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――体が怠い
昨日、家に戻った途端にアルクに抱きしめられた。
ヒナちゃんとのことは誤解だって言われて指輪をもらって。
好きだって言われて。
ちょっとまた勘違いもあったけど、私も「大好き」って初めて気持ちを伝えることが出来た。
……うわぁー、なんか思い出したら恥ずかしくてどうしたらいいか分からない。
なんだろう、この甘酸っぱい感じ。
うわぁ、うわぁ、うわぁ~。
その辺を転げまわりたいけど体が動かないので、小さくなってプルプルしてる。
「リカ?」
「ああ、うん、大丈夫」
そのまま転がっていたら、アルクが心配そうに声を掛けて抱き起してくれた。
アルクが側に居てくれるだけで嬉しくて顔がにやけてしまう。
「えへへ……」
アルクにスリスリしたら笑って頭をなでてくれた。うん、すごく幸せ。
「体調が良くないのか?」
「ああ、うん。ちょっとね、怠いの……」
体の中がすごく熱いのだ。
でも原因ははっきりしている。
指輪だ。
力が蓄積されているのがなんとなく分かる。そしてとてつもなく怠い。昨日目覚めた時の比じゃなくて、しかもこれがしばらく続くかと思うともう……。
そんな私を見て、アルクはすごく心配して癒してくれるんだけど、どうもこの熱や怠さにはアルクの力は効果がないみたいだった。
私は指輪のことを説明した。昨日はそれどころじゃなかったし、ベル様のことやこれからする儀式のことなんかも話したよ。
ベル様が実在したことはアルクも少し驚いていたけど、あまり関心はないみたいだ。それよりも私がまた厄介事に巻き込まれたってことが嫌なようで、そんなもの放っておけばいいって言うし、自分達のやらかしの始末を押し付けるつもりかって怒ってる。
いやまあそれはそうなんだけど、色々聞いちゃった後だし、今更断れないよね。でもそう言ったらすごく不機嫌そうにしていた。あと「リカはお人好しが過ぎる」とも。ちなみに「対価」のことは話したけど、内容については言ってない。絶対怒られる。
それとこの指輪が気に入らないようで、私の指から外そうとさっきから一生懸命頑張ってる。今外れても困るんだけど、たぶん無理っぽいのでアルクの好きにさせている。
あ、アルクから貰った指輪はちゃんとしてるよ。
左手の薬指。
アルクが選んでくれたという指輪はとっても素敵だった。シンプルなのに洗練された高級があってすごく綺麗。見るたびに顔が緩んでしまう。うふふ。
で、その隣の中指には例の指輪。
本当にもう呪いの指輪でいいと思うし、薬指に付けなくて良かったって思う。
アルクはどうしても外れない指輪に苛立っていたけど、「一度指ごと切ってポーションで……」なんてぶっそうなことを呟き始めたから絶対に嫌だって拒否したよ。我に返ったアルクに謝られたけど、そんな怖いこと考えないで欲しいよね、まったくもう。
とりあえず力を溜めて渡すだけだからって納得してもらったけど、早くこの怠さはなんとかして欲しいって思う。う~熱いーしんどいー。
ああ、それからですね、花ちゃんに電話しました。
めちゃくちゃ怒られて、めちゃくちゃ心配したって泣かれた。
本当にごめんなさいって私はひたすら謝って許してもらったんだけど、そうしたら今度は「それで、アルクさんとはどうなったの?」って聞かれてものすごく驚いた。なんで花ちゃんがアルクのことを知ってるんだろうって思ったけど「おかげさまで」って返したらすごく喜んでくれた。
それなのにね、「なんでアルクさんのこと言ってくれなかったの!」ってまた怒られて、「今度二人に会いに行く、ちゃんと話を聞かせてもらうから!」って宣言された。なんだかよく分からないけど、花ちゃんの迫力はすごかった。
それからヒナちゃん。
電話したら「良かったー」ってひたすら言われて謝られた。「変に誤解させるような行動を取ってごめんなさい」って、すごく反省していると言われたけど、いや謝るのは私の方だよね。ダメダメな大人で本当にすみませんって思う。
