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(地平線の仲介者続編)この世界にピリオドはまだ速い。  作者: 大井 芽茜


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人によっての幸福

「ぐる! ぐる!」

「……」

 目を開けると、知らない家で俺は寝ていた。ご丁寧に布団までかぶせて。


 アラストリアは喉を掠れそうになりながら頬をすり泣き続けている。


「……大丈夫。死んでない。」

「ぐる! ぐるぅー!」

 さて、この町で会った神も倒したし長居をする意味もない。ただこの魔力を消費仕切っただけだ。あいつの目的どおりなのが少し悔しいが。


 何となく自分の魔力の枯渇をかんじる。

 まあ、あの偽彩夢に魔力を使われたり、神を相手に2回殺りあったりしたんだ。


 だが、次はどうなることやら。運命遣いというのがあいつの言葉どおりにあるのであれば、その輩の仲間がまた出てくるかもしれない。


 それに、神が認識したこの場所も何をされるか分からないし速く出た方がいいだろう。


「もう町を出ようと思う。アラストリア。」

「ぐる!グルグル!」

 アラストリアは首を振っては、ドアの前に座り込んだ。


「まだ行くなって?」

「ぐる!」

 そういうと、次は寝転んで何かを伝えようとしてくる。


「やすめ……?」

「ぐる!」

 何となく意味がわかってしまうな。そういえばアイツは言葉が聞き取れるようだったが俺には分からない。


 ただ雰囲気で何となくという感じだ。


「わかった。お前がそう言うなら何かしら思惑があるんだろう。俺は従う。」

「ぐる!」

 アラストリアは嬉しそうに鳴くと、俺の膝の上に登って撫でろと言いたそうに頬を擦り付ける。


「わかったよ」

「ぐるぅ」

 こいつの思っていることがもっとわかれば、連携が取りやすいんだがな。


「なあ、アラストリア」

「ぐ?」

「なんで俺はお前の言葉を聞き取れないんだろな。なんとなく昔から無理やり変換して聞いていたが……あいつは聞き取れるんだろ?」

 俺には何か足りない部分があるんだろうか。


「それに姿だって違う。どうすればお前の力を出せるんだ。俺はお前を使いこなせる自信がない。」

「ぐる!ぐる!」

 アラストリアは否定するように首をふる。だが、理由まではこいつにも伝えにくいだろうな。


「俺には無理なのか?」

「ぐっ……ぐる! ぐるぐる!」

 言い難いのかは分からないが戸惑いながらも首をふる。


「そうか。」

「ぐ!」

 不思議な事だらけだが、なんとか渡りあえてはいる。

 それにこの力も成長したんだ。


 でも、いつまでこの生活を続けるんだろうか。俺には復讐しないといけないやつが現実世界にいる。


 俺を蔑み、俺から優越感を満たし続ける日々、あいつが俺の世界を壊していった。プライドも優しき人格も完膚なきまでにへし折った。

 あの男を……俺は、その仮を返す。何倍もの痛みにして。

 気持ちが分からないやつに有効なのは痛みしかない。


「速く生き残って帰って……殺すんだ。彩広(あやひろ) 美喰楓(みくか)。俺から光を奪った男を……次は俺の番だ」

「ぐるぅ」

 そのために俺は生きている。善を全てを捨て、ただ復讐のため負の対価をとる者として。



 その時、ふとドアが開いた。

「起きたんですね」

 マムはボロボロになった狐のお面を被っていた。そのお面をニコニコとさせながら。


「あぁ。ご丁寧に布団までくれてどうも。」

「ゆっくり眠れたならそれで良かったです。」

 そう言うと、俺の手に触れた。


「やはり……魔力をかなり消耗したようですね。」

「ある程度、自己発電みたいには出来るんだが一瞬だったからあんまりだった。」

「なら、来てください」


 そして、彼女は俺の手を握ってどこかに連れていこうとしている。

「待て。どこに連れていく気だ」


 すぐにまた扉があり、彼女は扉を思いっきり開いた。

「皆さん、彼が起きましたよ!」


 ここは。

 酒臭い匂い……酒場か。

 たくさんの人がギチギチに集まりながら酒を飲んでいる。


「おー少年! 元気そうでなによりだあ!」

「お前強いじゃねえかあ! あの神に勝っちまうなんてよお!」

 知らない男が俺に手を回した。


「おう少年も飲め飲め!」

「あら〜坊や。私と飲んで遊ばない?」

「17歳なので遠慮します。」

「いいじゃねえか!死んでんだから!酒飲めないまま死ぬのはもったいねえ!」

 これが……アルハラか。酒のコップが視界に埋まる。

 俺は抵抗しながらマムを見た。


「おい俺を連れてきたのはこんな事のためかよ」

「こんなっていうなよお!釣れないなあ!」

「おい、抱きつくな!」

 酔っ払いの相手をするのはこんなに疲れるものなのか。まるで、新しいおもちゃを買ってもらった犬みたいな人しかいない。


