第2話:新たなパーティー?
「あ゛ぁ゛〜〜〜」
俺は机に突っ伏して一人唸っていた。
「うるせぇ。優先して修理してやってるんだから、ちっとは静かにしやがれ」
この街でそこそこの名声を持った鍛冶士、オグルスがそう言った。
少し小柄な体躯をし、整ったひげを持っている彼は、ドワーフだ。
ステレオタイプな職業をしているが、ギフトも『鍛冶』とそのまんまだ。
今日は俺の戦斧の再鍛錬をしてもらっている。
今やっているのは、炉の中に、戦斧を突っ込んだり、叩いたりして整形している作業らしい。
爛々と燃え盛る炉の熱がこちらまで漂ってくる。
昨日の狂化でかなり傷んでしまったから、修理してもらっているのだ。
「だってよぉ、流石にあれは男として終わってるだろ……」
見ず知らずの女性に話を聞いてもらって? 挙げ句の果てにパーティーを組んでもらう?
しかも、向こうのギフトはもしかするとこっちのデメリットを消せる。
つまり、本来こっちのメリットの方が圧倒的に多いはずなのだ。
それなのに、向こうが頼み込んで、こっちが了承してるんだぞ???
意味が分からないだろ!
「良かったじゃねぇか。パーティー組み直せたんだからよ」
オグルスは面倒そうにそう言った。
「そうだけどさ……」
昨日はめちゃくちゃ落ち込んだから、ちょっと色々変だった。
今も完全に立ち直れたわけじゃないけれど。
だって、あのパーティーとは上手くやれていたし、そうだったからこそ目の前でギフトを使った。
……だけど、結果はああだったわけだ。なんなら、他の人よりも反応が酷かった。
「……まあ、好きにやるといいさ。俺は、お前さんが冒険者を続けてさえくれれば後はどうでもいいさ」
オグルスは、一瞬鍛冶の手を止め、俺の方を向いてそう言った。
「好きに、か」
約束してしまったことは約束してしまったことだ。
一度、組んでみるのもいいか。
それに、ギフトの検証したとして、駄目だったらそれまでだ。
そうしたら――もうパーティーを組むのはやめようかな。
……待てよ、今オグルスは冒険者を続けてくれれば、って言ったよな?
考えすぎかもしれないが――
「なあ、冒険者を続けるって……もしかして俺が結構修理費出してるからってことか?」
俺は、たまにギフトで武器を壊すし、その時は結構な損耗になる。
それで、その分の修理費はしっかり払っている。
たまにそれのせいもあって金欠になるが、まあ大体なんとかやっている。
「……違う。ギフトでとんでもなく武器を壊してきて、修理費をたんまり払うお前はちょうど良い収入源だなんて思ってないぞ」
俺が訊くと、オグルスは目を逸らし、鍛冶作業に戻った。
職人気質の人間なら、こういったことは言語道断、というイメージがあるが、オグルスはどちらかと言えば実利主義だ。
「なあ、そこまで言ったらもうそういうことだよな?」
「それだけ言えるならまだまだ元気だろ?」
オグルスは皮肉っぽくそう言ってみせた。
「よく言うわ」
はぁー、とため息を吐きながらも、まあその通りかと思ってしまう自分もいる。
別に、仲間が誰一人いないわけじゃない。
それが、自身の全てをさらけ出せるほどのものではないとして、大丈夫。
そう、大丈夫だ。
◇
「ほらよ、できたぞ。うだうだ言ってねぇで、早く行って来い。じゃないとうるさくてかなわん」
戦斧を研ぎ終えたオグルスが、それを投げて渡してくる。
ズシンと重い戦斧が俺の手に落ちてくる。
「おい! 危ないだろ」
「話を聞いてやった料金みてぇなもんだ」
オグルスはニヤリと笑って俺に言った。
「へいへい、そうかい」
俺は呆れ気味にそう返して、立て掛けられた端っこが割れている等身大の鏡を見る。
黒い髪に、爛々と輝く赤い瞳をした男がそこには立っていた。
この赤い目のせいで、随分怖がられたもんだ。
胸に着けたプレートアーマーと、急所を守る金属具が身につけられており、背中には大きな戦斧を背負っている。
「ま、ありがとよ。オグルス」
俺は感謝を述べ、鍛冶場を出た。
「おうよ、また来な」
のれんをくぐると、いくつかの人間の視線が俺に向かった。
ここの客だろう。
まあ視線を向けた理由は、鍛冶場の方から出てきたのが不思議といったところか。
ともかく、俺はそそくさとそこから去ることにした。
◇
ギィィ、と少し年季の入った木製の扉が開く。
中には、色んな人間がワイワイと騒いでいた。
冒険者協会だ。
武器の点検が終わって、ちょうど約束の時間になっていた。
昼下がりの今、そこそこ賑わっている。
幾人かが俺を見て、驚きのような、侮蔑のような表情を向ける。
……元々、俺のギフトはある程度知られている。
その上で現在最強とも言えるパーティーから追放された、と噂されれば、こうもなるだろう。
実害が出なければいいのだが。
周りを見渡すと――いた、白髪の少女が一人テーブルに座ってメニューを眺めていた。
「よう……あー、その、昨日は世話になった」
酔いつぶれた、とかそういうことはないのだが、話を聞いてもらっただけでも随分ありがたかったからこそ、感謝の言葉だ。
「あ、こんにちは。デイスさん」
挨拶をするミレイルさんの正面の椅子に座る。
座った衝撃で木製の椅子が軋む。
「すまんな、本当にわざわざ。俺の方が感謝すべきことなのに」
俺は小さく頭を下げた。
「あ、いえいえ。本当に私にもメリットがある話ですから……」
両手を顔の前で振りながら、何やら本当に困っている様子だった。
昨日の俺との違いに困惑しているのだろうか?
心の内は分からないが、この様子だとこれ以上何か言うのも無粋だろう。
「それで、パーティー組むって話だが、そもそもランクっていくつだ? 俺は金級だ――まあ、評判のせいで協会からは怪しまれてる気がするが」
俺は自嘲気味に笑った。
冒険者はランクは、下から石、銅、銀、金、白金、聖銀の六つだ。
金と白金は、一つしか違わないが隔たりがあり、聖銀となるとさらに高い壁があり、少なくなってくる。
石は初心者、銅は見習い、銀は一人前、金はベテランと言ったところだ。
まあ、俺の金のランクは、セイズと一緒にパーティーに居たのが理由でもあるのだが。
「私も金級ですね。となると、別に問題はなさそうです」
ミレイルさんは少し考え込んでから、そう返した。
「同じなのか。それなら安心だな……それで、そういうことなら早いところギフトの検証がしたいんだが、いいか?」
「ええ、問題ありません」
「さて、じゃ街の外に行くか」
「街中……ではやはり危ないのですか?」
俺の言葉に、ミレイルさんは少し思案してそう訊いた。
「ああ、人は傷つけたことはないけど、物は何度も壊してる。街中でやったら――まあ街からの請求が大変なことになるな」
斧だって痛めたわけだしな。
「そ、そうなんですね……」
俺の冗談に、ミレイルさんは困った様子で答えた。
「まあな。んで、失敗した時のために、外でやった方がいいだろ」
「そうですね、では行きましょう」
彼女はそう言って笑った。
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……もちろん嘘です(伝統芸能)
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