第3話 部活動と部員の交流、そして部長からのお願い
今回はこれで終わりです。お読みいただければ幸いです。
翌日から、図書館で、護符の作成だ。護符で戦うのは、退魔師の基本的な戦い方だ。
そのため、初級レベルの物は、普通に市販されている。俺も一応習ったが、全然使っていない。
「墨の自分の血を混ぜてこんな感じに書くのよ」そう言って教えてくれるのは新庄美優、クールな美女の方だ。彼女はショートカットの米沢明音の幼馴染で、親友だそうだ。
米沢明音が退魔師を目指すのに協力しているそうだ。本人は退魔師なるつもりはなく、妖魔学の研究者になりたいそうだ。
妖魔学とは、妖魔の成り立ちやなぜ人を襲うのか、その生態や戦闘方法について研究する分野で、結構需要もあり、特に退魔士協会では結構な数職員として雇っている。
護符を書き上げて米沢先輩に見せると、「へぇー、うまいじゃん。初めてとは思えないね。どこかで勉強したの?」と聞いてきた。
「退魔師の知り合いがいて、その人に教えてもらいました」とうそをつくと、米沢先輩は食いついてきて、「退魔師に知り合いがいるの?広志君お願い、その人に合わせてほしいの」と拝まれた。
「そんなに関係が深いわけではないので、何かお願いするのは難しいのですが」というと、「独学だと難しい部分もあるの。私たちに伝手はないし、なんとかお願いできないかしら」と言って、俺の手を両手でつかんで、「お願い、四葉君」とウルウルした目で言われてしまった。
「はい、なんとかします」俺はそう言わざるを得なかった。
葛葉はあきれた顔をして、俺を見ていた。
安請け合いなんてする物じゃないのはわっかっちゃいるけど、先輩に頼まれたら仕方ないじゃないか、そう思いながら葛葉の方を見た。
翌日、俺は退魔士協会の本部ビルに来ていた。
ここは国の省庁に準ずる扱いの場所であり、通常の人間が出入りできるのは、1階の受付までである。
一階の受付に行くと、二人の受付嬢が並んでいた。俺は退魔師の証明書を見せて、二ノ宮副会長に面会を依頼した。
「副会長とお約束はありますか?なければお会いできるがどうかわかりませんが」受付嬢はけげんそうな顔をしていった。まあ、こんな子供が副会長様にいきなり合わせろなんて無茶苦茶なことを言っていると思っているのが、顔にありありと浮かんでいた。
「すみません。四葉広志が来たと言っていただければ、大丈夫だと思うのですが」
怪訝そうな顔をして、俺の退魔師証を見て、いきなり大きく目を見開き、「キャー」と言ってその受付嬢は受付から転げ落ちそのまま気絶した。
一緒にいた受付嬢は、その受付嬢を置き去りにして、後ろの出入り口から逃げだしていた。
何事だとばかりに警備員たちが出てきて、俺を取り囲んだ。
「おまえ何をした」警備員の一人が聞いてきたので、「ただ名乗っただけですよ」と答えた。
「名乗っただけでこんなになるはずないだろう」その警備員は怒鳴った。
「本当ですよ。ただ、四葉広志と言っただけです」
「四葉?」そう言った警備員の顔がどんどん青くなった。
「もしかして、四葉様の関係者ですか?」すごく丁寧な声でその警備員が言った。
「四葉家当主四葉剛志の長男です」
何人かの警備員が腰を抜かして座り込んだ。「食い殺される…」とうめいた。
どうも俺のことを妖魔と勘違いしているようだ。
「二ノ宮副会長にお会いしたいのですが」というと、「わかりました。しばらくお待ちください」と言って、対応していた警備員がふらふらと中に入って言った。
ふと見ると、あちこちに水たまりができていた。
何でここまで嫌われるかな~と思いながら、ここに来たことを半分後悔していた。
「広志君久しぶりじゃないか。元気だったか」
俺は協会の応接室に案内され、そこで待つように言われた。
しばらくして、二ノ宮武志退魔師協会副会長が入ってきた。
「叔父さんお久しぶりです」俺は答えた。二ノ宮の叔父さんは父の幼馴染で、四葉の人間にも分け隔てなく付き合ってくれる稀有な人物だった。
さらに妖魔大戦で、おかしくなってしまった父の入院費用や俺たちの生活費を出してくれるのも、二ノ宮の叔父さんの力があるからだ。
本当に感謝してもしたりない人だ。
俺は、叔父さんに護符の作成を教えてくれる退魔師を紹介してほしい旨、お願いした。
叔父さんはきょとんとした顔で「なんで護符の勉強をしたいんだい」と聞いてきたので、高校で退魔部というクラブに入ったこと、そこで護符の作成をしていること、より高いレベルの護符を作れるよう指導者が欲しいことを伝えた。
叔父さんはニコニコしながら「わかった。広志君のために最高の教師を見繕ってあげるよ」と請け負ってくれた。
「ありがとう、叔父さん」
「ところで退魔部に入ったのはどうしてだい。話を聞くところによると、退魔部とは退魔師の試験に合格するための勉強会のような物だろ。君はもう特級退魔師で特に退魔師の資格を取る必要はないと思うのだけど」
