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「ロイさん貸して下さいっ!」


 私は鏡の向こうの殿下に向かって頭を下げた。


「うん? いきなりどうした?」


 意外とすんなり殿下と繋がり話すことが出来た。前回、あれだけ嫌そうにしていたこともあって私からの通信に驚いていたけど、ちゃんと話を聞いてくれる殿下は良い人だと思う。決して暇ではないだろうにね。


 私はかいつまんで経緯を話し、再度お願いする。


「調査と対策、色々出来そうな人を考えたら私の知っている中ではロイさんしかいませんでした。お願いします、どうかロイさんを貸して下さい」


「ふむ。事情は分かった。契約が絡むとなるとなかなか悩ましい問題だな」


 しばらく何か考えていた殿下だったけど、ひとつ頷くと私に告げた。


「いいだろう、実はな、まだあの事件の後処理であいつはそっちに居てな。そろそろ片付くはずだし丁度いい、お前の方に回すから好きに使え」


 やったー!


「ただし!」


 殿下がにやりと笑う。


「先日断られた件は了承ということでいいな?」


 え゛。


「いやぁ良かった良かった。父上達が喜ぶ」


 殿下はニコニコと満足そうな顔。


 何か条件とか出されるかもとは思っていたし、予想していなかった訳じゃない。お菓子が食べたいっていうのと私に会いたい、だっけ?


 嫌だけど、すっごく嫌だけど、マリーエさんの為だもんね。ここはのむしかない。


「分かりました。よろしくお願いします」


 王都なんて行きたくないよぉ。絶対面会だけしたらすぐに帰ってやるんだから!



 殿下との交渉は思った以上にすんなり終わった。条件はともかく、ロイさんの確保が出来たことに正直ほっとしている。何もできないかもって実はちょっと思っていたんだけど、なんとかなるかもっていう希望が持てた。


 私はロイさんのことは許せないけど頭がいいんだなって認めてはいるんだよ。だからこの際、利用させていただきます。思いっきり暗躍してもらおう。



 さて、次はマリウスさんだ。


 マリウスさんは直接でないとはいえマリーエさんの上司だし、ガイルの貴族のことなら事情とかも知っていそうだよね。すぐに会えるか分からないけど役所の方に行ってみようと思う。


 マリーエさんはまだ休んでいるので、アルクに留守番をしてもらうことにした。本人は私と一緒に行くって最後まで不満そうにしてたけど、エミール君に留守番してもらう訳にはいかないでしょう?


 でも、こちらの世界でアルクと別行動なんてそう言えば初めてかもしれない。買い物くらい一人で行けるよと言っても結局いつも付いて来てくれるし、最近は色々あって過保護が増してたしね。


「大丈夫だよ、心配しないで」


 そう言って出掛けた私だけど、いつも隣にいる存在がいないのは落ち着かないなって早々に思ってしまった。エミール君が一緒だし危険はないはずだけど、アルクが隣にいないことに不安と寂しさを感じてしまう。


「私が家に残った方が……」


 エミール君はしきりにアルクのことを気にしていたけど、今更戻るのも時間がもったいない。私達はなるべく早く戻るために役所への道を急いだ。


 マリウスさんへの面会を求めたところ、少し待っただけで本人に会うことが出来た。いつもお仕事の邪魔してごめんなさい。


「忙しいのにすみません。実はマリーエさんのことでちょっと……」


 私達は事情を説明し、何か知らないかとマリウスさんに聞いてみた。


「なるほど。確かにあまり良くない噂は聞いていました。しかしマリーエはあまり家のことは話しませんし、私も詳しくは知らないのです。ただ、契約内容についてはこちらに写しが保管されているはずなので確認させましょう」


 本来はもちろん公開なんてしてもらえない物だけど、町長権限で見せてもらえることになった。すごいぞ権力。


 あとロイさんが協力してくれることになったのでそのことも伝えておく。本人の了承はまだだけど殿下がオッケーしてくれたから良いよね。ガイルで色々調査とかもするんだろうし、一応了解は得ておかないと。


「分かりました、こちらも出来る限り協力はしましょう。そうだ、騎士団長にも連絡を入れておきます。彼は話の分かる人物ですし、マリーエのことも可愛がっていたので力になってくれるでしょう」


「それは助かります」


 味方は多い方が良いよね。


「ああそう言えば婚約者だというそのライナス・ボーグという男、確か彼も騎士団所属のはずですよ」


「は? ライナスって騎士なんですか?」


「あり得ないです」


 衝撃の事実にうそぉって、二人してびっくりしてしまった。


「まあなんというか、過去の素行に問題がなければ入隊は出来るんですよ。騎士団は行き場のない貴族子息達の就職先の一つでもあります。誰もが崇高な志を持って騎士になる訳ではないんです、残念なことにね」


 多少はライナスの事を知っているらしいマリウスさんは苦い顔でそう言った。


 どうやら次男であるライナスは家も継げず、諸事情で新しく家を興すことも出来ないらしい。なので貴族籍を保つためには文官か騎士になるしか選択肢がなく、文官になれる頭が無いので消去法で騎士になったらしい。


 あんなのが騎士になれるとか、それでいいのか騎士団って感じだよね。素行に問題大有りだと思うんだけど。マリウスさんも「入隊基準を見直す必要がありますね」と話していた。


 うん、ぜひ見直すべきだと思います。




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