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(地平線の仲介者続編)この世界にピリオドはまだ速い。  作者: 大井 芽茜


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抗え

異世界に連れてこられた彩夢の前に、ヒューブリッグという男が現れる。

魔力がない彩夢はアラストリアという存在から力を借り、ヒューブリッグの狙いはアラストリアを消すことだった。

そして、彩夢とヒューブリッグとの戦いが始まった。

 俺は人間が嫌いだ。

 そして、人間が投げつける感情に振り回されることが。


「……我が身アラストリア、力を貸せ」

『――ギャウ!!』


 どれだけ自分をすり減らしたとして見返りなどなく、ただ消耗され、粗を探される。


 あいつだって苦しんでいたはずだ。俺はあいつの世界をみていた。逃げて楽しむゲームの娯楽にさえ、人間と関わらないといけないのも可哀想に。


「ごめん、昨日は練習後で寝てしまったんだ。」

「ねえ、なんで連絡しないの?俺、怒ってるよ。なにかいってよ。」

「ごめん」

(本当にめんどくさ。なんで怒んないんだろう俺は)

 そう呟いても、あいつは俺の思うようには動かず、ただ黙りこんでいた。


 俺があいつの目線をみれるのは、感情がひどく揺らいだ時だ。だから、あいつには怒りや悲しみがあったはずだ。



 ――なあ、偽の俺。

 この世界をお前はどう見ていたのかは知らないが、俺はあの世界で生きるのは嫌だ。どうせならお前に殺された方が幸せだったかもしれない。


 俺はお前みたいに何かをできるものではない。ただ復讐のためにこの世界を生きのびるしかない。


『なあ、アラストリア。俺……毎日頑張って起きてゲームしてたのにさ。なんで……こんなに上手くいかないんだろ』

『……』

(苦しんでばっかだな。俺。)



 俺はあいつとは違う。

 アラストリアがいれば、苦しめる厄を消せる。自分の手を汚さずに、ただ運命を操るように災いを引き起こす。ただ受けてばかりなんて嫌だ。


 自分の復讐のために、自分を守るために、俺はこの力を使う。

 それしか俺は生き方を知らない。でも、この生き方があると思えばあの世界でもある程度生きていける。傷つかなくてすむ。だからこそ、アラストリアは俺の全てで、この力を失うわけにはいかない。



 魔力は十分。あとはこの頭脳を駆使するのみ。

 俺は剣を構えた。


「こちらも本気でいこうか。」

「……っ」

 瞬きもする暇もなく、視界一面が光に包まれる。先程の技だろう。


「概念付与」

 切り裂け、真っ直ぐに。

 俺が振り上げた刃は、目の前まで来ていた光を割った。


 まずはその刃をへし折る。

 俺は全力で走り込み、石に魔力をこめる。


「発火」

 投げつけた石は、彼の視界を阻害し土を巻き上げる。

 その隙に、ナイフを勘で真横に振った。何かがカンっと鳴り響く。


 おそらく剣だろう。


「概念付与」

 貫通しろ。


 力を入れて力を込めようとするが、剣の感覚はなく、ただ空ぶった。


「……っ」

 土煙は自分すらも包みこむ。

 周りを見渡していると、急に身体に衝撃が走った。


「――っぐ」

 身体に何か違和感がある。

 心臓には当たってはないが、腹の方がベタベタする。

 おそらく……血だろう。


 今は集中力で痛みをカバーしているが、気を抜いた途端に倒れこむだろう。

 俺はナイフを振っては煙を払った。


「……まだ元気そうだな。」

「……っ。」

 俺の力には致命的な弱点がある。

 それは、この力を使うのに声を発する必要があることだ。


 ならば、あの力を使う。

「我が身アラストリア、我が身降り注ぐ災いから我を護れ、そして滅せよ。」


 その言葉と共に、強いかぜが吹き荒れる。彼の周りにある残骸が飛び散り、強風は彼が立っていた建物を破壊する。


「――っ」

 彼に覆いかぶさるように建物の瓦礫が落ちていく。


 なんとかうまくはいっているが、自分の魔力が削られていく気がする。

 アラストリアへの不可は大きいだろう。


 それに、まだ終わることはないだろう。

 俺は建物の残骸が動くのに備えていた。


「にゃー」

 何も動かず、気づけばただ1匹の猫が俺の前にいた。

 そして、その猫は彼の姿へと変わる。


「なるほど。クロクが警戒するのもわかる。人間の運命使い……天神の力もなく使えるとはな」

「運命?なんのことだか」


 そういうと、男は服についた汚れを払っていた。

「運命という決められたものを狂わせる力だ。俺とクロク……あと数人は力を使える。」

 クロク。確かあの男だ。あいつは時間に関係があり、こいつは傷つかない身体を持っている。


「その回復する身体と運命に関係はないだろ。」

「傷、怪我、痛み……人間が当たり前に向き合い、逃れられないものを俺は否定できる。そういう考え方だ。」



「それが運命遣いか。よく分からないが運命なんて興味ないよ。俺には幸せなんて僅かにしかなかったし、生まれつきの運は好きじゃない。ただ、この力があるから使う。俺のために。」

