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 さて、領主様の次男、エミール君から逃げてきました。


 心配そうに待っていたイヨさんとも合流して、今度こそコンテストをゆっくり見て周っている。


 以前に見た展示棟とは少し雰囲気が違って、それぞれ趣向をこらした作品があちこちに展示してあった。装飾がこれでもかと施された芸術性重視な家具とか、少し東洋っぽいエキゾチックな意匠があったりと見ていてとても楽しい。ソファや椅子の展示もあって、いいなぁと思う物もいくつかあったし、やっぱり来て良かったって思う。


 もちろんニールさんの所にも行ったよ。さっきの賑わいからは少し落ち着いたようだったけど、それでもまだまだ人は途切れなくて声を掛けるタイミングが難しかった。


 やっと話が出来てニールさんの成功に「おめでとう」を送ったら泣きそうな顔をされてしまった。まだ受賞は分からないけど、これだけ注目されたら半分以上は目的を果たしたようなものだよね。よかったね、ニールさん!


 忙しそうな彼を邪魔しちゃいけないのですぐにブースを離れたけど、あれだけ忙しそうだと他に人手が必要そうだ。離れて行った工房の人達が少しでも戻ってくれればいいんだけど。そんなことを考えながら私はイヨさんの案内で会場を見て周った。うん、大満足。


 コンテストは全部で四日間の予定だ。とはいっても、最初の一日目はレセプションパーティーで終わりだし、中二日で一般公開があって最終日は表彰などを含めたパーティーが行われる。


 私は一日目のパーティーに出るつもりはまったくなく、二日目の今日から参加している。明日は別のフロアの展示を見るつもりなんだけど、実は最終日をどうしようかで非常に迷っていたりする。


 だって表彰式は見たいじゃない? もしニールさんが受賞するならその瞬間はぜひともその場でお祝いしたいし。だけどそうするとだ、さっきのエミール君をはじめ高貴な方々に混じっての出席になるし、もしかしたらご挨拶とかしなきゃいけないとか思うと気が重いんだよね。どうしたものか。


 マリーエさんによると、今カランには王家から国王の三男のギルベルト殿下がいらっしゃっているらしい。殿下だって。どんな人だろう、庶民には想像もつかないよ。


 で、その接待役としてメルドラン領主の名代で長男クロフトさんと、さっきの次男エミール君が来ているらしい。


 追加情報によると、次期領主はクロフトさんと言われているそうだけど、エミール君が大変優秀なことから彼を推す声も多いんだとか。エミール君はお兄さんが次期領主だと言って自分は領主候補から降りるつもりらしいんだけど、まだ二人とも若い上にお父さんもまだまだ現役なので現状維持とされているんだって。


 だからかどうかは分からないけれど、エミール君はお兄さんの補佐に周ったり、あまり目立つことは避けるような行動が多いらしい。さっきは怖くて逃げてきちゃったけど、エミール君も色々大変そうだなぁって何となく思う。


 いやそれよりもパーティーをどうするかだよ。出席どうしよう。




 なーんて、そんなことを悩んでいた時もありました。


 緊急事態です。なんと私、誘拐されてしまいました。


 本当に一瞬の出来事で、私はアルクやマリーエさんと一緒にずっと行動していたから、ほんの少しも誘拐されるなんてことは考えていなかった。もうね、うそぉって感じ。



 コンテスト二日目。


 前日と同じようにイヨさんの案内で昨日とは違うフロアの作品を見ていたんだけど、さすがに疲れて途中で休憩をすることにした。マリーエさんは部屋を用意するって言ったけど、そこまでする必要はないと思って私は会場の一角の休憩席に座った。


 それでイヨさんは会場の混雑具合などを確認しに行き、マリーエさんはお茶を頼みに席を離れ、私はアルクと二人になったんだけど、その途端に数人の女性が席にやってきた。


「あの、私、クリスタと申します。ずっと素敵な方だと思ってお姿を拝見しておりました。お名前を伺ってもよろしいですか? ぜひお近づきなりたいのです!」


「私も!」


「あら私だって!」


 どうやら彼女たちの目的はアルクらしい。すごく積極的だよね。自分から話しかけるとか、私には絶対無理。


 アルクは囲まれて迫られ、すごく困っていた。私はというと完全に蚊帳の外、居ないもの扱いだ。


 今日は普段と違ってアルクは姿を現し気配も消していなかった。私をエスコートするからって気を遣ってくれたんだけど、まさかこんなことになるとは。いや、まあ十分あり得た事態なのかな。


 私はお嬢様方のその勢いと迫力に少し距離を取った。で、アルクは人気者だなぁって眺めていたんだけどね、ふと傍らを見たら小さな女の子が居て、私に向かってにっこり笑ったんだよ。あら可愛いと思ってほほ笑み返したら、その子はトテトテと歩き出し、少し先で転んでしまった。


「あっ」


 私はとっさにその子に駆け寄ったんだけど、そこでブラックアウト。


 気が付いた時には両手両足を縛られ、箱のような物に詰められてどこかへ運ばれているところだった。ガタガタと揺れているし、これは馬車の中なのかな。


 いやぁ、それにしても鮮やかな手並みだった。私は自分がどうやって誘拐されたかをよく分かっていないし、アルクとマリーエさんの目を盗んでなんてなかなか出来ることじゃないよねと感心さえしてしまった。


 いやだけど、いくら二人が優秀でも私がおまぬけだとどうしようもないのかな。えっと、なんか大変申し訳ありません?


 あれ、これってもしかして怒られ案件だったりする……?



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