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(地平線の仲介者続編)この世界にピリオドはまだ速い。  作者: 大井 芽茜


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ヒトを模した神

「「――!」」

 気づいた時には目の前に男が立っていた。この身体が一瞬怖気付くような感じ、おそらく只者ではないとわかる。


「俺が相手する。お前はさっさとどっかに行け」

「……逃げるもなにも、これ以上やりようが。もう終わりではないですか。何をしたってなにも」

 俺が咄嗟に指示をするが、マムと名乗る者はただ固まっていた。終わりを悟ったのように、ただその瞬間を待っていたかのように。

 俺は仕方無くその男に目を合わせた。


「……」

「……」

 暫くして、男は沈黙を破ろうと口を開ける。


「俺はヒューブリッグ・ギニア・エメラルド。天界のものだ。だが、あいつと違って俺は人にそこまで敵意はない。ただ頼まれたから来ただけだ」

「目的はなんだ」

「この町に住み着く者の排除……あとはお前の力を削る。」

 男の頭上から空間を裂くように細い棒のような剣が二つ降りてきた。俺も反射するように腰にあるナイフを取った。



「1つ教えてやる。クロクもお前を殺すのが目的ではない。ただその危険な力をそぎ落として現実でお前を目覚めさせる。あとは自然に生きて貰えれば構わない。それが俺たちの目的だ。その獣をここで落とせれば最善だが。」

 男は淡々と喋ると剣を静かに構えた。


 なるほど。この力を持ったまま帰らなければ、俺の目的は果たせない。そして、こいつらは目的を知っているか、力を使う事を危惧しているのだろう。


「アラストリアお前は待機しろ。マム、お前は邪魔だ。どこかに行け。」

「……」

 マムはその言葉を聞き、怯えながらも後ろに下がった。


「グル」

「お前が1番必要だ。だが、おそらくアレを使わないと俺たちは死ぬだろうな。」

 ここで死ねば、こいつの好きに使われるだろう。俺もただの人間、ラストリアにほとんど借りている身だ。


「これからも生き残らなければならない。お前の魔力が減るのは困るからな。それにいい餌になるだろ。最後に使う」

「グル」

 俺はただの人間として生きていく気はない。俺が愛されない世界で、唯一手に入れた希望なのだから。


 向かい合った瞬間に、お互いに刃先を向けた。



 キッ!……カッ

 ほぼ本能で身体を対応させる。相手は二刀、俺はこの歪なナイフを使い迎え撃っては、すぐに片方を反らした。


「――」

 すぐに距離を取っては、銃を取り出した。どこまで通用するかはしらないが。


「概念付与」

(貫通)