「可愛い先輩ときれいな先輩がいて、お近づきになりたいから」と正直に答えたら、にやにやしながら「いいね~、青春だね~、ぜひともその子たちと仲良くなれるようがんばりなさい。叔父さんが手伝えることは何でもするから言ってくれ」と言われました。
「ありがとうございます」俺はそう言いながら、少し照れていた。
生まれた時から父親が狂っている俺にとって、父親代わりにいろいろ面倒を見てくれたのは二ノ宮の叔父さんだ。
母さんも俺には手をかけてくれたが、父親の相手もしなくちゃいけないから付きっきりというわけにはいかない。
実際赤ん坊の時は二ノ宮家でお世話になっていた。ちょうどそのころ二ノ宮の叔父さんにも子供が生まれていたからその子と一緒に育った。6歳まではまるで兄弟のように育ててもらった。
そのあと、小学校入学と同時に今の家で暮らすようになった。妹の葛葉と一緒にだ。俺たち二人の面倒は葛葉の付き人だった白さんが見てくれた。
白さんは無表情だけど、美人で親切な妖魔で俺と葛葉の世話をしてくれた。
それから約10年、現在も我が家で働いてくれている。
相変わらず優しい叔父さんだった。藁をもすがる思いで、話をしたらすんなり請け負ってくれた。これはまた頭が上がらないな、と思いながら家路についた。
退魔師協会会長室にて
部屋には協会の会長を務める一ノ瀬豪造と副会長の二ノ宮武志が向き合っていた。
「四葉の息子が来たそうだな」一ノ瀬は言った。
「ええ、護符の書き方を学びたいそうです」
「護符?そんなものがあいつに必要か?」
「必要ないですな」
「じゃ何故だ」
「人間の女に惚れたそうです。その女のためだそうです」
「ほう、人間の女か」
「ええ、いい傾向だと思います。あれはもう人間としての枠を外れる存在ですからな」
「そうだな」
「会長も覚えておられるでしょう。最終決戦の時のことを」
「ああ、わしとお前と四葉の3人が中心となり、魔王城に乗り込んだときか。あの時のことは忘れられん。すでに四葉は半分狂っていた。それでも人としての理性が多少なりとも残っていた。魔王城内の敵を倒しつつ、進んでいったが、敵はとても強かった。わしの魔力もお前の魔力も尽きかけていた。そして、我々が魔王に直接相対した時、余りの強大な魔力にわしもお前も心がくじけていた」一ノ瀬はそこで言葉を切った。
「その時だ。最低限のサポートしかさせなかった四葉が全身に宿す妖魔を使い、魔王の周りを固める妖魔たちを食いつくしていった。そして魔王に襲い掛かった。それから10日間、ひたすら四葉は魔王を犯していた。魔王を生み出す眷属はみな四葉にたちまち食われた。そして10日が過ぎて、魔王は調伏された。その代わり、四葉は狂った。ひたすら女を求めた。最初は人間の女をあてがったが、一人当たり1時間も持たなかった。妖魔に対応させたら6時間はもった。まともに対応できるのは、魔王と、第1軍団長だった妖狐の玉藻だけで、有力な妖魔たちも複数で対して、それも数日しか持たないみたいだからな」
「魔王は息子を妖魔の王にするつもりのようです。自身の魔力と、四葉の力が合わされば、人間には対抗できません。我々は、必死の交渉の結果、広志を6歳までは人として育てることを了解させました。その後は妖魔のもとで育てることになりましたが」
「殺すことはできなかったのか」
「殺せばたちまち和平は崩れ、第2次妖魔大戦がはじまっていました。我々にできたのは、少しでも人としての感情を与えることだけでした。我々の側に踏みとどまってもらえば、毒が転じて薬となると申しますが、強力な対妖魔への薬となりましょう」
「その通りだ」
「とりあえず、広志が気に入ったという女二人は広志の物になってもらいます」
「しかし、普通の人間だろう。すぐに壊れるぞ」
「我々の平和と安寧のため、生贄になってもらいます。それにもう一つ策があります」
「なんだ、言ってみろ」
「護符の指南役が欲しいと言っていました。なので、五常家の当主を送り込もうと思っております」
「五常家は護符を操り、七聖に名を連ねたほどの名家ではある。しかし、あそこは赤子一人残して全滅しているはずだが」
「その赤子が成長して、現在退魔師学校に通っております。名を五常忠子と言います。確か、3年生と聞いております」
「その子を送り込み、四葉の女にするのか」
「その子にはよくよく因果を含んでおきます。五常家再興のため、天下国家のためと」
「自分の家族を殺した妖魔の血縁者に嫁がせるか。ひどい奴だ。わしもお前も」
「これがうまくいかなければ、私の娘を娶せようと思っています。幼き頃は一緒に育った仲です。きっと、広志も気に入るでしょう」
「自分の娘を犠牲にするのか」
「すべては妖魔から人が生き残るためです」
一ノ瀬会長は座っていた椅子の背もたれに思いっきり倒れると、つぶやいた。
「四葉のことを人は外道非道というが我々こそ本当の外道だな」
二ノ宮副会長は何も言わなかった。
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