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 勝手に記憶を見られて使われた。


 なんて羞恥プレイだと思って怒ったものの、自意識過剰だと言われて逆に恥ずかしくなってしまった私です。


 まあ確かに、私の事なんて誰も興味なんてないだろうし気にもしないかぁ……。


 そうは思ったけど、やっぱり勝手に色々されたのは気持ちの良いことではない。なので今後は絶対やめて欲しいとしっかり抗議しておいた。


「もちろんです。私達はあなたとは友好的な関係を望んでいますから」


 お兄さんはそう言ってくれたし、アリア様もひたすら謝ってくれた。なのでこの件はとりあえず私も了承したということで話は落ち着いた。


 だけど不思議だよね、圧倒的にアリア様やお兄さん達の方が力もあるのに私に対してどうしてここまで丁寧に接してくれるんだろうって思う。


「それはあなたが協力者であり、私達はあなたにお願いする立場にあるからです」


 疑問に思っていたらお兄さんが答えてくれた。


「私達には制約が多いし、あなたが思うより出来ることは少ないんです。現に弟をすぐに助けることも出来なかったですしね。今回はあなたの協力を得て弟の救出が可能となりましたが、私達が直接手を出すことは禁止されています。必要以上に他の世界と関わってはいけないんです。加えてあなたは私達の管轄外の世界の方ですから、私達があなたに対して何かするということは協定違反になってしまいます。なのであなたの扱いには私達も慎重になっているんですよ」


 私がここで「協力しない」ってなったら大変なんだって本音も漏らしてた。アリア様も制約が多いとは言っていたけど、ふーんって感じだ。まあベル様には元々約束していたし、フランメルのみんなを助けたいから協力はするけどね。


 アルクやみんなにも何か言われそうだし、刺されておいてよくやるよねと自分でも思うよ。だけど私はこうしてまだ存在しているし、あのままにはしておけないよねって、ただそれだけだ。私の心の安寧の為にも、私にやれることはやろうと思う。


 あと一応報酬もあるらしい。ベル様から貰う予定がありますよって言ったんだけど、それとは別にくれるんだって。


「あなたは欲がなくて正直ですね。そういう善良な方には良い事があるんですよ」


 そんな事を言われたけど、私は別に善良ではないと思う。まあ貰えるものは貰うけど。ただ、また悩む物じゃないといいなぁってそれだけ思った。あとアリア様にも「私からもお礼はするわよぉ。期待しててねぇ」と言われたんだけど、こちらは不安しかない。



 さて、そんなこんなで今後の打ち合わせをし、私は戻ることになった。


「で、どうやって戻ればいいんでしょうか。アリア様が送ってくれるんですか?」


 私はここが何処かもちゃんと理解出来てないし、フランメルへの帰り道が分からない。


「それなんですけどね、おそらくあなたはご自分の力で戻れると思いますよ」


 え、私にそんな力ある?


「あのねぇ、リカちゃんは今、精霊体でしょぉ? だから本来持ってる力を十分に使えるのよぉ」


「以前にもあなたの世界をベルの居る空間に繋げた事があったでしょう? 今のあなたはあの時より力がある状態なんです」


 なんかね、私のこの体は結構強い力があるらしい。全然分からないけど。で、前の時は体が耐えられないからってこの力はかなり抑えられた状態だったそうなんだけど、それでも指輪で力を溜めてベル様の所へ行けたし、今は普通にしててもその時より大きな力が使えるから、かなり自由に扉が使えるんじゃないかってことだった。


「ええー、本当に?」


 私としては力なんて感じられないから疑ってしまうんだけど、二人は「たぶん大丈夫」って言う。


「たぶん?」


「そうよぉ、だってリカちゃんの力はすっごく珍しいのよぉ。私達が使うのとはちょっと系統が違うっていうかぁ、よく分からないのよねぇ」


 えー、なにその未知な感じ。


「まあまあ、それだけ可能性があるってことですよ。存分に活用されたら良いではないですか」


 扉には散々お世話になっているし便利だけど、アリア様に「よく分からない」なんて言われて少し不安になってしまった。だけどお兄さんの言葉に気を取り直して私はさっそく試してみることにする。


 今、私の指には指輪がある。ベル様の呪いの指輪は私の人の体に着けたままなので、迷子にならないように座標みたいなものが記録された新しい指輪を貰ったのだ。あれ、そういえば私の体って今どうなって……うん、あとで考えよう。


