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「私、人……でしたよね? ちゃんと両親いますし、これまでずっと人として暮らしてきたんですけど……」


「ああえっと、そうねぇ。人として生まれたのはそうなんでしょうけどぉ、あなたは精霊としての性質が強かったってことかしらねぇ」


 そうして女の人は、少しだけ困った顔をして私に謝ってきた。


「あのねぇ、私、ちょっとフランメルのことを知りたくてぇ、あなたの記憶を覗かせてもらったのよぉ。勝手に見てしまってごめんなさいねぇ。それでぇ、あちらのことはなんとなぁく分かったし、おおよそ思っていた通りだったんだけどぉ、なんだかあなたも色々事情がありそうな感じだったしぃ、ちょぉっと気になってしまったのよねぇ」


 顔に片手を当てて「本当にごめんなさいねぇ」と言いながら、知りたいのなら自分が見た記憶を話すと言う。どうも私には強い記憶の封印がされていたけど今はそれが解けているそうで、だけどその封印がまだ影響しているから思い出せないことが多いのではないか、と女の人は言っていた。


 あと封印されるくらいだから思い出さない方が良いこともあるっぽいけど、記憶の封印の理由は私の体と本体である精霊体が分離しないようにっていうのが一番の理由なので、体が駄目になってしまった今はそれについてはあまり意味がないとも言われた。うん、よく分からない。


 それに体が駄目になったっていうのはちょっと……いや、かなり衝撃で反応に困るし、時間が経てば自然と思い出すだろうと言われたんだけどね、教えてもらえるならすぐに聞きたいと思った私は、女の人に話してもらえるようにお願いすることにした。


 ああ、うん、自分の記憶を他人から教えてもらうとか意味が分からないし、色々情報が多くて混乱している。勝手に人の記憶を見るなとも思うし、何よりこの人が誰かも分かってないんだよね。なんなんだろう、この状況。


 こんな時、アルクに側に居て欲しい……。



「そう、あなたが望むならお話するわねぇ。あのねぇ、あなたって小さい頃に魔物に食べられちゃったみたいなのよぉ。ほら、あなたってとっても美味しいそうじゃなぁい?」


「お、美味しそう……ですか?」


「そう、とぉってもねぇ。だからすっごく狙われてたみたいなんだけどぉ、あなたのお婆様の強ーい守護で、そういうモノからは守られてたみたいなのねぇ。だけどぉ、ある時あなた、魔物の罠に引っ掛っちゃったのよぉ。まあまだ幼かったし、その時は偶然が重なって誘い出されてしまったみたいなのよねぇ。だからぁ、あなたのお婆様達が気が付いた時にはもう、ねぇ……」


「え、ああっと”食べられた”? 魔物に?」


「そう、魔物にね、パクンって」


「パクン……」


 あ、もしかしてさっきのあの夢って……


「そう、それでねぇ、びっくりしたあなたは咄嗟に精霊体になったのよねぇ。それでお婆様達も来て助かったんだけどぉ、あなた自分の状態とか全然理解出来てなかったしぃ、魔物に襲われたショックでパニックになったのよぉ。仕方ないことよねぇ。まあそんな状態だったしぃ、あなたは自分で人の体を作ることも出来なかったんだけどぉ、あなたはご両親と人の社会で暮らしていたでしょぉ? だからあなたのお婆様があなたの体を作ってねぇ、精霊体のあなたをそこに定着させたのよぉ」


 ええ……いやどこから突っ込んでいいのか分からない。だけど困惑する私をよそに、女の人は話を続けた。


「でもぉ、ほら、魔物のことを思い出すとあなたパニックになっちゃうしぃ、また精霊体になっちゃうかもしれないじゃなぁい? だからあなたのお婆様は魔物の記憶を封じることにしたのねぇ。それに加えてお婆様自身のこともぉ。あなたあの時、お婆様が精霊だって知っていたのよねぇ。自分のことがきっかけになってぇ、あなたが恐ろしい記憶を思い出したり精霊体になっちゃうかもしれないからって自分の記憶もあなたの中から消したのよぉ。恐らくだけどぉ、あなたのお婆様はとてもご自身を責めていらっしゃったと思うわぁ」


 自分が精霊であることを理解出来ない幼い私。魔物を思い出しては恐怖で怯える私。魔物に襲われて体を失い、だけどアルクやおばあちゃんのように自分で人の体にもなれなかった私。



『リカ、愛してるわ』


 強く抱きしめられた記憶が蘇る。


『あなたが成長して、いつか真実を知った時、あなたは私を許してくれるかしら』


 おばあちゃんの優しい、だけど寂しそうな顔が頭の中に浮かんできた。



「……違う、おばあちゃんは悪くない。悪いのは、約束を守らなかった私だ……」


 幼いあの日、私はおじいちゃんとおばあちゃんの家に預けられた。そうだ、弟がもうすぐ生まれるって時だった。でもお母さんの体調が良くないからって入院する事になったんだけど、お父さんは仕事で忙しくて私は預けられることになったんだ。


 私はいつものように大好きなおじいちゃんとおばあちゃんと一緒に過ごせてすごく嬉しくて、だけどある日、何故か二人の姿が見当たらなくて私は庭に出た。そして『こっちだよ』って声に誘われて魔物のテリトリーに入ってしまい……私は食べられてしまった。


 そう、あの時の恐怖は覚えてる。というか思い出した。そうだ、さっきのあれは夢なんかじゃない。


 それから助けに来てくれたおばあちゃんのこと。


 私の前でおばあちゃんは姿を偽っていなかった。精霊の姿はとても綺麗で恰好良くて、私はそんなおばあちゃんが大好きだった。私も飛びたいって言ったら、おばあちゃんが抱っこして空を飛んでくれたり、キラキラする光や水で遊んだり。


「みんなには内緒だよ。誰にも言っちゃ駄目だよ」


 おじいちゃんにもおばあちゃんにもそう言われていたけど、私は不思議に思うこともなく、ただ無邪気に喜んでいたっけ。


 私はああそうか、そういうことだったのかと、やっと納得出来た。納得して、すべては自分の行動が引き起こしたことだったんだと落ち込んだ。


 私がおばあちゃんのことを忘れていたのは、私があの時の恐怖を思い出さないように、私が精霊体にならないようにとおばあちゃんが私の記憶を封じたからだった。全部、全部、私の為。


 そしておばあちゃんにあんな悲しそうな顔をさせてしまったのも私だ。


 ああ、なんてことだろう。


 ごめん、ごめんね、おばあちゃん。


 私が勝手な行動をしたから、家から離れちゃ駄目だよって言われていたのに、それを破ったから。


 体を失ったのは私のせいなのに。


 おばあちゃんが責任を感じることなんて何もないのに。


 記憶を封じて、姿まで消したのは私のせい?


 私が居たからおばあちゃん達は居なくなったの?


 どうしよう、もう二度と二人に会えないんだろうか。


 私、おばあちゃんとおじいちゃんに会いたいよ。


 会って「ごめんなさい」って謝りたい。 


 それから「ありがとう、大好きだよ」って伝えたい。



 おばあちゃん、おじいちゃん、どこに居るの?


 ねぇ、すごく、すごく会いたいよ……





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