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マリーエさんが呼び出された件を確認したら、護衛交代とマリウスさんまで処罰されそうな勢いだった。
いやそこはさ、さっきのロイさんの話を聞いてみんな巻き込まれたってことで責任無しじゃ駄目なのかな。
元々護衛を二人付けると言われたのに、一人でいいって断ったのは私だし、あの時は護衛以外のことで動いていてマリーエさんはどうしようもなかったんだから。
それにね、もし護衛がきっちり仕事して誘拐を阻止していたら今回の件は失敗していたんだよ? それを考えたら大目に見てもいいんじゃないかって思うんだよね。
「リカ様はお怒りではないのですか?」
私が処罰を不満に思っていることを察したのか、エミール君は不思議そうだった。
「あなたが誘拐されたのは護衛の失態です。そのことで我々に対して思う所はないのでしょうか」
マリーエさんを任命したのはマリウスさんだけど、エミール君はメルドラン領の問題として捉えているみたいだ。私が誘拐されたのは護衛のせいだって、マリーエさんやメルドランに対して怒ってるとでも思っているんだろうか。
「特に何も」
私がお金を出して雇っている訳でもないんだし、わざわざ護衛したり面倒を見てくれるなんて申し訳ないと思うことはあっても怒ったりとかあり得ない。
「マリーエさんがもう私のお守りなんて嫌だって言うなら仕方ないですけど、そうでないならこのまま続投でお願いします」
そう言ったらエミール君はすごく困惑した顔をした。理解出来ないって感じだ。
「いや、しかし」
「エミール、リカ様がそう望まれているのならその通りに。我々はこれ以上この方の不興を買う訳にはいきません」
エミール君の言葉を遮ったのはクロフトさんだった。
「リカ様、今回の件であなたを守らなければいけない立場にありながら危険にさらしてまったこと、メルドラン領主代理として謝罪申し上げます。大変申し訳ございませんでした」
クロフトさんが頭を下げ、慌ててエミール君も頭を下げた。
なんか私って謝られてばかりな気がする。
「ええっと、私は今回のことは怖い思いはしましたが、それがメルドランのせいだとかは考えていません。私はこうして無事ですし、これ以上の謝罪は結構です。もちろん領主様からの謝罪も必要ありません。私が求めるのはマリーエさんやマリウスさんを処罰しないで欲しいということくらいです。あと出来ればこれまで通り、私がガイルや領内に滞在したり移動するのを黙認していただければ嬉しいです」
私が無事なのは結果論だとか言われるとその通りだけど、色々言い出したらキリがない。私が望むのは平穏だ。なのであまり大げさにしないで欲しい、というのを説明したつもりだけど伝わっただろうか。
「あなたに、これまで通り領内に滞在して頂ける意思があると分かってとても嬉しく思います。ご希望通り、マリウス・メルベルク、マリーエ・デイルズ両名に処罰は科しませんのでご安心下さい」
そう言ってクロフトさんはにっこりと素敵な笑顔を見せてくれた。よし、これで言質は取ったしマリーエさん達は処罰無しだ。
隣のマリウスさんや後ろに立つマリーエさんを見たらすごく驚いた顔をしていた。マリーエさんは最初はちょっと複雑そうな顔をしていたけれど、「喜んでお仕えさせて頂きます」と言ってくれた。
いや、仕えてもらうなんて言われる立場では決してないんだけどね。巻き込んだ形になってごめんなさい。帰ったら美味しい物食べようね。
さてさて、ここへ来た目的も果たして私は終わった気になっていたんだけど、ロイさんを放置したままだった。この人、どうしたらいいのかな。帰っちゃ駄目?
困っていたら部屋がノックされてまた誰かが来たようだった。
今度は誰だろう。そう思っていたら、案内人が扉を開けてその人が部屋に現れた瞬間、みんながざっと一斉に跪いた。え、何事?
「殿下」
美しい金の髪に赤い瞳、仕立ての良い服は少し派手だけど、それに決して負けない存在感と顔の良さ。そう、部屋に入ってきたキラキラまぶしいこのお方は、この国の第三王子のギルベルト殿下でいらっしゃいました。さすが王族、オーラが半端ない。
突然の王族のお出ましに驚いたけれど、これは私も跪いた方がいいのだろうか。私とアルク以外はまだ膝をつき、頭を下げた姿勢のままだった。
「ああ、そのままで」
私がどうしようと思っていたら、何故か殿下が私の方へ進んできて手を差し出してきた。
え、何、どういうこと?
「間違っているだろうか。あなたの国の挨拶だと聞いているが……」
挨拶ってことは、これは握手ってことなのかな? 私は手を差し出して殿下と握手って、え、いいのこれ? 直接体に触るとか駄目なんじゃないんだろうか。
手を握ってしまってから気付くのもあれだけど、焦って上を見たら素敵な笑顔がありました。
「うぇ」
なんか思わず変な声が出た。だけど、目の前に迫力の王子様スマイルだよ? 本物だよ? アルクの顔にはだいぶ慣れたけど、これはまた違った格好良さでドキドキが止まらないし、変な声も出るって。殿下は面白そうに笑ってくれたから良かったけど、不敬とかで処罰されないかすごく不安だ。
「コバヤシリカです。はじめまして。お会いできて光栄です?」
なんだか最後が疑問形になったけど、一応挨拶だけはした。いやあのね、一般庶民にいきなり王族の相手なんて無理だから。




