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 アルクは相変わらず真剣に動画を見ている。最近はついに自分でもケーキを作り始め、道具や材料をあれこれ買って頑張っている。ケーキ作りにはまる精霊。やっぱりシュールだね。


 私の方はなんとかホームページの編集作業が出来る状態を調え、お店からの指示に色々対応している。


 いやね、お店からのお知らせとか新商品の紹介とかはそんなに多くないんだけど、伯父さんからの指示が多いこと多いこと。ここのレイアウトを変えて欲しいとか、文章と写真を差し換えて欲しいなんていう依頼がポコポコくるのだ。そんなに忙しくないよって言っていたのに、すごく忙しいんだけど。おかしいなぁ。


 ケーキ屋さんのホームページとは思えないほどページ数が多いのと、しばらく放っておいたから直す箇所が多いんだろうけど、早く落ち着いて欲しいです。


 さて、例の二回目のパン会議の日になった。今日はコルネさん達が試作したパンを食べられるというのですごく楽しみにしている。私も前回とまた少し違うパンを用意してみたよ。飲み物はやっぱりコーヒーにしたんだけど、なんとなくパンだとコーヒーが飲みたくなるんだよね。


 今日は役所の方も来るそうなので、どんな話し合いになるのか楽しみなのと不安が半々な感じだ。なんかちょっと緊張してきたかも。


 最初にやってきたのはパン協会の二人だった。本当は役所の人も一緒に来る予定だったそうなんだけど、なんだかトラブルがあったとかで遅れてくるそうだ。先に始めてよいそうなのでさっそくパンを試食させてもらった。


 コロネさん達が持ってきたパンは前回一番話題になった食パン。形はね、すごく食パン。私が前に持ってきたのは角型パンだったけど、コロネさん達が持ってきたのは上部が膨らんだ山型だった。


 一回目の会議の後、私もそれなりにパン作りについて調べたりしてコロネさん達に伝えたりしていたんだけど、再現力がすごいです。さすが本職。


 さっそくスライスして食べてみたらとても軽い食感で美味しかったんだけど、二人としてはもっとしっとりとした食べ応えのあるパンを目指したいそうだ。これも美味しいと思うけどね。


 アルクも途中から参加してきて、何やらすごく専門的なことまで話し始めた。どうやらケーキだけじゃなくてパン作りの動画も見て勉強したらしいんだけど、どこへ向かおうとしているんだろうね、この精霊さん。


 パンの水分とか型の話、こね方とか配合とか色々と話は続き、みんなでわいわいと盛り上がっていたその時、それは起こった。


 

 突然家の扉が開いたかと思うと、見知らぬ男性が飛び込んできたのだ。あまりにも勢いよく扉を開けるものだから、すごい音がしてみんな一斉に振り返ったよ。本当にびっくりして一体何事かと思ったよね。


 入ってきたのは少し若そうな赤い髪の背の高い男の人で、何やら家の中を物珍しそうに見回していた。男の人の後ろからは役所の人が一緒についてきたので職員の人なのかなって思った。なんとも無作法な人だなぁとちょっと不快に思っていたら、その人は突然私の方へ目を向けるとよく通る声で話し始めた。


「お前か、賢者の孫とか名乗る女は」


 何だか知らないけれど、ものすごく喧嘩腰なのは何故だろう。しかも上から下に値踏みするような視線で私を見ると鼻で笑ったよ、この人。どうなってるの?


「貧相な女だな。賢者などと大層な名を騙る詐欺師め。どうせその名で好き勝手するつもりだろうが、俺がお前の化けの皮をはいでやる!」


 何やらおかしな事を言われた。しかしこれは喧嘩売られてるよね。どうしようか。


 こういう時は長年培った上司への対策スキルが発動して無感情モードに自動シフトしてしまうのがちょっと悲しい。私が黙って無表情でいると、調子に乗ったのかさらに男は私を挑発するような言葉を続けた。


「ふん、図星で何も言えないか。さっさとこの町から出て行いくがいい!」


 男は何だか言ってやった感満載なドヤ顔でいる。ああ、こういうの本当に面倒くさいな。


 役所の人は男の後ろで顔を青くしながらオロオロしているし、パン協会さん達二人は唖然としている。アルクはどうしたかなと思ったら、いつの間にか男の人の目の前に移動していた。おやぁ?


「なんだお前は!」


 急に前に出てきたアルクに驚いて、男は声を荒げているけどアルクはそんなのお構いなしだ。男の首根っこを捕まえると扉の方へ歩いて行った。アルクも私以上に無表情、というか怒ってる?


 そのまま扉を開けると男をポイと外に放り投げた。おおすごい、アルク力持ち。


 わめく男の声は扉が閉まると何も聞こえなくなった。さっきは役所の人が一緒だったけど、一人では印がないのでもう家に入ることはできないだろう。一体何だったんだろうねぇ。


「あの人誰ですか?」


 聞いてみたら、なんと町長の息子らしい。ほぉ。


「申し訳ありません、クラウス様は何か勘違いをされているようでして。その、何度もお話したのですが聞いていただけず、すみません、本当に申し訳ありませんっ」


 ひたすら頭を下げて謝っているのは役所の職員のネロさん。すごく人当たりの良い優しい雰囲気の女性だ。うっすらピンク色の長い髪が可愛いけれど、スタイルも良くて大人な感じ。お仕事が出来る若手の出世頭らしく、今後はなにかと私のサポートをしてくれるはず、だったんだけど……いきなり問題発生みたい。大変だねぇ。


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