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「ああ、さっきの」


「そうです、バイロン・イーガンの娘のルーチェです。彼女は先ほどもご覧になった通りの我がままで自分勝手な人物ですが、父親が権力者ということもあって彼女もその恩恵を受けていました。バイスの事も顎で使っていましたしね」


 うわぁ、それはまた。バイスも大変だ。


「ルーチェはコンテスト会場であなたとエミール様が接触するのを目撃しました。彼女は自分の婚約者に近づく女として、あなたのことを排除するようにバイスに命じたんです」


「え、待って下さい。私はそんな、エミールく、エミールさんとは少しお話しただけですよ。どうしてそんなことになるんですか。それに排除って……」


 危ない、心の中でいつもエミール君呼びしていたから思わず言いそうになってしまった。


「彼女なりの理由があるんですよ。排除は、まあ簡単に言えば「始末しろ」「殺してしまえ」ですかねぇ?」


 笑顔が怖いよ、ロイさん。


「彼女は以前からエミール様に相当入れ込んでいて、近付く女性はそれこそ徹底的に潰していたようです。嫌がらせや噂を流すなどは良い方で、人を雇って襲わせたりさらったり。父親の力を使ってやりたい放題です」


 思わずエミール君を見たら、すごく嫌そうな顔をしていた。ルーチェにロックオンされて大変だったみたいだけど、女性の被害が相当ひどそうだよね。ちゃんとケアされてるのかな。それにルーチェがやったと分かっているなら捕まえればいいのに。


「イーガンは娘を溺愛していて権力で周囲を黙らせていました。それに女性は醜聞を恐れます。泣き寝入りも多かったのでしょう」


 何それ、ひどい話。


「もともとイーガンは娘を王族に嫁がせようと考えていたようです。ですがルーチェは顔は良いですが頭が少々足りず、本人も殿下方にはあまり興味を示さなかったようですね。しかし、あるパーティーでエミール様を見かけ、父親に「私、あの方と結婚するわ」と言ったそうですよ。

 イーガンはメルドランの領主一族なら悪くないと考えました。しかも弟とはいえ優秀なエミール様なら自分の後押しがあれば領主の座も狙えます。娘を領主の妻にでき、子供が生まれれば外戚としてメルドラン内での権力まで得られると考え、正式にエミール様との婚約を領主に申し入れました。

 しかし、エミール様はお兄様を支えると宣言なさっているように領主の座に興味がありません。自分と結婚することで領主になれるなどと言われてもなんのメリットもなく、ルーチェに対しても興味を持たなかったどころか付きまとわれて迷惑がっていらっしゃいました」


「あんな自分のことしか考えないような、しかも私の事を顔でしか見ない者に、嫌悪以外に持つ感情がありません」


 すっごく嫌そうなエミール君。そうか、顔かぁ。


「婚約は検討ということで長らく保留とされていましたが、中央領からの情報でイーガンへの疑惑が出た為に白紙に戻されました。もちろん理由は伏せられたのでルーチェは何故だとそれはそれは暴れたそうです。そしてしばらくしてひとつの噂が彼女の耳に入りました。「次期領主の婚約者に有力候補がいる」と」


 ほぉ。


「あなたですよ」


「は?」


「言ったでしょう? 賢者の血を望む者は多いと。メルドランの領主はその筆頭ですよ。あなたがガイルに現れて、次期領主の婚約者にとメルドラン領都ではかなり盛り上がったのですが……ご存じないですよね?」


 うん。


「なんでしょうねぇ、この温度差は。まあとにかく、ルーチェはあなたが現れたから婚約は白紙になったと考えました。あなたの殺害も計画したようですが、さすがにそれはイーガンに止められたようです」


 殺害計画……ルーチェ怖い。


「止められはしましたが、それであきらめるような彼女ではありません。情報を得てここカランまでやってきました。領主候補二人が出席するコンテストであなたとの接触があると踏んだのですが、まあ大正解だったわけですね。あなたがモリス工房に肩入れしているということは商業組合からの報告でメルドラン領主も掴んでいたようですし、お二人があなたと会う機会を狙っていたのは間違いないでしょう」


 ね、とロイさんはクロフトさんとエミール君を見た。二人は苦笑している。それにしても商業組合さん、守秘義務はどうした?


「そして会場であなたに対するエミール様の態度を見て彼女は確信したんですね。あれが邪魔な婚約者候補だ、と。で、バイスに命じた。私はずっとバイスの側にいましたからねぇ、しっかり全部聞いてましたし証拠もばっちりです」


 おお、証拠。鏡の映像と音声残せるんだから何かアイテムがあるのかな。


「バイスはルーチェの事は嫌っていましたが、内心はともかく命令には従います。あなたを排除されては困りますからね、私はバイスに忠告しました。殺すのはまずいですよ、と。あなたの正体やもし殺せばメルドラン全土だけでなく王家も敵にまわすと教えて差し上げました。バイスもメルドランの貴族ですから賢者に対する思いはありますし、あなたを害することを躊躇しました」


 誘拐はされたんですけどねー。


「ところがですがね、あなたがモリス工房を援助をしているお嬢様と同一人物だと知られてしまったんですよ。ルーチェの命令からとりあえず部下にあなたを見張らせていたんですが、その一人が気付いて報告したんです。バイスは驚いていましたね、よりにもよって怪しんでいた人物が賢者の孫です。

 賢者という存在は彼にとってはお話の中の人物で、賢者のすることにはすべてに意味があったと教えられて育っています。あなたがモリス工房を援助していることも何か意味があると考え、自分達の悪事もすべて知られているのではとパニックになりました」


 勝手に妄想して焦った訳ね、私は何も知らないのに。


「ですから私は少ーしだけアドバイスしました。ほら、勢い余ってあなたを殺そうとしたら大変じゃないですか。だからあなたを誘拐して、それを助けたという形を取れば少しは印象が良くなるんじゃないですかって教えてあげたんです」


 誘拐はロイさんが原因かっ!


 そそのかすんじゃなーいっ!!



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