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誘拐されたはずなのに、何故かお説教されたり困った子扱いされている私です。
このロイさんて人、一体どういう立場の人なんだろう。敵ではなさそうだというのは分かったけど、いまいち掴めないんだよね。何者?
「それから、あなたは対外的には「収納」だと言っているようですが、何か遠距離を簡単に行き来できる力をお持ちですよね? 箱の中で身動きできずに使えなかったとしても、私が出してあげた時点で力は使えたはずでしょう? 今ならしびれも取れて動けるのに、何故逃げようとしないんですか?」
私がロイさんのことを怪しんでいたら、突然爆弾を投げてきた。え、何でこの人、私の力の事を知ってるの? 怖っ。どうしよう。
「ああ、ほら、駄目ですよ。そんなに慌てたら認めたも同じです。あなたか保護者さんか、どちらかに能力があるとは思っていましたが、やはりあなたですか。ふむ、なんて分かりやすい」
鎌をかけられたってこと? もうヤダ、この人。
「ああ、すみません。別にいじめるつもりはないんですよ。ただね、あなたはもう少し表情を取り繕ったり、とっさの対応を学んだ方が良いですね。世間には怖い大人が多いですからねぇ、あなたみたいな素直な人は、すぐに食べられてしまいますよ? あとですね、なぜ私があなたの能力を知っているのかというと、これは事実からの推測です」
食べられると言った時の笑顔がすごく怖かった。アルクに会いたい。
だいたい大人しくしてろと言ったのはこの人なのに、なんで逃げようとしないかなんて怒られなきゃいけないの? 理不尽。それに逃げようとして見逃してくれるんだろうか。
「もちろん逃がす訳ないじゃないですか」
そう言ってにっこり笑うロイさん。ほんとヤダ、この人。
だけどさっきの話は少し気になったので質問してみた。
「推測ってどういうことですか?」
「おや、気になりますか?」
うん、気になる。私が頷くとロイさんは話し始めた。
「あなたは昨日、突然カランに現れました。町中にある家を借りていらっしゃるようですね。しかし前日まで、あなたはガイルに居たことが分かっています。いつの間に移動したのでしょう。移動手段も不明ですし、馬車の手配はカランの家から会場まででした。しかも昨日はカランの借家に帰られたのに、ガイルで護衛のマリーエ・デイルズの姿を確認しています。それにこれまでも何度かカランであなた方の姿は確認されていますが、いずれも移動した痕跡がない。これはもう、何か特別な移動手段があると言っているようなものでしょう?」
はい、その通りです。まあちょっと調べれば分かることだけど、私達ってずっと監視されてたんだろうか。だけどさっきの話からすると、通信手段があるってことだよね。え、それ知りたいんだけど。
「気にする所はそこですか、まったく。いいですよ、この件が解決したらお教えしましょう」
相変わらずの笑顔でそう言われた。
ロイさんは怖いし胡散臭いけど、私に危害を加えるつもりはなさそうだ。なのでその後も、ぽつりぽつりと話を続けた。で、その話からここがカランの町はずれだということが判明。工房用の木材倉庫の一つらしい。
思ったより移動していなかったんだよね。暗闇だと時間の感覚が狂うというけど、割と短時間の移動だったようで、私が意識を取り戻したのもかなり早い段階だったようだ。
あと誘拐の手口なんだけど、私が意識を失ったのはスタンガンのような電気ショックを受けたからで、他にも女の子の幻覚を見せたり周囲から私の姿を見えなくするなど、何人もの連携プレーで誘拐は成り立っていたそうだ。アルクとマリーエさんの目が無くなった一瞬を狙ったとのことで、誘拐や犯罪のプロ集団なんだって。
まんまとおびき出せれてしまった私に「駄目ですねぇ」って、やっぱりロイさんに駄目出しされたけど、誘拐犯の仲間に言われたくない。
で、本当は依頼主からは私を消せと言われていたらしいんだけど、何かの交渉材料として使う為に私は生かされているんだとか。やだやだ、怖いっ。
その依頼主っていうのが誰か聞いたけど、それについては濁されてしまった。もうすぐ分かると言われたけど、一体誰なんだろう。教えてくれたっていいのにって思う。それに結局ロイさんの正体も不明なままだ。
しかしまさか私が誘拐されることになるとはなぁ。さっきロイさんに怒られたけど、こちらで今後も行動するなら本気で自衛手段を考えなきゃいけないかもしれない。それともガイルから出なかったら平気? うーん。
その後も誘拐の舞台裏なんかを聞きながら過ごした。そしてちょっと自分の今の状況を忘れそうになった頃、突然外が騒がしくなった。
固い金属がぶつかるような音、叫び声、何かが割れたり倒れるような音。そして近くまで足音が聞こえてきたと思ったら、部屋の扉が勢いよく開いた。
「リカっ!」
「リカ様っ!」
駆け込んできたのはアルクとマリーエさん。
「アルクっ!!」
私は駆け寄ってきたアルクに抱き着いた。アルクもぎゅうっと私を抱きしめてくれる。
「無事で、良かった」
アルクは噛みしめるようにそう言った。
私はその言葉に、心配をかけたことや今更ながらに殺されていたかもしれないという恐怖に襲われた。ほっとした反動だろうか、涙がにじんできた。今まで平気な振りをしてきたけど、やはりすごく心細かったし怖かったのだ。
「ふむ、やはりとても懐いていらっしゃいますねぇ。なかなか手強そうです」
アルクとの感動の対面の傍らでロイさんが呟く。
「お前は……この間の?」
アルクはロイさんから隠すように私を抱き込み、マリーエさんはロイさんに剣を向ける。
「はい、先日振りでございます。ああ、私は敵ではないですよ。あなた方の大事な姫様を保護していたんですから、感謝されこそすれ剣を向けられる覚えはありませんねぇ」
ロイさんは二人に対して余裕な表情だ。
「ね、私の無実を証明してくださいませんか?」
ロイさんが私に向かってそう言ってきた。アルクとマリーエさん、ロイさんの三人の視線が私に集まる。
「……いじめられて、怖かった」
言った瞬間、ロイさんは吹き飛ばされ、窓を突き破ってお外へピューンと放り出された。
あ、あれ、ちょっとまずかった、かな?