 指輪に力を流すようにして、フランメルへ繋がるようにと強く思いながら扉をイメージする。


 すると、いつもより少しだけ立派な白い扉が目の前に現れた。デザインも違うし、これは何が影響しているんだろうか。また検証かな。


 私は慎重に、ゆっくりとノブを回す。


 ちょっと緊張しながら向こう側を覗き込んでみると……そこはガイルの家だった。


「あー、ここに繋がるのか」


 指輪の座標はただフランメルっていう大雑把なものなので、どこに繋がるかは分からなかった。だけどここは一番馴染みのある場所だし、私は無意識にここを選んだのかもしれない。それに、ここからなら他への移動はいつも通りにすればいいだけなので安心だ。


「どうですか?」


「はい、大丈夫そうです」


「それは良かった、やはり素晴らしい力ですね。私達はご一緒出来ずに申し訳ありませんが、弟をどうぞよろしくお願いします」


「どうかお願いねぇ」


「ご期待に沿えるかどうかは分かりませんがやってみます」


 任せて下さい、なんて決して言えない。


「大丈夫よぉ、あなたならぁ」


「そうですね、すべてが終わったらまたお会いましょう」


 妙な信頼を寄せられて困惑しながらも、一応頷いて私は扉をくぐった。




 二人の見送りを背にして扉を閉じ、一人佇む。


「なんだかすっごく久しぶりな気がする」


 家の中を見回して帰ってきたんだって思った。だけど……


「みんなと合流して、儀式して。さっさと全部終わらせてアルクとここに帰って来ないと」


 私はすぐに次の扉を出すことにした。怠けない私、えらい。


 だけどね、ここでちょっと考えた。


 こちらに戻るのに気になって色々確認したんだけど、さっきまで居た場所は時間の流れがこことはちょっと違うらしい。私の意識が戻るまでやアリア様達と話をして実はかなり時間が経っていたはずなんだけど、こちらの世界ではあまり時間が経っていないんだそうだ。


 だったらだよ、儀式をしていたあの場所にみんなはまだ居るんじゃないかって思ったのだ。最初はいつも通りにお城に行こうと考えていたんだけど、直接あの場所に行った方が早いんじゃないかなって。


 残念ながらあの場所で扉は使っていない。だから扉が繋がるかは分からないけど、一度行った場所だし、力が増えた今ならいけるんじゃないかと思えたんだよね。


 なのでれっつチャレンジだ。


 目印にアルクのことを考える。アルクは私の気配が分かるって言っていたし、今なら私にも出来るかなって思ったけど、さすがに遠すぎるのか気配は分からなかった。


 だけど……うん、なんとなくいけそうな感じがする。


 自分でそう思えるのって結構重要な気がしたし、私にしてはかなり自信を持って扉を出した。


 さて、どうだろう。


 ドキドキしながら私は扉を開けた。




 ――ビュオオオー



「へ?」


 何故か物凄い風圧で、少しだけ開い扉は一気に外側へ持っていかれた。


 そしてノブを掴んだままだった私は、いきなり空中に投げ出された。


「うっそぉーっ!!」


 もちろん私は落下した。


「なんでまた落ちるのぉー」


 少し前のダンジョンを思い出して泣きそうだった。いや泣く。きっと私は調子に乗り過ぎたんだ。もう変に自信を持ったりなんて絶対にしないって思う。


 考えている間もグングンとスピードを増して私は落下していった。


 ……これは、マズイ。


 このまま落ちたらぺしゃんこ確定だった。それは絶対に嫌だし、どうにか出来ないかって焦っている内に段々と地上が見えてきた。


 眼下に広がっていたのは森だ。


 だけどぽっかり空いた空間に広場や舞台、天幕らしきものがあり、周囲は木々がなぎ倒されたり煙が上がったりしていた。


 ここは……あの時、私が居た場所だ。そしてあれは……


 近付くにつれはっきり見えてきた舞台の上。そこには何人もの人が居て、そしてその一人がふいに顔を上げた。


 アルク……っ!


 まだ遠いけど、すぐに分かった。


 嬉しくて嬉しくて。また会えたって心が震えた。


 私は一直線に、そのままアルクの元へ落ちていき、本能的に防御膜を張った。でもね、このままじゃアルクやみんなが危ないって気付いて焦った時に、地上でも防御膜が張られたのだ。あれはベル様かなって思った直後に


 ドッゴンっ!!


 防御膜同士が接触し、物凄い音がして石の舞台が大きく沈んだ。


 私も衝撃で空中でワンバウンドし、その後に再び地上に落ち始めた。アルクはそんな私を大きく手を広げて受け止めようとしてくれる。


「リカ……」


 アルクの声だ。


 それだけで安心する。


 力を使ってくれたのか、ゆっくりとすごく優しく柔らかく、私はアルクのもとに着地した。



 私はぎゅうっとしがみつく。


 アルクも同じくらい強く抱きしめてくれた。



「おかえり」


「うん、ただいま」



 ああ、私、帰ってきた――





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