 バンッ


「――っ」

 男は剣で受けようとしたが、察したように弾丸の方向を逸らすように動いた。しかし、思うように出来なかったのか頬に弾丸がかする。


「なるほど。これがあいつの言ってたやつか。面白い」

 男は笑みを浮かべ、また襲いかかる。


「……っ」

 その時、俺は気づいた。こいつはわざと頬に弾丸を当てたことに。


 彼は俺の気づきが分かったのかというように、笑みを浮かべた。


「「――!」」

 片手に銃、片手にナイフを使い、両手を広げるように外に逸らす。男の剣は流されるようになり腕を弾く。目の前には顔があった。


「人間なのに目が追いつくようだな。それに戦いの感覚もいい。」

「それはどうも。」

 俺は目の前の事実をもう一度確認した。あの傷跡が綺麗に治っている。


「あぁそうだ。時間稼ぎには俺が1番都合がいいからな。この通り」

「……なるほど、魔力を削る気か。」

「そうだ」

 この世界は非常に魔力の回復が遅い。それは昨日感じたことだが、やはり正しいらしい。


 どれだけ能力があったとしても、元の魔力がなければ意味が無い。それに人間の魔力は微量らしい。


「お前、手加減してるだろ。ここで半殺しにでもすれば速いのに」

「そうだな。」

 男は数歩後ろに下がると、目をつぶった。ゆっくりと目を見開くと、彼の背後にある風景は光に包まれ消えていた。人々の叫びと嘆きと共に。


「……っ」

「命というのは儚いものだ。だが、俺にはそれがない。鼓動は俺を動かさない、絶望したこともない、足掻き方も俺は知らない。」



「……だから俺は、人の形として創られた俺は、足掻き生きる人間との会話が好きだ。人々は俺に生を教えてくれる」


 町が騒がしくなっていく。彼を見ては怯える声がある。皆が死を恐れ叫んでいる。その様子を彼は興味を持っているかのように見ていた。


「だから会話を楽しむって?はぁめんどくさい神だな。」

 まあ、俺からしたら都合がいい。そんなに感情に浸りたいなら教えてやる。予想とは違うが、アラストリアに目線を送る。


 物理が効かないなら、精神攻撃だ。


「――我が身を導けアラストリア。不を喰らえ、奴を堕とせ」

『ウギュギャアアア!』

 アラストリアは嘆く声を不として取り込み、身体を膨大させる。死への恐怖、社会に対する叫び、悲痛な想い……全てを喰らい目を開く。


「いけ」

 言葉と共に姿はすぐに消え、彼の前にあらわれると呑み込んだ。


 アラストリアは不を喰らう。強い憎しみは力を生み出し、魔力となる。あの偽物は死獣霊の分離やらしていたが、本来はこういう使い方だ。


 見に受けた不を相手につける。生まれながらにある運を無視し、災いを引き寄せ不を見せる。


「――……」

 アラストリアが巻き上げた瓦礫や砂煙がどこかにいった。彼はただ立ちすくんでいた。


「……面白い」

「……」

 男が目を開けると、アラストリアが弾かれるように俺の元へ帰ってきた。


「これが恐怖か、絶望か。この圧迫する感じ……この心臓が震えたのは初めてだ」

「そりゃ良かった。」

 男はその感覚を噛み締めるようにも見える。


 「やはり、人間は面白い。こんな複雑な感情があるとはな。」

 「分かったなら、とっととやめろよ。ほらあ、人間皆悲しんでいるだろ?」

 1ミリも俺は同情する気もなく、棒読みで説得をする。


 「お前が負けを認めるなら俺は此処で幕を引く」

 「断る。」

 「だろうな。それにしても、どうしてそこまで人を恨む。お前の同族なのに……いや、アイツも嫌いだったな。複雑な想いは良いことばかりではないようだ。」


 こいつの考えや人間に対する想いは知らないが、見えるものしかみえないというのは可哀そうなことだろう。その社会に浸ってないやつが好きに語られるのは好きじゃない。



「あの世界、人間も綺麗じゃない。恵まれたやつは運で、流れで簡単に手に入る。恵まれたものは分け与えるという思考はなく、ましてや、その場所を堪能しながら手に入らないと嘆くものの粗を探しては力不足と言い放つ。」

 俺は目線を送りアラストリアを再起させた。銃を取り出し、息を吸っては黒塗りの想いを込める。


 「……手にあるものは自分の私利私欲でしか使わない。自分の輪だけ良ければそれでいいのだから。その輪の中だけで持つものをひけらかして満足する。私欲にまみれた世界に平等なんてない。持つものは無いものに見せつけ満足する」



 「俺はあの世界が人間が虫酸が走るほどに嫌いだ」

 重い引き金を弾き、彼が目を見開いた時には黒い弾丸が魔力となり包んでいる。



「手荒いな……そんなに単純に世界をみるのはつまらない。もしかしたら、その裏ではなにか動いて手に入れていたかもしれないだろ?」

 男は少し髪を崩ししてはいたが、それ以外は外傷が見えていなかった。


 「お前の過去を知らないが、その世界で生きたからこその葛藤があるのだろう。だが、少し極端だ。」

「そう。確かに動いたやつもいる。だが、簡単に手に入るやつも必ずいる。世界が不平等なのは変わらない」


 告白で考えると、片方は動いた。だが、片方はその動いた分を0で手に入れている。0で手に入れているやつに努力しろと言われるのが今の社会だ。あの社会も人間も俺は好きじゃない。


 だが、目線を変えればこいつみたいに世界を捉えられたかもしれない。

 それでも、壊れた心は復讐を欲している。世界をもう見直し直す目もない。ただ傷だけが身体にある。


 「もういい。速く出ていけ。クソ神」

 「そうだな。無駄話はここで終わらせよう。」

 血で血を洗うまで俺は止められない。それが自分の満足がいく慰めだ。自分のためにしか俺は生きていない。

「ウィストリアさーん! 大変です!」

「なんだスプラウト。また仕事か?」


「違います!な、なんとエメラルド・ツヨ・イホウ・ウエ・ヨンバ・メ・バムッサ・コネクショ・トップ・デスティ・ピジィ・カル・ヒューブリッグ様から手紙です!」

「なんだと。ヒューブリッグ様?」


ウィストリアとスプラウトは手紙をすぐに読み終わった。

「あの方は昔は指導をよくしていてな。私の師でもある。最近は人間について調べをしていたらしいが……」

「カミノハコニワ……?そんなの教えて貰ったことないですよ。」


「私はよく手紙を出していたからな。もちろん彩夢の事もだ。だからかはしらないが、天界に黙って私達に教えてくれたのだろう。」

「それにしても言葉足らずというか……淡々というか……あまり分かりませんね。」


「……あの方はそういう人だ。ふむ、探してみるか」

「は、働くんですか!?せっかくの1時間休みですよ!次はいつ休めるか」

「休みなんて後でどうにでもなる。今しかない。」

「ま、待ってください!」

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