「いえ」

 マムが呟くと、周りにあった酒が消えた。


「!?」

「皆さん。彼は神からこの町を救ってくださいました。しかし、魔力は無くなりかけ、彼は次の町に行こうとしている。」

「おっけーだ。狐ねえちゃん。つまり魔力を渡せって言うんだな」

「はい。話は以上です。早く渡して飲みましょう。」

「しゃやるかあ!」

 急に人が飛びついてくる。

 まったく酒の依存とは恐ろしい。皆が我先に渡して飲むのだと俺の身体を掴む。幽霊みたいに這いずってるやつもいる。


「待て。俺はアラストリアから借りていて元々あまり魔力が」

 そんな話も聞かず、気持ち悪い感覚が自分に襲いこんだ。これが魔力を移すという訳か。


 彩夢の記憶では、死んだ人間には生きている人間の非にならない魔力を有するらしい。

 まあ、心臓は動かないし動かすために魔力を取り込んで生きているから仕方ないか。


「……っ。まて本当に限界だ。」

 身体の中に体積を埋めるかのような重りが入ってくる。気持ち悪いやら、くすぐったいやら、身体が熱を感じたり、クラクラしたりろくな事がない。平衡感覚が……曖昧になっていく。


「アラストリア!」

「ぎゃう!」

 俺は飛びついたアラストリアを抱え込んだ。


「俺の魔力を食ってくれ。頼む。気持ち悪い」

「ぎゃう!」

 アラストリアは俺にくっついては光を放った。光に身を任せるように目をつぶる。

 


「終わりましたね。はい、酒を飲みましょう」

「「うえーい!」」

 俺はドア側に座り込んで休憩していると、また宴が始まるようだ。


「疲れた……こういう所苦手なんだよ」


「ギャギャウ!」

「はあ……」

 アラストリアは皆に胴上げをされ、気分が上がり、樽の上に乗ってダンスを踊っている。


「気分はどうですか」

「まあ……大事な魔力はなんとかなった。ありがとう」

「良かったです。」

 狐の面は笑っていた。


「この酒はお前の力なのか」

「はい。私の能力は夢や望んだことを幻としてうつすんです」

「へぇ、便利なことだ。それはどこで手に入れたんだ」

 そういうと、マムは俺の隣に座り込んで耳に口を近づけた。


「最初の町で。色々と皆と見た目が違うんです。それでいざこざがあってふと反動で出来てしまいました。そもそも、生まれ変わったら皆と同じ見た目がいいと願っていたのも関係あるかもしれません。」

「そうか。つまり、この地で能力を得るキッカケがなにかあるんだな。」

「あとは……おそらく、死ぬ前に願った想いを叶える力も」

 あいつは能力が使えなかったが、そんなキッカケがあれば出来たかもしれないのか。


「お前の力はこんな事の他にできるだろう」

「確かに出来るかもしれません。提供して何かを得る分には。でも、私はこの空間で人といられるのが十分幸せなんです」

「そうか」

 マムは立ち上がると、皆の輪に入っていった。


「……」

 人というは、分からないものだ。

 願いも意思もバラバラで、それでも皆この世界を望んでいる。


 見ず知らずだった俺にも魔力という生命線を分け与える人達。ある意味、傷ついたもの同士分かり合えるのかもしれない。


 俺がこの世界を壊せば、こいつらも消えてしまうんだろうか。苦しんだやつがこうやって笑える空間は必要だと思う。



 だが、俺は帰るんだ。笑い合う空間は俺には必要ない。

 こいつらの望みを砕いてでも……奴に復讐する。




 そして、数日後。ゆっくり休んだ俺は次の町へと歩き出す。

「クロク様、ヒューブリッジ様。お久しぶりです。」

「ウィストリアか。よく来てくれたね。少し話がしたくて……ん、君は」

クロクは後ろで隠れているスプラウトに目を向けた。


「前回の天従の儀式にて、クロクさまから命を受け私の弟子となったスプラウトです。」

「は、は、お、お初にお目にかかります! スプラウトと申します!!」

「君がスプラウトか……」

「はい!」

「うん。ウィストリアに任せて正解だった。前より明るく大きくなったね」

「そ、そうですか? あまり分かりませんが……ウィストリア様のおかげで楽しいです!」

スプラウトはニコッと立ち上がって頷いたが、ウィストリアはすぐに地面に頭を付けさした。


「本日の御用はなんでしょうか?」

「あ! そうだった。ヒューブリッジ君頼んだよ」

「久しいなウィストリア。……いや、今はまず本題に入ろう。信田 彩夢。彼を知っているな」

「は、はい。もちろんです。」

「お前に1つ命を授ける。お前が成果を残せば、きっと天神様の御顔を見える。会うことを許されるだろう。」

「それは……」

「ヒューブリッジ君からのはからいだよ。君はよく天界へ貢献し、天神様への信仰が強いからね。」

「ありがとうございます。期待にそぐわないことがなきよう精一杯努めます。」

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