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今日はカランの仕立て屋さんに来ている。
なんでかって言うとね、ニールさんと私のコンテスト出席用の服の受取りに来たんだよ。まさかわざわざ仕立てることになるとは思わなかったよねぇ。
今までは工房の代表は親方で、ニールさんが表立ってコンテストに出席することはなかった。だけど、今回はニールさんが工房の代表者になる。なので会場での作品説明やパーティーの出席などがあり、そのための服装もある程度きちんとしないといけないらしい。まあ、王族とか高位貴族とかが出席するからね。
コンテストへの出品を決めてからマリーエさんに言われて気付いたんだけど、ニールさんはそこまで考えていなかったみたい。なのですごく慌てていた。もちろんニールさんはそんな服は持っていなかったし、おかみさんも「あらそう言えば」なんて言って親方の服をひっぱり出してきたけど、まったく体形が違ってニールさんが着ることはできなかった。
だから新たに買う必要があったんだけど、既製服にはないスーツみたいなタイプなので仕立てることになったんだよ。とにかく気付けて良かった。マリーエさんお手柄だね。
それでね、マリーエさんは私の分も一緒に作りましょうって。今の恰好じゃ駄目だって言うんだよね。
コンテストを見に行くだけだし、必要ないのではと思ったんだけど、会場に入るのになんとドレスコードがあるらしい。なので仕方なく私も服を作ることになった。
別にね、服を作ることが嫌な訳ではないんだよ。私はドレスとかは着たくないって思ったんだけど、見本を見せてもらったら丈の長いワンピースと、その上にスカートと同じくらい裾が長くて大きな袖のある上着を羽織る感じだった。ウェストは少し高めの位置で帯で締めていて、うん、まあこれだったらいいかなと思えた。
私の知っている貴族ってマリウスさんとかマリーエさんだけど、二人ともいつもすごくシンプルな恰好をしている。仕事中だからとかマリーエさんは騎士職だからっていうのもあるけど、あまり装飾が多い恰好ってしていないから、実際がどうなのかっていうのが良く分からない。
どちらにしろフリフリドレスは勘弁して欲しいし、正装が必要な場所にはなるべく出たくないなぁとは思ってる。
それでね、ドレスではなかったけど出来上がった服を見たらなんと、色が白だった。
見本はもっとカラフルで、私は地味な大人しい色にしようと思ったのに、採寸だけで特に色の相談がなかったからおかしいなとは思っていたんだよ。何で確認しなかったんだろう、私。
ワンピースが黒で上着と帯が白。今日初めて見て驚いたんだけど、マリーエさんの指示だったらしい。サイズはぴったりだったけど、何でこの色?
黒とか白とかモノトーンは好きだよ。普段もよく着るけど、これは下の黒は襟元と裾にくらいしか出ていないから、ほぼ全面的に白。なんだか聖職者とかの法衣っぽい感じもするし、すごく良さそうな生地で袖や裾にたくさんのレースが使われていていて高級感もある。うーん、汚しそうで怖いな。
そんなことを言ったらアルクは「似合ってる」って褒めてくれて、ついでに汚れないように服に術を掛けてくれた。うん、ありがとう。でも色々不安だなぁ。これって目立たない?
不安がっていたら、アルクは自分の服も白だと言ってきた。うん、美人は何を着ても似合うけど、アルクは白が一番似合うね。「お揃いだね」って言ったらアルクは嬉しそうで、私まで何だか嬉しくなった。不思議だね、こんなちょっとしたことで気分が明るくなれるんだから。
ニールさんは詰襟に長めの上着、色は無難な茶系でまとめていた。とても落ち着いた雰囲気で、ニールさんに良く似合っている。褒めたらすごく照れていた。
まあそんな訳で、無事に出品作品も完成。出席のための服も用意が出来ていよいよコンテストの開催だ。何だかドキドキするねー。
◇
コンテスト当日。
マリーエさんも朝からガイルの家にやってきて、扉を使って一緒にカランへ出発した。
事前にマリーエさんが馬車の手配をしてくれて、私達はカランの家にやってきた馬車で会場へ向かう。馬車は前に乗ったものよりかなり上等な感じだったけど、乗り心地はあまり変わらない気がした。
今日のマリーエさんの恰好は、私と同じように裾の長い上着を着ている。ただし下はワンピースではなくて動きやすさ重視のパンツスタイルだった。色も紺とグレーという渋い配色で、帯が水色。髪と瞳の色で合わせてあるのかな。帯剣しているのはいつもと同じだけど、なんだかいつも以上にきりりと凛々しい感じがして恰好良いね。
私はというと、仕立てた服を着てなんと髪まで結っている。髪のことなんて何も考えていなかったんだけど、早めにやって来たマリーエさんに「結いましょう」と言われてあっという間に綺麗に結い上げてもらった。器用だなぁ。
さらにお化粧もしていいかと聞かれてお任せしたら、なんだかちょっと良い感じのお嬢様風になった。凄いね、マリーエさん。女子力高い。日本にはお化粧品があふれているけれど、私は普段からお化粧は最小限。だって何をどう使っていいかよく分からないし。
色々手慣れているなと思ってマリーエさんに聞いたら妹さんが居るそうだ。髪やお化粧はせがまれて昔やってあげていたそうで、とっても仲が良さそうだった。良いなぁ。
私が妹さんを今度お茶に誘ってもいいかと聞いたら「喜びます」ってマリーエさんは笑顔だった。妹さんは甘い物好きかな。会うのが楽しみだ。
さて、あっという間に会場に到着した。建物の前は馬車で混雑していたけど、少しだけ待って正面玄関前で降りることができた。
今日はね、ちゃんと姿を現しているアルクがエスコートしてくれるそうなのだ。なんだか気恥ずかしいけど、アルクがとっても恰好良いです。役得だね。




