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怖い幼なじみから逃げたい

作者: n

私の名前はエレオノールです。

私の幼馴染である、3つ上のアーカイル様はとても怖いです。


すぐに怒るし、すぐに手が出るし、睨まれたり、鼻で笑われたり馬鹿にされたり…。

とにかく私が嫌いなのです。


彼が視界に入るだけで私は胃が痛くなる。

胃薬が欠かせません。


そんな私も15歳になりました。アーカイル様は18歳、そろそろ婚約者をという年齢ですが…。

何故か婚約の申し込みが我が家に届いているのです。

アーカイル様は私が嫌いなはずなのに。

嫌がらせ?婚約破棄でもして私の経歴に傷をつけるとか?

一応アーカイル様の家は由緒ある名家で公爵の位になりますから、私の家のような伯爵なんて立場が下で断れない。

いびられるのだろうか…もしくは何かのっぴきならない理由のせいなのか。

ともかく我が家は受け入れるしかないようで、お父様とお母様は喜んでます。

傍から見るとアーカイル様は品行方正で美丈夫で、女性からも受けがよく頭も良いとか出来すぎな人です。

そんな出来すぎな人が私をイジメるなんて誰も信じないでしょうし、怖くて公にできないです。


婚約者になってしまってからは、毎週のようにアーカイル様からお誘いがあります。

家でのお茶会だの、植物園や美術館や歌劇を見に連れて行ってもらいますが会うたびに言われるのは…

「おいブス、お前のような女が俺の隣を歩けるんだからな感謝しろよ?どうせ誰も相手にはしてくれないだろうからな」

とか

「おいバカ、理解できたか?お前の小さい脳みそでは美術品の良し悪しなどわからなかっただろう?本当になんの取り柄もないのだな」

と美しいお顔で、大きな体で威圧感を与えながら私を罵倒する。怖いですね、はい。

嫌いなら誘わなければ良いのに…、私の心労は日々溜まり悪夢にうなされ、食欲も落ちた。

顔色が悪いのを何故か周囲はマリッジブルー的なものだと勘違いしています、違いますよ。

アーカイル様が嫌で仕方ないんです。


だから、私ある日とうとう限界が来たんです。

もう我慢できませんでした。

小さな頃からの積年の恨みが、ぷつりと我慢の糸が切れた途端とめどなく溢れたのです。


それはアーカイル様にお呼ばれをして、アーカイル様からの贈り物である彼の瞳の色のドレスを着て彼の家へ訪ねました。

美しい若草色のドレスで、私は彼の贈り物でしたがそれなりに気に入り気合を入れてお化粧をして、念入りに姿を整えたつもりだったのです。

侍女からも褒めてもらって、私は今日こそは馬鹿にされまいと意気込んでいたんです。

けれど、アーカイル様の言葉でそれは打ち砕かれました。

「なんだ、その化粧は。全くもって似合わないし、折角の俺が贈ったドレスに着せられてるようだ。ここまで垢抜けないとは本当にブスなんだな、お前は。俺ぐらいしか男に相手にされなくて憐れだな」

と鼻で笑われ、見下され馬鹿にされ、私は爆発した。

「…わかりました。もう二度とお会いしません」

私は涙を我慢できず、セットした髪に飾られたアーカイル様からの贈り物である髪飾りをテーブルに叩きつけ、勢いよく席を立った。

アーカイル様は呆気にとられていたけど、ハッとしたのか

「お、おい!待てっ!」

と追いかけて私の手首を掴んだ、私は瞬間急いで手首を振りほどいて歩きにくいヒールを脱いで裸足で駆け出した。

馬車まで一目散に走る、アーカイル様が余裕の顔で追いついてるのが腹立たしい、視界にも入れたくないのに。

「戻れ!裸足で何してるんだ!いかれたのか?」

「構わないでください!放っておいて!」

「行かせるかっ!」

と、馬車の前に立ちはだかるアーカイル様を私は初めて睨みつけた。

「帰ります!どいて下さい!」

「駄目だ!戻れ、…分かった、俺が悪かった!言い過ぎたよ!」

「どうせ、私はブスで馬鹿で垢抜けなくて、アーカイル様からすれば下らない人間なのでしょう?!私も貴方が嫌いです!貴方とは結婚なんかしたくありませんっ!お互いに嫌いなのですから、放っておいてください!二度と顔も見せませんッ!」

