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 そして例の「結婚」発言だけど、これは母親のアメリアとクラウスの乳母でアメリア付きの侍女が関わっていたそうだ。クラウスが父親に謹慎を言い渡され、焦って母親に相談したらしい。



 クラウスは屋敷の離れにやってくると、アメリアに面会した。そして私と会ったこと、その結果父親を怒らせて謹慎になったことを話し、もしかしたら勘当されるかもしれないと母親に泣きついた。


「あら、困ったわねぇ」


 アメリアはそう言うと、少し考えたそぶりを見せた後、すぐに控えていた侍女に向かって何か良い案はないかと尋ねた。すると侍女はこう答えたのだ。


「クラウス様がその賢者の孫を名乗る女と婚姻すればよろしいのです」


「は? 俺があの女と? 冗談ではないぞ!」


 クラウスが難色を示し、アメリアも同様に侍女に反対する。


「そうよ、詐欺師の孫なのでしょう? 私のクラウスがそんな女と、しかも平民となんて考えられないわ」


「クラウス様はまだ未成年なので婚約となりますが、別に形だけでよろしいのです。平民が貴族と婚姻できるのですから女は喜んで受け入れるでしょうし、謝罪としてクラウス様が誠意を見せたと思われることでしょう。ラベール様も婚姻となればクラウス様を勘当などとはもう言わないはずですし、女に価値があると周りが見るのならばクラウス様の評価も上がります。もし都合が悪ければすぐに婚約を破棄するなり離縁すればよいのです。相手は平民ですし、何とでもなりましょう」

 

 これね、アメリアが居る離れに設置してある盗視聴の道具から再生された会話なんだよ。鏡を通して映像と音声の両方で記録されているそうだ。相変わらず技術レベルがよく分からないよね。


 その後もクラウスが私との婚姻を渋ったり、他に何か方法はないかとか色々話し合ってはいたんだけど、結局それしかないということで納得したらしい。

 いやいやいや、どこからつっこんでいいのか分からないけれど、おかしいからね、色々と。しかも平民平民って本当に下にみてくれちゃって。


 でも貴族なんてこんなものなのかな。マリウスさんとかラベールさんとか、あとオリバーさんも貴族らしいけど、みんな腰が低くて私にすごく丁寧だから意識しなかったけど、平民に対する貴族の態度ってこの世界ではこれが普通だったりするんだろうか?


「いえ、そんなことは……。まあ、貴族の価値観で平民に対してかなり横柄な態度をとる者がいることは確かです。ただ、私は平民だからと言って粗雑に扱うような真似はしませんし、相手を尊重します。私は仕事柄、平民と関わることも多いですし、ガイルの役所では優秀な平民の採用を積極的に行っていますよ。ただ、場所によっては差別的な扱いをするのも事実です。貴族の中には平民と一切関わることのない人も大勢いますしね」


 貴族と平民は住み分けされていて明確な上下はあるようだ。ただ、ガイルの町はその辺が少しゆるいらしく、平民との距離感が他より近いらしい。


 メルドラン領全体としてはもう少しはっきりと区別があるとのことので、ガイルを出ることがあったらその辺は注意した方が良いのかもしれない。日本にいると身分差とかを意識することってないから戸惑いそうだ。


 クラウス達はその後も話し合いをしていて、どうやって私と接触するかを考えていた。でも、結局意見を出すのはあの侍女なんだよね。他の二人は考える素振りだけみたいだ。


 マリウスさんによると、アメリアが嫁いでくる時にリンデールから一緒に連れてきた侍女だと言っていた。


 話している内容からはアメリアやクラウスに従う使用人も少しはいるらしく、お金を渡して情報を集めようとしていた。私と会えば何とかなると思っていたようだ。


 さらにね、クラウスが離れを出た後のアメリアと侍女の会話もあった。


「もし、その女が有用であれば、クラウス様に命令させてリンデールへ連れて行けばいいのです。そうすればアメリア様の実績として、リンデールへ戻ることを領主様もお許しになるでしょう」


「まあ、リンデールへ? それは良いことね。ここでの生活はつまらないし、そろそろ戻りたいと思っていたのよ」


 アメリアは急にニコニコと機嫌を良くして笑っている。


 このアメリアという人、赤い髪で瞳は緑。美人で顔立ちはちょっときつい感じの人だった。やはりクラウスはお母さん似だね。


 だけど、見た目に反して話し方に幼さを感じた。なんというか、すごくアンバランス。少し話している所を見ただけなのに、何を考えているのか分からなそうな人って思ってしまった。あと、侍女の人も要注意人物みたいだね。無表情なのもすごく怖い。


 結局、クラウスは現在も牢に入れてあり、アメリアと侍女はそのまま離れにいるけれど監視を強化して外部との接触を禁じているそうだ。


 大丈夫かね? クラウスが屋敷の敷地内とはいえ謹慎中でも簡単に母親の元に行っていたし、役所に乗り込んできたりとか、ガイルの警備ってザルなのでは。


「大丈夫、なはず、です……」


 聞いたらマリウスさんの顔が青かった。別にいじめてる訳じゃないよ? 言いたいことはいっぱいあるけど。


 それで現在は領主様に今後の処理をどうしたらいいかのお伺いを立てているところだそうだ。


 最初にクラウスが私の家に来た時のことは、その場にいたネロさんとパン協会の二人に緘口令を敷き、私が望まなかったこともあって謝罪と本人の謹慎などで済まそうとしていた。だけど役所での二回目はさすがに多くの人の目に触れてしまい隠すことは出来なかった。なのでラベールさんは町長辞職の願い出と共に、クラウス達の処分も上に投げたらしい。


 マリウスさんによると、場合によっては貴族籍はく奪、領地追放、またはそれ以上のことも考えられるとか。


 そんな大げさな、と思ったんだけど、昔おじいちゃんに大恩ある王様が「賢者に対して危害を加えようとした者は死罪、王族を害したと同等の罪であると思え」とおっしゃって、賢者の扱いは王族相当という法がきちんと残っているそうなのだ。で、何故かそれが私にも適用されてこんなことになっているという。


 いやいや、待ってよ。迷惑は受けたけど実質的な被害は無いわけで、もっと穏便に済まそうよ。貴族はすごく体面を重んじるそうだけど、私は貴族じゃないし、偽物呼ばわりや罵倒されたくらいで相手を重罪になんてことまでは思わない。せいぜい机の角に小指ぶつけろって思うくらいだよ。


 この間のことだって、私は結婚を申し込まれただけだし。そう思ってなんとか陳情みたいなものを送れないのかとマリウスさんにお願いしたらすごく驚かれた。


「よろしいのですか? あれだけご迷惑をお掛けしたのに。リカ様は本当に聖女のような方ですね」


 やめてー。これ以上変な肩書増やさないで!





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