あとアルクからちゃんと指輪を受け取ったと話したら「良かったー」って、やっぱりひたすら言われて喜んでくれた。「また一緒にダンジョン行こうね」って言ったら「はいっ!」って元気な声が返ってきたよ。うん、またみんなで楽しく冒険しようね。
花ちゃんもヒナちゃんも、泣いて心配してくれたり怒ってくれたり、自分のことみたいに私とアルクのことを喜んでくれて、本当に心がほわほわと暖かく、くすぐったい気持ちになる。
二人とも心配掛けてごめんなさい。
それから、本当にありがとう、大好きだよ。
◇
「しかしお前、つくづく規格外だな」
呆れたような顔でベル様が私を見て言った。
どうも想定以上に力が溜まっているらしい。そしてこれなら十分だということで、すぐに儀式を行うことになった。
家に戻ってから一週間、それはそれは怠い日々だった。だけど最初の内はそれでも結構普通に動けたし、外出もしたんだよ。
あ、置きっぱなしにしていた車は取りに行った。花ちゃんから「そう言えば車がまだ置いてあったけど里香ちゃんどうやって帰ったの?」って言われて思い出してすっごく焦ったよね。すっかり忘れてた。
アルクが「行ってこようか」って言ってくれたし、たぶん運転とか出来ちゃいそうだけど、法律違反は駄目だと思ってバスや電車を乗り継いで駐車場まで向かった。かなり時間もかかって大変で、やっぱりこの家は車がないと不便だなぁと再認識させられることになった。扉が使えればなぁ。
この指輪があればもしかしてって思ったけど、無駄に力を使って怠いのが長引くのは嫌だし、儀式が終わったら試してみようと思っている。あれ、指輪って回収とかされちゃうんだろうか。というか、儀式終わったらちゃんと外れるんだよね、これ……。なんか不安。
まあそんな感じで最初の数日は動けていたし、感覚に慣れてきたのか自分の中の力の量がなんとなくだけど分かるようになった。スマホの充電みたいに「あー、今三十パーセントくらいかなぁ」とか「半分くらいかなぁ」って感じだ。
怠さは朝起きた時が一番ひどい。それから少しずつましになっていくんだけど、日が経つにつれて怠さはひどくなり、さらに午後も動くのが辛くなっていった。
それで今朝、もう少しで満タンっていう状態になったのでベル様の元へ向かったんだけど、ベル様には非常に驚かれてしまった。それというのもここまで力を溜められるとは思わなかったらしく、逆によくその状態でいられるなと言われてしまったのだ。
私だってもっと早く来れば良かったかなとは思ったけど、ベル様が「出来るだけ頑張れ」って言ったからギリギリまで我慢したんだよ? それなのに「そこまで普通は溜められない。体がもたない」だって。頑張ったのに酷過ぎるし、それなら最初から教えておいて欲しかった。なにその体がもたないって。私大丈夫なの、これ?
私はベル様に文句を言いたかったけど怠過ぎて出来ず、睨もうとしたけど力が入らなくて失敗した。むうぅ。
「そう怒るな、すぐに放出させてやる。それにちゃんと対価は用意するぞ。そういえば例の件はどうするんだ?」
しかもだよ、怠さとベル様への怒りで私の気分は最悪だったのに、ベル様は私を支えるアルクをチラリと見てそんな余計なことまで聞くんだよ。
私は首を振って「ノー」を伝えたけど、「そうか。気が変わったらいつでも言え」だって。ニヤニヤ笑うベル様は本当に意地悪だと思う。
そして厄介なことに、そのやり取りを見ていたアルクに「例の件とは何のことだ?」って聞かれてしまった。一生懸命ごまかそうとしたけど、アルクにしつこくしつこく聞かれて……結局対価の内容を話してしまった。で結果、予想通りものすっごく怒られた。
「二度とそんなことを考えるな。記憶をなくすなんてそんなこと絶対に許さない」
めちゃくちゃお説教された。もちろん今はそんなこと考えてないよって言ったんだけど、アルクはすごく悲しそうな顔をしていて、そんな顔させたい訳じゃなかったのにってとっても反省した。
だけどこれ、余計なこと言ったベル様も悪いよね。
もう、ベル様の莫迦ー!