私は渾身の力でアーカイル様を退かして馬車に乗り込んだ。

鍵を締めて、馬車を出すように合図を出す。

瞬間、アーカイル様が何故かドアを叩いて何か言っていたが馬車は速度を上げてアーカイル様は流石に追いつけず私は家に帰った。


それからというもの、私のただならない様子を父と母に見られ今までの事を暴露した。

最初は信じられないという顔をしていたが、二人共私の剣幕に納得してくれた。

私の様子にもう婚約は無理だろうと思ったらしい。


それからというもの、伯爵家から公爵家に楯突いたという理由でその日で手紙を出して修道院行きを決定してもらうようにサインをもらった。

伯爵家はこれで罰を受けた形になり取り潰しは免れるだろう。

怒りのままに、私は婚約を強制的に破棄するため物凄いエネルギーを使った。

その日の夜には修道院へ行く荷造りをし、翌日の早朝には僻地の修道院へ行くことになった。


修道院での生活は慣れるまで大変だったが、アーカイル様と婚約していた頃に比べたらマシだ。

身も心も洗われるような生活は、私の心を少しずつ落ち着かせていった。

半年ほどしたある日、神父様がとても困った顔で私の部屋を訪ねた。

「エレオノール、アーカイル・グライシュナー公爵子息が君を呼んでいるんだが…物凄い剣幕でねぇ」

「え?」

たしか、修道院へ追放後はどの修道院へ行ったか明かされることなく秘密になるはず。

それは罰を受けた者を守るためでもあるんだけど、何でばれたのか…。

「一応、ここには居ないと言っている。暫くは身を潜めていなさい、大丈夫になったら呼びに来るからね」

「はい…」

折角記憶の隅に追いやっていた嫌な記憶が溢れる。

嫌だ、顔なんてみたくない。


私はほとぼりが冷めるまで部屋で待っていた。

夜になり、神父様が呼びに来てくれたので私は部屋から出ることができた。

「今日はお祈りができていなかったので、祈りを捧げてきます」

「そうだね、寝る前にそうするといい」 

私は神殿に向かい、神への祈りを捧げていた。

敷地内は塀で囲まれ、宿舎と畑と神殿がそこにはある。

宿舎は奥にあり、畑を通り神殿へと繋がる。

神殿の正門からしか外への出入りはできないようになっていて、神殿の奥の敷地に繋がる裏口から修道女はいつも出入りをしていて滅多に外には出ない。


神殿はいつでも誰でも出入りができるが基本的には夜は閉めている。

何か緊急のときで無い限り夜は開けることはない。


私は祈りを捧げていると、外からの来訪者を知らせるベルが鳴り響く。

困った、神父様も他の修道女も既に休んでいる。

取り敢えず緊急か確認をしなければと思い私は正門へ向かう。

神殿の扉ののぞき窓から外の様子を伺うと、そこにはフードを被った男が立っていた。

「いかがされましたか?」

「っ…あぁ、はぁ、はぁ、…胸が苦しいです」

男は辛そうに息を吐いている。

「大丈夫ですか?神父様をお呼びしますね」

「いえ、貴女の声を聞けるだけで…救われる」

「?」

「ようやく…ようやく見つけた」

私はハッとした、何で忘れていたんだろう…。

この声は…。

「…神父様を呼びます」

私は声が震えたが、扉から離れて神父様を呼びに行こうと裏口に向かう。

瞬間、高い塀を軽々と乗り越えて門を超えてきたアーカイル様の姿を見た。

私は思い切り走って、神殿の中へ逃げ込んだ。

早く裏口に行かなきゃ!捕まる!何をされるか分かったものではない。

前を向いて扉まであと少しのところで、アーカイル様はとても軽々と私に追いつき背後から羽交い締めにされた。

「離して!止めて下さい!」

私は藻掻いて逃げようとするが、びくともしない。

なんて強い力なのか藻掻くほど強く抑え込まれ痛くて動けなくなる。

「痛いっ」

「あっ…お前が逃げるからっ、逃げるな!」

「私が嫌いなのですのね?嫌がらせもここまでだと陰湿極まりないですよ!」

「違うっ!!」

