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 私は特訓した。


 すごく頑張った。


 それというのも、フランメルでは人の体、というか「フランメルで作られた体」の方が力が安定するからだ。なんでもこの世界はそういう仕様なのだとお兄さんが言っていた。精霊体のままだと極端に力が制限されるので、本来の力は無理だけど人の体を作った方が大きな力を使えるというのだ。


 だからあの日、ベル様が日を改めるって言ってくれたのは都合が良かったと思う。おかげでこうして練習の時間が持てたからね。


 私も失敗したくないので一刻も早く人の体になれるようにしたかったし、儀式だけじゃなく、日本に帰って生活する為にも人の体は必要だったから一生懸命練習した。


 で、その甲斐あって私は無事人の体を作れるようになったんだけど、いやぁ、本当にほっとしたよね。


 ほら、私ってあんまり器用じゃないし、体を作れるようになるのにどのくらい時間が掛かるのかなって実はすごく心配していたんだよ。だけどコツを掴んだら案外あっさりと出来るようになった。最初は失敗続きで落ち込んだんだけど、アルクのアドバイスとか自分でも色々工夫して頑張ったよ。


 体を作るのはイメージが大事だそうで、あとはその世界の物質を使って体を構築する。それで思ったのは、だったら凄く美人にとかに顔だって変えられるのではってことだった。身長とかも自在だよねって。


 でもねぇ、そうは上手くいかなくて、私は私のままだった。なんでぇ?


「リカは可愛い、そのままでいい」


 アルクはそう言ってくれるけど、美人のアルクに言われてもって思う。せっかく高身長のモデル体型美人になれると思ったのに。うん、これはこっそり練習しようと思う。


 あ、精霊の時のキラキラエフェクトは出せるようになったよ。というか、私は以前の体で力を抑えてる状態が通常だったからか、体が勝手に省エネモードになってしまうらしい。だからそれを意識してやめてみたら自然と出るようになった。力の加減で明度調整みたいになって面白かったけど、使いどころはないかなって思う。


「よし、とりあえずこれで日常生活は問題ないよね」


 今までと変わらない体の感覚。自由にどちらの状態にもなれるようになったし、私はやれば出来る子!



 そうして練習と慣れるまでに数日使い、だいぶ体が馴染んだ頃に城から連絡がきた。だけどてっきり儀式の日程が決まったと思ったらそうじゃなかった。


「ノーマイーラに従う者達を捕えた」


 連絡をくれたのはベル様だった。


「従う者?」


「ああ、詳しく話したいのでこちらに来て欲しい」


 そう言われて聞く必要あるかなぁと思ったけど、アルクはもちろん、あの場に居たマリーエさんとエミール君も一緒にみんなで王都へ向かうことになった。




     ◇




 扉の先はお城のいつもの私の部屋。


 そこにはロイさんが待っていて、すぐに別の部屋に案内された。


 部屋の中にはベル様をはじめ、陛下と王妃様、王太子殿下とギルベルト殿下が揃っていたけど、あれ、次男殿下がいないなって思った。


「しばらく振りだな、体調はどうだ?」


 ベル様が聞いてきた。


「大丈夫ですよ。問題ないです」


「そうか……体も馴染んでいるようでなによりだ」


 私のことを少し見て状態を確認したらしい。一応、心配はされているのかなって思う。


 挨拶は簡単に済ませ、私達は用意された席についた。私が真ん中で左右にアルクとエミール君。マリーエさんは私の後ろに立つ。


「わざわざ来てもらってすまないが、一番の被害者でもあるお前には知らせるべきだと思ってな。多少時間はかかったが調査も一通り終わったので呼んだのだ」


「はぁ。ノーマイーラに従う者、でしたっけ?」


 うーん、やっぱり私を呼ぶ必要があるとは思えないんだけど。そんなに興味もないし。


「ああ、アレが単独であの場に潜り込めたとは思えなくてな」


 ノーマイーラをアレ呼ばわりだった。名前も呼びたくないのかなって思う。彼女のしたことは同情出来るようなことは一切ないんだけど、それでもこれだけ報われないっていうのはなんていうか、ね。もうちょっとやり方があったんじゃないのって、どうしても思わずにはいられない。


「話の前に返すものがある」


 そう言ったベル様の声に、ロイさんが持って来てくれたのは装飾された箱だった。なんだろうと思って開けてみたら、中にはあの日、私が天幕で預けた腕輪が入っていた。


あの混乱でどこかへいってしまったのかと思っていたから戻ってきて嬉しい。さっそくつけたらすごくしっくり腕に馴染んだ。


「侍女の中にアレの手先が居た。着替えの際にアイテムを外せと言われたのだろう?」


「言われましたね。儀式に支障があるといけないからベル様の指輪以外は外すようにって」


「私はそのような指示は出していない」


 ああそう言えば、刺された時にアイテムがどうのと彼女に言われた気がする。つまり最初から私を無防備にする計画だったってことなんだろう。


「それからお前に使われた短剣なのだが、あれには毒が塗られていた」


「毒……」


「ああ、猛毒だ。体内に入れば瞬く間に体中に広がり、内臓を腐らせ僅かな時間で死に至る」


 うわぁ、私は実際にその毒を受けたんだよね。そうかぁ、腐るのかぁ……。


「リカ」


 隣でアルクが心配そうに声を掛けてきた。私は想像して少し嫌な気分になったんだけど、アルクの手を握ったら落ち着いた。


「アレは元々植物の研究員でな。使われた毒物を解析したところ、こちらの植物が使われていたことが分かった。ただし、一部地域にのみに生育している非常に希少なものだ。どうやらそういった植物毒を多用していたらしい」


