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「条件、ですか?」


 なんだろう。


 ロイさんの協力は不可欠だと思っている。だから出来る限りのことはするつもりだけど、何かとんでもないことを言われたらとドキドキする。


「はい、しかし殿下のご命令がありますので駄目でも協力しない訳ではありません。ただ、もしこの条件をのんでいただけるなら……私は誠心誠意この件に取り組みます」


 なるほど、私の誠意を見せろとかそういうこと?


 条件がクリアできなくても協力してもらえることには安心した。だけどその上で出すロイさんの条件というのが何か非常に気になる。


「条件は……」


 ごくり。


「私にもあなたの出す食事や菓子を下さい!」


 はい?


 この人なんて言った?


 みんな私と同じように首をかしげている。


「殿下が自慢するんですっ! リカ様の菓子がそれはそれは美味しかったと。王族として美味しい物は食べ慣れているが、あれは別格だったと言って私の前で延々と語るんです!!」


 もう耐えられませんとロイさんは叫ぶ。


 あーご愁傷様? 何か緊張して損した気分なんだけど。


「さっきの食事、あれ何ですか? エミール様もあなたも、いつもあんなものを食べていらっしゃるんですか? なんて羨ましいっ! しかもこの黒いチョコレートとかいうもの。これは一体、こんな美味な食べ物は初めてです。この滑らかな舌触りに香りと深い味わい、なんて素晴らしい! 神の食べ物ですかっ!!」


 ロイさんの興奮が凄い。


 エミール君とマリーエさんは思わぬところで飛び火してちょっと苦笑しながらも頷いていた。


「確かに、リカ様が出して下さる料理や菓子は今までに食べたことのない美味なものばかりです。最近は当たり前のように頂いていますが、本来はお金を出しても食べられない至高の品々なのですよね」


 エミール君がしみじみといった様子で呟くとマリーエさんも深く同意していた。


 なんだかご飯やお菓子の評価が凄いね。


 私の料理はともかく、チョコは先日の特設会場で買った有名ショコラティエの品だし、チョコレートは神の食べ物とまで言われているからその評価は間違いじゃない。チョコ美味しい。


 しかしあの殿下、どれだけ言いふらしているのか心配になってきた。お菓子をちょっと提供しただけじゃ済まなそうな気もしてすごく嫌な予感がするんだけど……。


 いけない、今はロイさんだ。


 ロイさんからは期待に満ちた熱い視線を感じる。ふう、仕方ない。


「分かりました。いいですよ、協力して頂けるなら食事やお菓子を提供します」


 私が言った瞬間のロイさんはそれはそれは嬉しそうだった。


 まったくもう、そんな顔されると困ってしまう。前にロイさんにだけお菓子を出してあげなかったり意地悪して可哀そうだったかな、なんてちょっと思ってしまった。いかん、あれは私にとって極悪人なのに。


 しかし私としてはご飯やお菓子で済むならとても助かる。もっととんでもない事を言われるかと思ったのですごくほっとした。


 私の返事で話はまとまり、ロイさんは改めて協力を約束してくれた。


「必ずお役に立ちましょう」


 そして思わぬことを告げてきた。


「私の部下が現在最終調査を行っています。マリーエ殿の身辺については調査済みなので、最近の情報が集まればほぼ調査は完了します。ですので明日にでも対策案は出せるでしょう」


 そんなに早く? そう思ってすごく驚いた。ロイさんに聞いたら、どうやら私の周辺にいる人物は以前の事件の時に調査していたらしく、マリーエさん本人以外にボーグ家やライナスのことも既に把握していたそうだ。


 今回は時間がないし調査の手間が省けて良かったと思うべきなんだろうけど、マリーエさんはちょっと複雑な顔をしていた。誰だって自分の事を勝手に調べられるのは良い気分じゃないよね。



 午後はまたダンジョンに行こうと思っていたので、ロイさんはどうするか聞いてみた。


「ダンジョンに個人的に興味があります。自分の身は守れますのでご一緒してもよろしいでしょうか?」


 みんな別に構わないとのことだったので一緒に行くことになった。


 ロイさんには移動のことは知られているので扉を出すことに躊躇はない。だけど扉を出した時にはかなり興味深げに観察されてちょっと困った。


「扉、これがあなたの力なのですね。ほお、なんとも不思議な」


 ダンジョン内は人が少ないとはいえ、万が一扉を見られると大変なので移動の時はとても慎重にしている。なので扉はなるべくささっと出して仕舞ってをしたいんだけど、ロイさんはペタペタ扉を触ったり色んな角度から眺めたり。


 なかなか動いてくれないロイさんをなんとか促して移動するのが大変だった。


「ここがダンジョン、素晴らしいっ! まさか私がこんな下層に足を踏み入れられる日が来ようとは……」


 イスカのダンジョンが観光地化しているとはいえ、やはり貴族がダンジョン内に足を踏み入れるというのはそうそうあることではないそうだ。まして下層ともなれば一生訪れることのない場所なんだろう。ロイさんの興奮はそれはそれは凄かった。


「おお、本当に明るいのですね、光源は一体どこに。あ、分岐があります、これはどちらに進むのです?」


 始終この調子で疑問や質問を次々口にする。最初のしおらしさはどうしたって感じだ。


 今までは物静かな人ばかりだったから、こういう騒がしいのは慣れなくてみんなちょっと困惑気味。うん、ロイさん早く落ち着いて下さーい。




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