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いつも市場の買い物などで使っていたガイルの家と外を繋ぐ扉。目立たないように小窓くらいの大きさで、しかも物しか出し入れしていなかったから最初は気付かなかったんだけど、これ、最後に繋いだ場所が記憶されていて、扉が消えても再度家から外に繋ぐことが出来たんだよね。
そう言えばおじいちゃんはこうやって使っていたよっていうのをこの間の検証の時にアルクが教えてくたんだけど、分かった時には「おおっ!」てなった。
で、その機能なんだけど、すごく便利なのに場所が上書きされてしまうのがすごく惜しいんだよ。保存機能があればいいのに。レベルアップとかで出来るようになったりしないかなと思ったんだけど、おじいちゃんは出来なかったとアルクは言っていたので望みは薄そうだ。残念。
実は今回のお出掛けは、この力を使って夜は宿をとらずに家に帰ろうかと考えていたんだよね。そういう使い方が出来るって気付いてすごく便利だと思ったんだよ。マリウスさんには私の扉の力は知られているんだろうって思い込んでいたので、だったらマリーエさんに知られるのはいいかなとか考えていたんだけど……。
でも、マリーエさんに私の力を教えないとなるとちょっと、いやかなりやりにくい。しまったなぁ、やっぱりネロさんに出掛けるなんて言うんじゃなかった。昼間居なくても帰ってくるなら言う必要なかったよね。ああ、やってしまった。
「むやみに使うのは危険だが、教えるか教えないかはリカの自由にすればいい」
アルクに術をかけてもらい、マリーエさんに聞こえないようにして私とアルクは会話を続けていた。
そうだねぇ、ある程度なら周りに教えてもいいかな。その方が私もやりやすそうだし。そういえば、おじいちゃんが別の世界の人だってことは国の一部上層部が知っているって前にアルクが言っていたよね。だったら扉のことも知られていそうだけど、どうしていたんだろう。
「信頼する者の前では扉を使っていた」
あ、そうなんだ。人前で使うことはあったんだね。でもどうしようか、マリーエさんはマリウスさんの紹介だし信頼できそうだけどまだ会ったばかりだし。あれ、でも考えてみたらマリウスさんだってそんなに親しい訳じゃないんだっけ。
「ならば誓約で縛ればいい」
このまま内緒にして旅するのでもいいかと思いかけていたら、アルクが何やら提案してくれた。
「誓約? 何それ、どういうこと?」
「リカを害さない、扉の力を口外しないと誓わせればいい。もし誓いを破れば相応の報いを受ける」
なるほど、そういう方法があるってことね。だけど「報い」っていうのが何なのかすごく気になるんだけど。
「誓約に盛り込む内容によって変わるが、命を奪うようなものがほとんどだ」
さらっと言ってくれたけど、命を奪うって物騒すぎなんですが……。
アルクが教えてくれた誓約はちょっと怖いけど、扉の事を話す必要がありそうだったら考えてみようと思う。もちろんマリーエさんが了承してくれたらだけどね。誓約の方法についてはアルクが知っていてすぐに準備できるというからお任せだ。
その後も少しずつ時間を置いては扉を出すことを繰り返し、今の所支障なく使えている。ついでにトイレも済ませられるので非常に快適な旅だと思う。トイレにすぐ行けるって安心感が違う。
あとね、途中で気付いてしまったんだけど、私この乗り心地の悪い馬車にずっと乗っている必要なくない? 一度馬車の中で扉を出したら家に居て、目的地に着いたら出て行けばいいのではないだろうか。おお、これは凄い発見。
「マリーエに居ないことが分かったら騒がれるのでは?」
アルクに指摘されたけど、そこはほら、アルクの力でちょちょいと私の身代わりか何かを作ってもらってごまかすとか。
「一時的にごまかせたとして、どうやって目的地に着いたことを知る?」
うーん、それもそうか。扉の維持って出来ないんだよね。アルクとの連絡手段もないし駄目か。まあね、旅は道中も含めて楽しみたいから本気じゃなかったし。本当だよ。
一応、到着時間が分かればいけるかもとか、他に何か活用法はないかなんてことをちょこっと考えながら、アルクとおしゃべりしたり、景色を楽しんだりして過ごした。これからの旅の修正案なんかも二人で考えたよ。
だけど馬車の速度って本当にゆっくりなんだね。時間は結構経つけどあまり進んだ気がしない。今ガイルからどれくらい離れたんだろうか。
途中でお昼休憩を挟んだんだけど、町も村もないのでマリーエさんが用意してくれた携帯食を食べた。最初に聞いた時はどんなものかとすごく興味があったけど、出てきたのはカッチカチの丸パンと干し肉だった。経験と思って食べてみたけど、うん、ものすごく固かった。
初日からこれなんだなぁと思ってちょっとショックだ。お店や屋台のご飯は美味しいから期待していたのにすごく残念。なので私は早々にギブアップして用意していたおにぎりを出した。
マリーエさんにあげたら最初は遠慮していたけど、食べたら美味しいって喜んでくれた。中身は市場で買った魚の佃煮みたいなもの。ちょっと甘くてうまうまだ。
お茶を飲むのにお湯を沸かしてくれたので、ついでにスープも出した。汁物があると落ち着くよね。マリーエさんはこれも気に入ってくれたみたいだし、旅の野外での食事はさっきのものが定番らしいので今後は私が用意しようと思う。
さすがに荷物のことでマリーエさんに疑問を持たれたので「収納の力があるんですよ」と言ったら驚かれたけど納得してもらえた。しかも「さすがはリカ様です」とよく分からない尊敬もされた。むず痒い。