 それからベル様が語ったのは、ノーマイーラがどうやって再び自由になったかっていう話だった。箱に入れて埋めた後のことだね。


「私は信頼のおける者達に箱を僻地へ運ばせて埋めさせた。そしてその箱について決して他言するなと命じたのだが、その内の一人が密かに記録を残していたのだ。そして今から数十年前、その記録をもとに箱は発見されてしまった。しかし記録はあくまで覚書程度で、掘りだした者達は中身がなんであるかを知らなかった。宝か何かと勘違いしていたのかもしれないが、入っていたのはアレだ。アレは使途の名と多少使える魅了の力でその者達を従えた。だがアレは一人で何か出来るような大きな力は持たない。だから毒を使って人々を操ったのだが、どうもそれは、この世界を作る時から計画していたようだ」


 彼女の魅了できる範囲や数には限りがあるそうで、薬を使ってそれを補おうとしていたらしい。


 事前に毒になる植物をこの世界に生息させたようなんだけど、そのままでは毒としては使えず、手間をかける必要があるものを複数用意した。自分にしか生成できない未知の毒。それを使ってベル様との世界を守るつもりだったんだろう。


「アレは潜伏を続け、自分に従う駒を用意して力を蓄えた。その土地がリンデールだ」


 エミール君が「リンデールはメルドランの北側にある領です」って教えてくれたんだけど、リンデールってどこかで聞いたような気がするね。


「調査でリンデールの領主一族の多くが洗脳されていたことが分かった。長期にわたる魅了と毒によるものだ。アレが王都へ来たのはここ最近らしいが、その前から色々と動いていたことも分かっている」


 王都へ来なかったのは、自分が自由に動けるように力を蓄えるってことの他に、ベル様が居なかったからというのが理由らしい。ベル様が居ないんだったら行く必要ないっていう、すごく単純な話ね。


 ただ、少し前からベル様の居場所を探って城へ人を送り込んでいたそうで、彼女はベル様がどこに居るかを知らなかったんだって。恐らくあの別空間に居るだろうって思ったようだけど、探しても誰も見つけることが出来なかった。


「入口を変えたからな」


 以前はお城じゃなくて別の場所に入口があったそうだ。そもそもその時代はお城自体がなかったそうで、しかもその時はちゃんと誰が見ても出入口って分かるようなものだったとベル様は言う。


「城に入口があるだろうと検討をつけたのだろうが、あの鏡がそうだとは気付かなかったようだ」


 ちょっとだけフフンっと自慢げなんだけどね。


「いやバレなかったけど、お城の人達にも分からなくて忘れられたんでしょう」


 忘れたんですかって言ったら「あっ」って顔したよ、ベル様。まったく何やってるんだか。というか、どうして鏡にしたんだろうって思ったんだけど、どうもすねちゃったみたいで教えてくれなかった。もうっ。


 だけどさぁ、自分を箱に閉じ込めた相手に対して何か思う所はないのかなって思うんだけど、彼女はすべていいように変換して受け取っているらしく、「あれは自分達の仲を嫉妬した誰かの陰謀で、ベル様は自分のことを思っている」と本気で考えているそうだから驚きだよね。理解不能だし、ベル様にしたら恐怖でしかなさそう。


 結局、彼女の行動原理はすべてベル様だ。その為にこの世界を閉じたんだし、力を蓄えるっていうのも自分とベル様の世界を脅かす者を排除する為のものだった。


 つまり、私?


「アレは迷い人を警戒し、この世界の秩序を乱す者として排除しようと動いていた」


 ここまで彼女のことが分かっているのはベル様が記憶を見たからだ。「すごく嫌だった」ってベル様は死んだ目で言っていたけど、ベル様も記憶見れるんだなって思った。あと見る方もダメージを受けるんだなぁって。


「えーと、彼女の異常さはよく分かりました。でも良かったんですか? ここでこんな話をして」


 だって、ベル様隠してたよね?


 こんな大勢の前で話しても大丈夫なのかなって、心配になった。


「ああ、別にもう知られているからかまわない。儀式の場で、お前が消えた後にそこの精霊が話したからな。広めるつもりはないが隠すつもりはない」


 ええ、アルクがしゃべっちゃったの?


 確認したらアルクがみんなの前で色々バラしてたことを知ったんだけど、なにそれ、私は気を遣ってアリア様達のこと話さなかったのにー。


「都合の悪いことは伏せる自己保身や面倒事をリカに押し付ける身勝手さにあきれただけだ。しかもそのせいでリカがあんな目にあった」


 アルクは二人とも許せないって言う。


 まあねぇ、言いたいことは分かるけどさぁ。


 でもベル様も被害者な訳だし、少しは優しくしてあげようよって思う。


「アルクが私の為に怒ってくれるのは嬉しいよ。でもね、許せないって言っても、ベル様をあのウネウネの黒い塊にする訳にもいかないでしょう」


「「「「「えっ?」」」」」


「んん゛?」


 みんなの声に顔を上げたら、目を見開いてこっちを見ているベル様と目が合った。とたんに首を左右に振られたんだけど……あれ?


 とりあえず、仲良くが無理でもあまり攻撃的なことはしないでねってアルクには言っておいた。いくら死なないからって、ベル様のそういう姿は見たくないし、私は気持ち悪いのは苦手だ。


 しかし、アルクは意外と血の気が多いんだよ……困ったものだよねぇ。





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