あまりの大きな声に驚いて固まる、顔を見ると物凄く怒っている。怖くて私は固まった。 

そうだ、彼は私をイジメる怖い人だ…反社的に恐怖が蘇る。

「嫌いだなんて、言ってない」

絞り出すような声で、泣きそうな顔で私を見つめてくる。

「嫌いなわけないだろう…どこにも行くな。俺を捨てないでくれ…頼むから」

そうして私を正面から抱きしめて私の肩に顔を埋めながらとうとう泣いてるのではと思う声でそう言った。

「ごめん、大事にできなくて。もう酷いこと言わないから捨てないで。何でもするから俺の悪いところ直すから、許してくれ。お願いだ」

やっぱり、泣いてる…。私は困惑していた。

こんな図体の大きい男に羽交い締めにされ、泣かれて謝罪されてる。え?何で?

「あの…?アーカイル様?」

「あぁ、名前を呼んでくれるのか?エレオノール、俺のエレオノール…お願いだから俺を許してくれ、何でもする。俺のところへ帰ってきてくれ、お前の為なら何でもするから、今度はずっと、ちゃんと大事にして酷いことなんて苦しいことなんて一つもさせないから、一生俺はお前のために生きるから、だから俺を嫌わないでくれ」

「…私はアーカイル様から嫌われてたと思ってるんですが」

「違う、違う。嫌いじゃない…お前を愛してる、大好きなんだ、エレオノールはいつでも俺に優しくしてくれて可愛くて、だから酷いことしてエレオノールを傷つけて俺しか見てほしくなくて、エレオノールが俺の事を考えてくれるのが間違った方法でも嬉しくて、エレオノールはどこにも行かないと思って甘えてたんだ…俺が悪いんだ、傷つけてごめん」

「…もっと、早くそう仰ってくれたら良かったのに」

もう私は修道女だ。結婚もしない誓いをたてた。

今更それを覆す気もないし、国教である宗教の決まりは覆せない。

「お気持ちは嬉しいです、ありがとうございます。けれど、私はもう神のものです。アーカイル様の新しい人生を私はここから応援していますから、ですから今日はお帰りください」

「神のもの…?俺のエレオノールが?」

「はい、修道女ですもの。アーカイル様、この神殿で貴方が懺悔された事は私の内に秘めておきます。ですから、今度は貴方が幸せになれるよう道を誤らないよう祈っております。ここにいる事がばれたら咎められてしまいますよ、今のうちにお帰り下さい」

「ヤダ…」

「アーカイル様?」

「俺のエレオノールだ、神のものなんかじゃない」

アーカイル様がまた怒り始めた、怖いんですよね本当に。なまじ顔が綺麗だから。

私の肩をギリギリと掴んで、顔を覗きこんでくる。

「俺のエレオノールだ、俺だけの。神なんかにくれてやるものか…知っているか?4ヶ月前に起きた戦争を」

「は、はい」

世間に疎い修道院でも戦争の話は不安を呼んだ。

敵国がまさか責めてくるとは思わなかったからだ。

代替わりした隣国の王は何をとち狂ったのか攻め込んできたのだ。

これまで友好的で、3代前の王達で和解交渉をしてその後は平和協定を結んだはずなのに。

お陰で大義名分ができたわが国は隣国をボコボコにして勝利を収め、隣国は属国となった。

隣国は元々小国であったが、二ヶ月の内に戦争が集結し皆で良かったと安堵し終戦パーティが各地で催された。

その戦争が何か?

「俺ももちろん貴族として戦争に参加したんだ、そうして沢山武功を上げたんだよ、王にお願いできるくらい敵の首を刈ったんだ」

私は恐ろしくなり声が出ない…そんな…。

「だから、エレオノールを探していたんだ。王にエレオノールとの結婚をお願いしたんだよ」

「へ?」

「そうしたら、直ぐに良いって。もっと高くつくと思われてたけど、伯爵令嬢一人で済むならいいってさ。ハハハ、王にとっては都合が良かったんだな。どんな事を強請られるかと思ってたみたいだからね」

「結婚?」

「だからエレオノール、妻として帰ってきて。君に嫌われたら生きている意味がない、戦場でいつも君を思っていたんだ、生きて帰れたら今度こそ間違わないように、君を大事にしようって」 