 俺はまたナイフを握りしめ、銃を取り出した。


「運命遣いは天神に与えられたものだ。人間が簡単に使っていいようなものではない。ここで潰させてもらう」

 そういうと、彼は胸に手を当てた。静かに息を吸い目を見開いた途端に、


 周りは真っ白になった。

 そして、空から舞い降りたのは巨体の何か。


「……」

「―――――――――――――――――!!!」


 猫なんて可愛げのあるものではないだろう。神々しい翼を引きずれて、羽毛をまとった獣の瞳孔が縦に開く。


「――――――」

「……」

 流石にこれを相手にするのは厳しい気がする。

 俺の直感はそう呟いた。


 だが……

 アラストリアを失うわけにはいかない。意地でも、あいつを手放すわけにはいかない。


 あいつが俺の全てだ。

 逃げたいが、撒けるような相手じゃない。


「……どうしようか」


「―――――――っ!!」

「っ!」

 耳が切り裂かれるような音で、町中は網のように亀裂が入り消えていく。


「アラストリアッ、無事か!!」

 応答が聞こえない。だが、魔力はある。


 まずは、石に概念を付与して効果をあげる。

「概念付与」

 相手の魔力に反響して、効果があがる。


「――いけ!発火」

 小さな石とはいえ、与えた概念は獣を炎へと巻き込んだ。


 だが

「……っ」

 傷が一瞬で治っていく。


 その獣は光を口に含み、俺に向かって咆哮した。

 まずい。

 ここで……おわるのか。


 しばらくして目を開けたが、俺は死んではいなかった。

「しっかりしてください」

「お前大丈夫か」


「……」

 目の前には、町の人達がいた。

 皆が武器を持ち、彼らの前にはバリアのような結界がある。


「ギャウ」

「アラストリア」

 そして、アラストリアは俺に頬に擦り寄ってくる。


「私たちも戦います。この楽園を守るために」

「いくぞお!」

 そいつらは獣に向かっては光に消えていく。

 なんで……そんなにできるのか。


「ギャ!」

「……どうやって勝てばいい。」

「グゥ」

「俺は……怖い。力に押さえつけられるのが」

「ガウ!」


 アラストリアはマムへ手を向けた。

「速く加勢してください。例え、勝てなくても負けたら失うのが分かっているから抗うんです。せっかく死を乗り越えて来た居場所を失うなどしたくありません。私たちは運命に抗わなければいけない。」


 運命に抗う。

「あなただって、その子を守りたいなら抗うしかないでしょう! 皆守りたいものがある。目的は同じです。協力して勝ちましょう」


 協力……人間と。

「……例え、暗闇でも前をぶち破らなきゃだめなんです。みんな前が見えないから、光を掴むために動くんです。例え、今なくても生きていれば、誰かについていくように行動するだけでも前はいつかみえる。そう信じるしかない。」


 生きていれば、足掻けばいつか……光がみえる。

 だから、みんな手を取り合う。見えなくても、生きて前を向くために。


「閉じこもっていないで、手伝ってください!あなたの力がいる!」

 運命に、自分という檻に……なあ、偽彩夢。いつか前が、生き方が分かるとお前は思うか。


 俺は、お前に見下されるのが嫌いだ。お前になる気はない。

 ただ、生きるために、アラストリアを守るために抗う。

 自分という不自由を壊す。


「アラストリア。俺に全てを任してくれないか」

「ぎゃう……?キャン!」

「概念破壊。」

 この不自由な力を壊せ。縛りは邪魔だ。


 ナイフを自分の胸に刺すと、ナイフはビリッとした痛みと共に胸に入り込む。

「キャウ?」

「……っ大丈夫だ」


 俺は手を獣へ向けた。

 獣……お前にある能力を破壊する。

 そして、痛みを付与する。



「―――っっ!?」

 町の住民の攻撃を受け、獣の顔は引きつっていた。

 その獣は一心で叫びをあげ、人々を遠ざける。


「……。」

 再び、男へ姿を変えると顔を俯かせながら手をあげた。

 身体には血が流れている。


「……俺の負けだ。この町は好きにしろ」

 そういうと、彼はひきつった顔をあげて消えていった。


「ギャウ!」

「つまり勝ったというわけですね。」

 マムの言葉と共に歓声が巻きあがった。


 気が抜けた。それと同時に痛みに襲われる。

「――っ」

「……すまない。まさか、彼が覚醒するとは思わなかった。」

「僕もだよ。少し厄介になっちゃったな。その前に潰したかったんだけど。まあ、あとは彼らに任せたらいいよ。はい、怪我みせて」

クロクはヒューブリッグの腕を掴み、魔力を使う。


「よし。とりあえず彩夢にやられる前の状態に戻したよ。」

「助かった。礼を言う。」

「どういたしまして。……で、どう?初めての痛みの感覚は」


「そうだな。まあ、人が嫌がるのはわかる。傷がもっと深ければ唸っていたかもしれない」

「そうだね。君はずっと同じようなことを言うから面白いよ。」

「お前は相変わらず変なやつだな。ちなみに、このやりとりは何回したんだ?」

「3桁くらい?君の倒し方は大体それだからね。」

「そうか。」

「そして、君は毎回馬鹿みたいな僕の話を聞いて協力してくれるから助かるよ」

「はあ、よくそんなことを言うものだな。ほぼ強制でやっているつもりなんだが。まえは現実で調査したり、こんな目に合わされたり録な目に遭わない。」

「……ん、誰か来たみたい。」

「だな。見てこよう」

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