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 彼女がその言葉を発した途端、部屋の空気は一変した。


 一気に緊張感が漂う。アルクとマリーエさん、マリウスさんまで険しい顔で臨戦態勢だ。


 えっと、待って待って状況整理。


 私達は控室でエミール君からの呼び出しを待っていた。そこに彼女が現れて、初対面にもかかわらず「あなた死んだはずでしょう?」と言われた。


 何故?


 昨日の事件のことを知っているのはごく一部だというのは聞いている。しかも、事件の詳細、特に私が誘拐されたという点は伏せるとエミール君は言っていた。


 マリーエさんの説明によると、なんでも高い身分の子女は誘拐されたということ自体が醜聞なんだって。お嫁にいけないってやつ? 私に関係あるかはともかく、あまり騒ぎにしたくはないので異論はなかったけど。


 そ・れ・な・の・に、だ。彼女は私が殺されかけたことを知っている。いや、実際は犯人達は誘拐しただけなんだけど、依頼主は私を「殺せ」と命令したらしいから、そのことを知っているってことだ。


 そこから考えられるのは……


 誘拐した犯人と繋がりのある人物。もしくは依頼主かそれに近い人ってこと、なのかな?


 えー、私あの人知らないよ? どういうこと?


 私は大混乱だった。だけどそんな私にお構いなしに、お嬢様は私の方へ近付いてきた。


 よくこの殺気漂う私の近くに来られるなぁと思うけど、お嬢様はアルク達のことは目に入っていないらしい。ある意味すごいスルー力だと思う。空気が読めない、いや読まない人なんだろうか。


「ふぅん?」


 手に持った扇を広げて口元を隠しているけれど、その目で私の事を笑っているのがよく分かる。


「所詮着飾ったところでその程度。可哀そうなものねぇ。あなたはエミール様にはふさわしくないわ。さっさと消えなさい」


 エミール? どうしてここでエミール君の名前が出てくるんだろう。しかもサラリと莫迦にされたし。


「あなたはどなたです? この方に対して随分と失礼な言いようですね。しかも先ほどの発言、見過ごす訳にはいきません」


 マリウスさんが前に出た。そうそう、そうだよ、さっきのこの人の言葉。なんだかすごく普通にしてるけど、この人が犯人側の人ってありえるんだろうか。ただ誰かに聞いただけ?


「何者です? 無礼な。ああ、まったく、これだから田舎者は困るのです。誰か、兵を呼んできなさい。この者達をここから追い出してちょうだい」


 ちろりとマリウスさんを見ると、お嬢様はさも嫌そうにそう言った。いやいやいや、マリウスさんに対して田舎者って。このお嬢様、さっきから偉そうだよね。しかもすごく失礼だ。ふわふわの金髪に大きな緑の瞳。間違いなく美少女なんだろうけど、とっても感じが悪い。


 彼女の言葉に侍女の一人が動いたけど、彼女が近付く前に扉は開かれた。そして部屋に入ってきたのはエミール君だった。


「エミール様!」


 お嬢様が嬉しそうな声を上げたけど、エミール君はお嬢様を一瞬見ただけでまっすぐ私に向かって歩いてきた。


「お待たせして申し訳ありません、お迎えに上がりました。場所を移しましょう」


 うん、このお嬢様はいいのかな。何だか刺さるような視線を感じるんですが。


「お待ち下さいエミール様! このような女に構う必要などございませんわ!」


「黙りなさい、ルーチェ・イーガン」


 エミール君はお嬢様を睨みつけた。おお、美少年の睨みはなかなか迫力があるね。しかし、このお嬢様はルーチェさんとおっしゃるらしい。可愛らしいお名前だけど、やっぱり記憶にない。面識はないと思うんだけどなぁ。


 エミール君は溜息をつくと、ルーチェに向き直った。


「大体、何故あなたがここに居るのです? 呼んだ覚えはありませんよ」


 エミール君はルーチェに厳しい言葉をかけるけど、彼女はひるまなかった。


「私はあなたの婚約者なのですから、会いに来るのは当然のことではありませんか!」


 メンタル強そうな人だよね。私はみんなにあの人を知っているか聞いてみたけど、やっぱり知らないって首を振られた。だよねぇ。


 でもこの人がエミール君の婚約者なんだ。だけどエミール君はずっと嫌そうな顔をしている。


「もともとあなたとの婚約は検討段階だったはずです。今は白紙に戻っていますし、あなたと婚約した覚えは一度もありません。それとも、そんなことも理解出来ないほどあなたの頭は悪いのですか?」


 おお、なかなか直接的な毒舌。でもこれってどういう状況なんだろうね。


「何をおっしゃっているんです? 私との婚約がなくなれば父の後ろ盾を失います。そうなれば、あなたは次期領主の座に就けないのですよ、分かっていらっしゃるの?」


「あなたこそ一体何をおっしゃっているんです? 私は領主になるつもりなどありませんし、もちろんあなたと結婚するつもりもありません。そろそろその勘違いをやめていただけませんか、迷惑です」


 おお、言い切った。対するルーチェさんは「な、なんですって……」とみるみる顔を真っ赤にさせてぷるぷるしている。


 私達はどーなっちゃうのかなー、と見ていたんだけど、さらに部屋に入って来た人物によってこのよく分からない状況は終了となった。


「兄上」


 最初に入って来た人に向けてエミール君が発した言葉で、彼がお兄さんのクロフトさんだと分かった。品があって大人な雰囲気。線が細そうな所はエミール君と同じだけど、色彩とか顔の造りはマリウスさんの方に似てるかも。


 で、何故かそのクロフトさんの後に見知った人がひょこっと顔を出した。


 あ、ロイさん見っけ。



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