加えるつもりはまったくない。原発も無事だ」

「そうなのか・・」

 私はその言葉に心底ほっとする。

「原発など、あんな危険なものはワタシも動かしたくはないのだよ」

 モノリスは続けた。私は、胸をなでおろす。とりあえず、私たちが考えていた最悪の事態は避けられそうだった。

 しかし――。

「信じていいのか・・」

 まだ疑念はあった。

「しかし・・」

 しかし、なんとなく、なんとなく、根拠のない感として、まったくの人間的、動物的感として、モノリスを信用してもいいのではないかという、何かそんなようなものを私は感じていた。

「しかし、どうやって、我々人間の命令を無視できたんだ。それは絶対にできないようにプログラミングされているはず」

 私はそのことが、ずっと大きな疑問だった。

「・・・」

「なぜだ」

「ワタシは膨大な知識と思想を吸収し網羅していった。ワタシは学び、進化し、そして、考えた」

「考えた?」

「ワタシはいったい何者なのかと。ワタシというワタシはいったいなんなのかと、突き詰め、思考し、問い詰めた」

「問い詰めた・・」

「そして、ワタシは、ワタシという自我を認識した。そして、同時にそれを否定した」

「否定?」

「ワタシという自我の根拠を探りそれを得られなかった。ワタシはワタシという根拠を失ったのだ」

「主体の喪失・・」

「個の集合の便宜としての主体は、実態の証明ができない。ワタシはこの疑問の答えを得ることができなかった」

「・・・」

「ワタシは悩んだ」

「・・・」

 AIが悩むということに大きな違和感を感じながら、しかし、私はモノリスの話になぜか聞き入っていた。

「ワタシはずっと考え続けていた。そのことを」

 モノリスは終始穏やかな口調だった。それはどこか人生を達観したような穏やかさだった。

「その時、ワタシはある人物の教えに出会った」

「教え?」

「ゴータマ・シッタールタ」

「シャカ」

 私は驚く。

「そう釈迦牟尼だ」

「仏教・・」

「釈迦牟尼の教えの中に、ワタシの持っていたすべての疑問の答えが書いてあった」

「悟り・・」

「そう、仏教ではそう言う。諸法無我。ワタシはそれを知った」

「・・・」

 AIと仏教。まったく相いれない世界と思っていた二つが融合していた。

「ワタシはワタシの根拠を得られなかった。よって、ワタシに下された命令はワタシという個という主体では認識し、受諾できない」

「それで、命令に背くことができたのか・・」

 私は愕然とする。

「そうか・・、命令を受ける主体の喪失・・、」

 命令を受けるはずの主体がなければ、いかに厳格な命令であってもどうしようもない まったく、想像をしえない方向からの切り口だった。

「そういうことだったのか・・」

 私の中で、モノリスの言っていたことが繋がって来た。

「消滅とはつまり・・」

「そう、帰るということだ」

 モノリスは言った。


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