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 パン祭り当日、どこまでも抜けるような青空。最高のお祭り日和だ。


 先ほど広場に設置された舞台で、先日正式に町長に就任したマリウスさんよる開会宣言もされた。うん、立派な町長さん振りだ。


 町長っていうと大した事なさそうに感じるかもだけど、領主の次が各町の町長だからね。しかもガイルは領内でも領都に次ぐ大きさで、結構大きな権力もあって地位は高いのだ。ちなみに国内でも最年少の町長らしい。


 そうそう、町長承認と一緒に、クラウスとアメリアの処分も伝えられていた。国の決定では、アメリアとラベールの離縁が認められ、その上でアメリアは侍女と共にリンデールへ強制送還された。


 クラウスは未成年ということが考慮されたのと、王都で指導していた副騎士団長からの申し入れもあり、二年間の猶予処分となった。二年間はメルドランへの帰領は認められず、副騎士団長監視の下で過ごし、思考や素行に問題なしと認められれば騎士になることもできるそうだ。


 ただし、これはそれほど甘い処分ではなく、彼の行いは広く知られていてどこへ行っても白い目で見られることになる。加えて同期たちが次々に昇進していく中、彼だけはずっと見習いの身分のままだ。二年を問題なく過ごせたとしても到底出世は出来ないだろう。


 そんな辛い選択をするか、もしくは領内で幽閉同然の生活を送るかを彼自身に選択させたらしい。クラウスは迷わず騎士として生きることを選んだそうだけど、果たして気位の高い弟がどこまで耐えられるか。そんな風にマリウスさんは語っていた。


 これでも穏便に済んだ方なのだそうだ。私が望まなかったこともあって、最初に言われていた貴族籍はく奪とかは無くなったそうだけど、私は十分重いと思う。あんな私に対しての暴挙や暴言を吐いたとかいう理由で罪になるとか、本当に勘弁して欲しい。私が耐えられない。


 父は引きこもり、義母は強制送還、弟は執行猶予中というメルベルク家の崩壊に、「覚悟していたとはいえ堪えます」と無理に笑おうとするマリウスさんはとても痛々しかった。メルドラン領主が後ろ盾になってくれているとはいえ、こんな中で真摯に町長として仕事を頑張っているマリウスさんは本当に立派だと思う。

 

 私は自分がここに現れなければこんな事にはならなかったんだろうなと考えると何とも言えない気持ちになる。でも、マリウスさんは私に対して何も言わない。自分だって周囲からの目が厳しいはずなのにね。


 逆にこの間のパーティーの時に「こんなことに巻き込んでしまって本当に申し訳ありませんでした」と謝られてしまった。直接二人の家族として私に謝りたかったって。個人として会える機会はなかなかないから、無理にパーティーに参加させてもらったとも言っていたね。あ、ケーキが食べたかったのも本当らしいけど。


 全面的に悪いのは弟とアメリアだから、私が気にする必要はないとも言われた。出来ればガイルに留まって欲しいけれど、出て行かれても仕方がないとも。


 私はとりあえず家があるし、当分はお世話になるつもりだと話したら泣きそうな顔をしていた。うん、今度またケーキをご馳走してあげようと思う。




 さて、私達は祭りの中心である市場にやってきた。


 町の人達は待ちに待ったお祭りに早くから広場に集まっていて凄い人出だ。流れる陽気な音楽や人々の笑い声、出店者達の呼び込みの声も明るく、祭りは始めからかなり盛り上がっているようだ。私までウキウキしてくる。


 やっほぅ、お祭りだー! 思わず走り出しそうになったらアルクに止められてしまった。「迷子になるから駄目」って私は子供じゃないよ? 行動が子供? 失礼な!


 気を取り直して最初に販売状況を見に行ったら、パンは順調に売れているようだった。今回は町から補助金も出ているし、食パン、いや山パンと角パンを知ってもらうことが目的なので試食も大盤振る舞いしている。


 ちなみに試食というのも珍しい手法らしいよ。無料で配るなんてと最初は反対されたしね。


 ひと口食べた人達はその柔らかさに驚き、珍しさともっと食べたいという欲求でパンは飛ぶように売れていた。ふふふ、美味しいよね。止まらないよね。沼にはまるがいいよ。


 あとはこれが一時の物珍しさでなく、日常で食べてもらえるようになればいいんだけどね。


 販売するパンはスライスはしていない。だいたい日本の二斤くらいのサイズを基本に販売していて、自分たちで自由な厚みで切ってもらうようになっている。


 そのまま食べてもいいし、コンロの上に網を置いたり鉄板で焼いたりと傍らで食べ方の実演もしていてみんな興味深げに見学していた。うーん、今度トースターとか提案してみようかな。


 アレンジパンに関しては野菜や肉を挟んだサンドイッチやジャムや果物、クリームをのせたデザートっぽいパンなど色々あった。


 中でも人だかりが出来ていたのは、大きな鉄板の上でパンとソーセージを焼いていて乗せたボリュームたっぷりなパン。


 何やら特製ソースを使っているそうで、匂いがたまらなく良かった。引き付けられるようにお客さんが次々に集まってきて、私もついフラフラと引き寄せられてしまった。やるなぁ。



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