アーカイル様は懐から何かの書類を出してエレオノールに見せた。

「ほら、俺と君の婚姻届だよ。これを二人で王の前で提出したらようやく…夫婦になれる」

えー?ちょっと、話が急すぎますよ。というか、私の名前以外全て埋まってるよこの婚姻届。

しかも、見届人の所に王の名前が〜っ!王様嘘でしょ、何で軽々しくこんなもの書くのよ。

「王からの許しも得られた、見届人が王なんだから逃げられるとおもうなよ」

「…そんな、」

怒涛の展開に私の思考は停止している。

「早く名前を書いて、神父を呼ぼう。ほら、ここは教会だから神への誓いも直ぐにできるぞ、結婚式は盛大にしたいか?花嫁衣装もいくつか用意しているから好きなデザインを選べばいい。きっと似合うだろうな…」

とうっとりとした顔で語るアーカイル様に私は開いた口が塞がらない。本当にこの人はアーカイルさまなのか?私をこんな目で見るなんて。

「アーカイル様、あの…私あまりにも急で心の準備が…」

「あ?何だ?まさか断らないよな…俺はエレオノールと結婚するためなら何でもするぞ。大事にはするが、多少お前が泣いてもやるぞ。だから諦めろ…お前以外いないんだ、お願いだから俺の物になってほしい。でなければ苦しくておかしくなりそうだ」

「…っ」

やっぱり怖い、目の色がヤバイ。長年のカンが叫んでいる、今の状態で逆らえば何をされるか分からない。

目が座っている、獲物を狙う野生の動物の様に鋭く射抜かれその若草色の目は淀んでいるように見える。

「愛してる…」

その言葉で私は体の力が抜けた、もう彼には敵わないだろうと…本能的に諦めた。


後日、私は修道女から花嫁になっていた。

素敵なマーメイドドレスで、とても細かい刺繍がされていてヴェールもとても綺麗。


半年ぶりに再開した両親は国の英雄との結婚を祝福してくれたけど、同時に物凄く心配していた。

何でも、元から引く手数多だったアーカイル様は戦争で一番の武功を上げた英雄として沢山の女性たちから更に注目を集めていたらしい。

そんな彼が唯一選んだ女性が私ということで、他の女性からのやっかみが酷いらしく社交界ではしばらく嫌味を言われたり、あらぬ噂や詮索をされたりするだろうと話してくれた。

「エレオノールは修道院から戻ったばかりだから、余計に心配だわ」

と母に言われ、私も心配になる。ただでさえ見た目も普通で、大した取り柄もないのに…。

何だか私はイジメられる運命にあるのだろうかと溜息が出てきた。

「美しい俺の花嫁は何か悩みがあるのかな?」

アーカイル様が私を迎えに来た。私は

「久しぶりの外で緊張していまして…それに、社交界もこれからはアーカイル様と一緒なんだと思うと、私は大して優れた所もないですから…きっと見劣りするだろうなと…」

「そんな事はない、お前は美しくて優しい。周りが何を言おうとお前の心根が好きなのだから。社交界も心配なら出なくてもいい。そうだ、結婚後にすぐ懐妊した事にするか?そうすれば理由もあるから不自然でもないし気兼ねしないだろう」

