84
ついに地図のない十一階層までやってきた。
ここから先は道を選択しながら進んで行かなくてはならない。時間がかかることを覚悟しないといけないなって、そう思っていたんだけど……。
「こっちだ」
何故かアルクが道案内してくれるんだよね。
迷いなく進むアルクに付いていったら、今までと変わらぬ早さで十一階層をクリアしてしまった。
「何故道を知っているんですか?」
さすがに疑問に思ったエミール君がアルクに質問した。
「ジローは二十階層まで進んだ。道は覚えている」
「ジロー?」
エミール君がちょっと首を捻ったけれど、賢者様のことだと気付いたらしい。
「え、どうして……賢者様をジローと呼ぶなど、アルク殿は一体? それに覚えているというのはどういう事でしょうか」
あー、まだこっちがあったか。私はマリーエさんと思わず顔を見合わせてしまった。
私が頷くと、マリーエさんはそっとエミール君にアルクの正体(?)を伝えてくれたんだけど……エミール君は目を見張って驚愕の表情でアルクを見つめていた。
「賢者様のお仲間、精霊様……あ、兄上に報告しないと……」
ですよねー。
エミール君のアルクの呼び方が「アルク殿」から「アルク様」に変わり、アルクを見る目が尊敬と憧れの眼差しに変わった。
でも流石アルクだよね。何十年前のダンジョンの道を覚えてるとか、どんな記憶力してるんだろうって思う。でもそんなに記憶力良いと困ったりしないかな。便利ではあるけど私だったら……ちょっと嫌かなぁ。
アルクのおかげで、十二階層以降も迷うことなく進んでいる。ただ徐々に階層が広くなってきたり、知恵のある魔物が出てきて戦闘に時間が掛かるようになってきた。それでも驚異的な進行スピードだろうとエミール君は言う。私以外のみんなが凄過ぎる。
さて、階層を下っていくと他の冒険者達と出会うことがある。
十二階層の中程で、私達は戦闘中の冒険者パーティーに出くわしたんだけど、見つけた時点でかなり危険な状態だった。見かねたマリーエさんが「助けに入っていいですか」と私に許可を求めてきたのでお願いしたんだけどね……。
マリーエさんの圧倒的な強さとアルクとエミール君の援護もあってすぐに魔物は倒せた。だけどその後が問題だったんだよ。
「誰も助けてくれとは言ってない」
別にお礼を言って欲しくてマリーエさんは助けた訳ではないと思うんだけど、冒険者の一人がもの凄く不機嫌そうに言ってきたんだよね。しかもドロップした物も自分達のものだって主張するし。なんだかなぁ。
マリーエさんは困っているし、アルクとエミール君は不愉快って顔。ドロップ品はどうでもいいし、これ以上ここに居てもいいことはないと思ってさっさと離脱することにした。
冒険者のルールとして「戦闘にむやみに手を出さない」という決まりごとがあるらしいんだけど、明らかに危ない場合は助けるよね、普通。
マリーエさんが見て「危ない」と判断したなら相当危険な状態だったと思うし、あのままだったらあの人達は死んでいた可能性も高い。
この階層まで来ているんだし、それが分からない程経験がないとも思えないんだけど、ああいう人達もいるんだなぁと思ったよ。まあだからと言って見殺しにする訳にもいかないし、困ったものだ。
あと引き返してきた冒険者とすれ違うなんてこともある。
限界まで潜って折り返してきた人達は、かなりボロボロの姿をしていることも珍しくない。計画的に進むパーティーもあるようだけど、ここはどちらかというと「記録を更新してやるぞ」的な野心家が多いようで、そういうパーティーは限界の限界まで行ってしまい、食料が尽きるなんてこともしばしばなんだそうだ。
するとこういう事が起こる。
「すまん、無理を承知で頼む。食料か水を分けてもらえないだろうか」
冒険者に助け合い精神は求められていないし、探索は自己責任だ。こういう場で貴重な食料を分けなくても責められることはない。ないんだけど、ねぇ。
目の前のパーティーは魔物にやられたのか傷を負っている人がいるし、明らかに青い顔をして具合の悪そうな人もいて満身創痍な様子。加えて何週間もお風呂に入っていないからね、臭うし全員ヨレヨレだ。
対する私達は、どこもかしこもピッカピカ。健康状態は万全だし、冒険者達との対比が凄いこと。余裕がありそうだと思って思わず声を掛けたくなる気持ちは分からなくもないけど、これで何件目だろう。
見捨てる訳にもいかず、私は水や食料、あと魔物からドロップしたポーションを分けてあげるんだけど、みんなにお人好し過ぎると言われてしまった。
でもね、私達はすぐに家に帰れるじゃない。水だって食料だって補充できるし、何といっても助けないと後味が悪いし。私だって余裕がなければここまで親切にはしないよ?
「それでも、貴重なポーションまであげてしまうなんて気前が良すぎます!」
みんなが要らないって言ったからストックがいっぱいあると思ってあげたんだけど、後から聞いたらダンジョンのポーションってかなり高額な物だったらしい。そういうことは先に教えておいて欲しいんだけど。
どうりで冒険者の人達に拝まれる訳だよね。でもまあ死んじゃいそうな人も居たし、あれで命が助かったというのなら良かったと思う。
「しかし、無茶をする冒険者が多すぎますね。戻ったら対策を考えなければなりません」
エミール君は行き倒れる可能性が高いパーティーが多いことを問題視したらしい。うん、是非対策して欲しい。無茶は駄目だよね。
私達はその後も、時折救助活動を続けながら進んで行った。
目指せ、とりあえず二十階層!




