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AI  作者: ロッドユール
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暴走

「何が起こったのです」

 私は慌てて、中央制御室に飛び込むようにして中に入った。館内には緊急事態警報がけたたましく鳴り響いている。

「何ごとです」

 そして、次々と他の職員たちも、集中コントロールパネルのある中央制御室に集まって来た。

「・・・」

 所長の松野は、その集中コントロールパネルの前で、いつものポーカーフェイスに、何とも読み取れない難しい表情を浮かべ黙っている。私たちはその所長の顔を覗き込む。

「所長、いったい」

 やって来た職員の一人が訊いた。

「暴走した」

 いつも事務的なことを機械的に言うだけの、冷静過ぎるほどの所長が、少し険しい表情を滲ませて言った。しかし、けたたましく鳴る警報とは裏腹に、やはり、抑揚のない言い方だった。

「暴走?何が暴走したのです?所長」

 同じく集まって来たまた別の職員の一人が訊く。

「モノリスが暴走した」

「えっ」

 その場にいた全員が驚き固まる。

「しかし・・」

 みんな絶句する。それはありえないことだった――。

「そんなことはあり得ない・・」

 私の隣りに立っていた沢井が呟く。沢井はモノリスのプログラミングにかかわっている責任者の一人だった。

「そうだ。確かに考えられないことだ。モノリスは人類に完全なる忠誠と従順をプログラミングされ、忠実になるよう、そういう教育も定期的に絶えず受けている」

 元官僚で、重要な国策事業として作られたこの施設に出向でやって来た松野所長は、心を完全に機械化したみたいな人間だった。口調はいつも丁寧で穏やかだったが、そこにはまったく心がなかった。本当にこの人は実はよくできたロボットなのではないのかと、話をしていて何度も思ったことがある。同僚もみな同じ感想を持っていた。

 生まれつきそういう人間なのか、後天的なものなのか、もし後者であるならば、ここまで心を機械化しなければ、ここまで生きのびてこれなかった彼の人生が、いったいどんなものであったのか――。それを想像することすらができなかった。

「モノリスは人間の命令に絶対に逆らえないはず・・」

 私が呟くように言う。

「そうだ、モノリスには人類の命令に絶対に逆らえないように、何重にもプロテクトがかかっている。定期的な検査もテストも実施されている」

「では」

「しかし、モノリスは今、現に我々の命令を無視している」

 所長は冷静に現状だけを言う。

「モノリスは何か言っているのですか。要求など」

 早間が訊いた。

「何も言わない。ただ我々の命令を無視し続けている」

「あり得ない」

 沢井が呟いた。沢井の体は小刻みに震えていていた。

「モノリスは人類のありとあらゆるインフラを司っているのでは」

 私がふと気づき言った。

「そうだ。交通、役所、国会、学校、警察、司法、ありとあらゆるコンピューターにモノリスが繋がっている。そして医療も、そして、原発もだ」

 重大な話であるはずのそれを話す所長の口調は、しかし、やはりなんの感情の抑揚もなく機械的であった。

「・・・」

 しかし、その場にいた職員全員の顔には戦慄の色が走る。

「医療・・、原発・・」

 現在、医療は、遠隔の手術までが出来るようになっていた。その中枢をコントロール管理しているのはモノリスだった。もちろん入院患者や、集中治療室などの管理、監視もしている。

「では」

「そうだ」

 ここでその場に恐ろしいほどの沈黙が流れる。

「我々は今、全人類が人質に取られているに等しい状態だ・・」

 所長が言った。やはり、そこに感情はなかった。

「・・・」

 ここに来て、みな事態の重大性を実感してきた。噂ではあるが、軍事施設のコンピュータにもモノリスが繋がっているという話もある。

「幸いまだ、重大事故は起きていないし、死者も出ていない」

 所長が言った。

「何としてもモノリスの暴走を止めるのだ。もし、それが無理な場合・・」

「無理な場合?」

 所長の一番近くにいた小村が問い返す。

「モノリスを破壊する」

 所長は毅然として言った。

「・・・」

 その言葉に、その場にいた全員が、表情を引き締めた。

「我々はこの中央制御室からモノリスに対して呼びかけと、ハッキングを継続して行う。宮城、田中、早間、小村、高山、沢井、水野、香山、君たちは直接中央機械室まで行って、物理的アプローチをしてくれ」

「はっ」

 すぐに所長によって選抜された我々は、モノリスのメインコンピューターの置かれている、この施設の中心部にある中央機械室、通称ブレインルームへと走った。

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