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誤字報告という機能を初めて知りました。皆様、ご指摘いただきありがとうございます。


 バートン・バイス。


 そう、彼こそがモリス工房を閉鎖寸前まで追い詰めた人物だ。


 工房に無理な注文をして困らせ、断られたら逆切れして嫌がらせをしてきた質の悪い貴族。彼の流した悪評や圧力で顧客離れがおき、おかげでモリス工房は経営難に陥ってしまった。


 親方の死だって直接ではないけど無関係とは言えないと思うし、あの優しいニールさんやおかみさんをあんなに悲しませるなんて、バイス絶対許すまじ、だ。


 そしてその最悪貴族のバイスが、今度はこのコンテストでニールさんにいちゃもんをつけてきた。工房に何か恨みでもあるんだろうか。執拗しているというか、どうしても工房を潰したい理由でもあるのかと考えてしまう。


「こんなもの認められるものか、失格だ、さっさと帰れ」


 バイスがニールさんを非難したのは最初だけで、そのあとは一緒に連れていた別の男が大声を出して騒いでいた。バイスはその様子をニヤニヤと眺めているだけだ。ほんと、趣味悪い。


 いい加減うるさいので止めたいんだけど、どうしたものかな。私が出て行っても効果はないかなー、なんて迷っていたら、新たな人物が現れた。


「そんなことを言うものではないよ。この作品は商業組合も認めているんだ。君達はそれを否定するつもりかい?」


 穏やかな口調でバイス達に向かって声を掛けたのは、一人の若そうな男性だった。


「なんだと。これが認められているなんて、そんな莫迦な事があるわけ……お、お前は」


「うん、久しいね、バートン・バイス。ああ、挨拶はいいよ。だけどね、あまり騒ぎを起こさないでもらえるかい? ここには高貴なお客様もいらっしゃるんだ。メルドランの評判を落とすような行動は慎んで欲しいな」


 とても品の良い、仕立てのよさそうな服を着た男性は、静かに、でも有無を言わせぬ口調でバイスを諫めた。


「いえ、そのようなつもりは……私は由緒あるコンテストにこのようなものを出すなと言いたかっただけで……」


「うん、だからね、さっきも言ったようにこの作品は商業組合公認だ。だからこれ以上の暴言は見過ごせないよ。さて、どうする?」


「……所用を、思い出しました。私はこれにて失礼致します」


 非常に悔しそうな声でそれだけ言うと、バイスは撤退していった。一緒にいた男も慌ててバイスの後を追う。おお、速い速い。しかし、なんか思ったよりあっさり終わったな。いや、全然それでいいんだけどね。


「さて、皆さま、先程も申し上げましたた通り、商業組合はこちらの作品を認めております。しかも、大変興味深いものとして注目もしています。どうぞ彼の作品をじっくりご覧ください」


 男の人の言葉に、少し遠巻きに様子をうかがっていた人々は、興味をそそられてニールさんのブースに戻って来た。すぐにもとのような、いやそれ以上の賑わいになり、作品に対する質問や注文は受付けているかなども聞かれてニールさんは大忙しになってしまった。


 とりあえず大事に至らなくて良かったと安心していたら、先程の男の人が私の方に近付いてきた。あれ、思った以上に若いな。


「こんにちは。ご挨拶させていただきたいのですが、こちらでは人目があります。場所を移したいのですが、少々お時間を頂けますでしょうか?」


 うーん、有無を言わせぬ笑顔だね。一緒に行っても大丈夫かなってマリーエさんを見たら頷かれた。なので大人しく付いていくことにした。


 案内されたのは奥まった場所にある一室で、中は応接セットのある落ち着いた部屋だった。私とアルクが長椅子に隣り合って座り、マリーエさんは私の後ろに立つ。イヨさんには申し訳ないけど外で待機してもらった。


 私達の正面にはさっきの男の人。席に着くとすぐにお茶が用意され、人払いされたところでやっと自己紹介となった。


「まずはご挨拶が遅れましたこと、大変申し訳ございません。私はメルドラン領主の次男でエミール・メルドランと申します。以後お見知りおき下さい」


 綺麗な笑顔でご挨拶してくれたのは、なんと領主様のご子息でした。ということはマリウスさんの従兄弟だよね。うーん、でもあんまり似てないかな。明るい茶髪に瞳は青。綺麗だけど線が細いというか、ちょっと中性的で可愛らしい感じ。年齢は十五歳だそうだけど、どうだろうかこの落ち着きと大人な対応。どこぞのクラウスと同じ歳とは思えないよね。


「はじめまして。コバヤシリカです」


 ぺこりと頭を下げて、ご挨拶。これしか言えない私ってちょっと情けない? でも何を話したらいいのかなんて分からないんだから仕方ないよね。貴族の会話なんて知りません。


 だけど、そんな私にはお構いなしにエミール君は話しを続けた。


「お噂は伺っています。あの偉大なる賢者様のお孫様にお会いできて光栄です。この後、ご予定はありますか? よろしければ会場をご案内致します」


「いえ、案内人がおりますし、予定もあるので結構です」


「そうですか、残念です。ああ、それでは晩餐をご一緒にいかがですか? お泊りは「銀の靴」でしょう? ゆっくりお話を伺いたいし、いかがでしょう?」


 なんだか知らないけど、エミール君はグイグイくるなぁ。だけど堅苦しい席は避けたいんだよ。ご飯はリラックスして親しい人達と食べるから美味しいんだよ。緊張してなんて食べたくない。それに残念、私は「銀の靴」には泊まらないんだよ。


「いえ、夜も予定がありますので申し訳ありません。あの、まだこれから色々と見て周る予定なのでそろそろ失礼しますね」


 私ははっきりとお断りをしてさっさと退散することにした。アルクは私が逃げたがっていることを察してすぐ一緒に席を立ってくれる。ものすごく失礼だって事は分かっているけど、あまりここに居たくない。何だか圧が凄いし怖いんだよね。私、何かしましたかって感じ。


 私が断るとは思わなかったのか、またはこんなにすぐに席を立つと言い出すのは予想外だったのか、エミール君はかなり驚いていた。だけどそんなこと私は知らない。ここはさっさと逃げさせていただきます。


 さよならー。


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