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そんな訳でおじいちゃんがよく利用していたというお店にやってきました。
お店は食堂のような感じ。中に入って席に座ったけれどテーブルにメニュー表はなく、表に出ていたのと同じメニュー看板がいくつか置いてあった。
メニューは読めたけど、食材の名前が分からないんだよね。だからどんなものか想像が難しい。適当に頼んでみてもいいけど食べられないのは困るし。
あとはあれだ、まわりで食べている人と同じものを頼むとか。そう思ってキョロキョロしたけど、みなさんほとんど食べ終わっている人ばかり。お昼には遅い時間だったっけ。
「ご注文何にしますー?」
お姉さんが注文を取りにきてしまった。
「おすすめは何ですか?」
こういう時はお店の人に聞くのが一番だ。
「人気なのは看板メニューの『ウージ』ですね! お姉さんここ初めてですよね? 他ではあまり食べられないから、ぜひ食べて行って!」
初来店を見破られてしまった。お勧めされたら頼まないわけにはいかないよね。
「じゃあ、それ一つお願いします」
「ありがとうございまーす。少々お待ちください」
アルクさんはいらないと言うので一人分を注文したけど、さて。どんな料理が出てくるかすごく楽しみだ。
注文をしてからお客さんが数組出て行ったので、店には私たちともう一組しか残っていない。みんな店員さんと親しそうだったから、常連さんが多い店なのかな。
少し時間がかかると言われたので、飲み物を注文してアルクさんとしゃべりながら待つことにした。日本じゃないので無料のお水は出てこないのだ。
お店のお姉さんは、私が「お茶を二つ」と言ったら一瞬不思議そうな顔をした後、私の向かいに座るアルクさんを見て少し驚いていた。何が起きたのかなよく分からなくてアルクさんに聞いてみたら、認識阻害の術を使っているという。何それ? と思ったら説明してくれた。
「これは周囲からの視線を逸らせたり、著しく認識を低下させるものだ。私はここに居るが、周囲は気に留めないし居ないものとして扱われる。ただ、それほど強いものではないので意識を向ければすぐに私の存在に気が付くだろうし、多少心得のある者は簡単に気付く」
なるほど、つまり「空気になれる」ってことかな。さっきのお姉さんは、私が一人だと思っていたらアルクさんが居ることに気が付いて驚いた、と。
そんなことする必要あるのかなと思ったけれど「めんどう事を避ける為にこの術を使うのが習慣になってしまった」と語ったアルクさん。何かあったんだろうか。
そうしてしばらく話していると、厨房の方から良い匂いがしてきた。
だけど、うん? 何だか覚えのある香り……。
「お待たせしました~」
運ばれてきたのは丼ぶりだった。深めの器にごはん、そして……。
「ウナギ……?」
そう、目の前にはあったのはどうみても「うな丼」だった。焼き目も香ばしく、とても食欲をそそられる。
まずは食べてみよう、ということで。手を合わせて、いざっ。
「いただきます!」
タレはほど良い甘さで、表面の焼き具合といい中のふわっとした食感といい、とても美味しい。一緒に用意されたカトラリーはスプーンだったので、ちょっと違和感もあるけれど、うん、ウナギだ。
まさか異世界でウナギが食べられるなんて思わなかった。少しご飯の量が多かったけれど、しっかり完食させていただきました。
「ごちそうさまでした!」
美味しかった~。すっごく満足。ウナギ、いや「ウージ」だっけ? 勧めてくれたお姉さんに感謝だね。食後の余韻を楽しんだ後、私達は席を立った。
「美味しかったです」と声を掛けたら「また来てくださいねー」と笑顔で見送られた。厨房の人もひょこっと顔を出してぺこりとお辞儀してくれて、とっても感じの良いお店だった。うん、ぜひまた来たい。
お会計は食事が届いた時に支払い済みだ。その時驚いたのがカードを使った支払いだったこと。お姉さんの持つカードとアルクさんの持つカードを合わせて支払いは完了した。
何でも住民はみんな一人一枚カードを持っていて、それが身分証になっているらしい。で、カードには銀行に預けるみたいな感じでお金を貯めたり引き出したりできる機能が付いている。カード同士でお金のやり取りができるので、町の人は買い物をする時はみんなこのカードを利用しているそうだ。
驚いたよね、ヨーロッパの田舎町のイメージからいきなり現代風、キャッシュレス決済なんだからびっくりだよ。防犯機能もちゃんと付いていて本人以外は使えないようになっているんだって。
アルクさんはおじいちゃんと居る時にカードを作ったそうで、お金はおじいちゃんとの共同口座を使っているとのこと。私も今度作りに行こうと言われた。おじいちゃんや精霊さんが作れるんだから私でも大丈夫なのかな。
ともあれ、私は大満足でお店を後にしたのでした。
お腹いっぱい~。