親の前で何言ってんだよ、と思いつつも両親も突っ込めないのかポカーンとしてる。

「けど、そんな都合よくいくか…」

「大丈夫だ、毎日励めばいい」

「ま、毎日?」 

「あぁ、当然だろう?夫婦なのだから。お前は何もせず、健やかに過ごしていればいい。そうすればおのずと子もすぐに授かるだろう」

「ははは…」

両親はまたポカーンとしている。アーカイル様の重たい愛情に面食らっているのだろう。


そうして私はエスコートされ、式場に入る。

あぁ…とうとうここまで来てしまった。

大丈夫、アーカイル様は私を愛してくれている。

私も彼の重苦しい愛に息が詰まる事もあるかもしれないが、けどこんなにも直向きに愛してくれる人を愛さずにいられるのは無理だ。

私は覚悟を決めた、アーカイル様の顔を見つめた。

「エレオノール?」

「アーカイル様、…愛してます」

「…っ!」

アーカイル様は泣きそうな顔で私を見つめた。

「俺も愛してるよ、ずっと…」

私達は沢山の拍手に迎えられ、盛大に祝われた。


そうして、しばらくしてアーカイル様の言うように本当に直ぐに妊娠した。

妊娠中、アーカイル様はずっとソワソワしていた。

「まだ産まれないよな?」

「ふふ、まだまだですよ」

「歩くな、安静にしろ。少しでも気分が悪ければ言うんだぞ。医者を常駐させた方がいいだろうか」

「それでは、他の方にご迷惑ですよ。それに少しは運動しないと体に悪いですよ」

「なら、手を繋ごう」

「ふふふ、はい」


「エレオノール、この玩具が良いらしいぞ」

「アーカイル様、部屋がおもちゃと服で埋まってしまいますよ」

「しかし、日々より良いものが出てくるのだ」

「もう十分ですよ、この子は幸せですね」

「あぁ、お前と俺の子だ。幸せにせねば」

「はい…幸せにしましょうね」


「エレオノール!馬車を新しくしたぞ!クッション性能を上げて、広いタイプにした」

「なんて豪華な馬車…」

「これなら荷物も沢山はいるし、家族でどこでも行けるぞ」

「楽しみですね、沢山思い出を作りましょうね」


そうしてアーカイル様はソワソワとして張り切っていた、産まれたらどうなるのだろう。

爆発して喜びまくりそうだなと思った。


そうしてとうとう…私は陣痛が来た、アーカイル様は顔を真っ青にして

「大丈夫なのか?本当に大丈夫なのか?」

「大丈夫ですよ、頑張りますね…愛してます、あなた…っ痛い!」

「旦那様は部屋の外へ!」

アーカイル様が私にへばり付いていて邪魔だったようで医者から部屋を追い出されていた。

「エレオノール…」

「待っていてくださいね…っ!」

そうして、何時間も私は痛みに耐えた。初産だと産道が中々開かないようで、痛みが何度も襲う。

扉の外でアーカイル様が

「エレオノール!エレオノール!」

と叫んでいたが、ごめん余裕ないです。

後で知ったが、アーカイル様は心配のあまり何度も部屋に入ろうとしてその度に使用人数人がかりで何度も止めたらしい。

その時の旦那様は、恐ろしい邪神のように取り乱していたらしい。


そうして…とうとう可愛らしい旦那様にそっくりな男の子が産まれた。

「はぁ…はぁ…」

私は息も絶え絶えになりながら、使用人に身なりを整えてもらい産湯に浸かり綺麗になった我が子を抱きしめた。

「おめでとうございます!立派な男の赤ちゃんです!」

扉を開けて医者が言うと、バーンと扉が破壊され旦那様が入ってきた。

使用人がぐったりと廊下で倒れている…。

扉が幸い医者に当たらず良かったけど、医者は旦那様の形相に固まっている。

「エレオノール、体は大丈夫か?」

「はい、大丈夫ですよ」

「…俺たちの子」

目をウルウルさせて、愛おしいとその表情を見れば直ぐに分かる。

「抱いてください」

「…小さすぎる」

「大丈夫ですよ、ゆっくり…首を支えて」

「わっ…本当に軽い。小さい…温かいな」

「えぇ、かわいい子です。旦那様とそっくり」

「そうか?」

「はい、こうして二人並ぶと本当に似てます」

「エレオノール、ありがとう。俺は凄く幸せだ」

「私もです」

その後、息子は旦那様が名をつけた。

名前はヴェルノ。先代の優秀だった方から名を抱いたそうです。


数年後…。

「エレオノール、ヴェルノ。今日は湖まで行くか」

「本当に?父上!」

「あぁ、最近は忙しかったからな」

「良かったわね、ヴェルノ」

「うん!やったー!」

無邪気にはしゃぐヴェルノを微笑ましく思う。

「ありがとう、喜んでるわ」

「愛おしい奥様と子の為だからな、エレオノールが喜ぶなら何でもするさ」

本当に、何年経っても重苦しい愛を向けてくるけど私は凄く幸せです。

たまに怖いけど。


怖い幼ななじみからは結局逃げられませんでした。


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