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 ベル様からお話を聞いて驚くことばかりだったけど、一応事情は理解出来た。いやまあ私には理解不能な部分も多かったけどそれは置いておこう。


 それで、じゃあどうしようかってことで、まずはお城に行く事になった。


 ここから私が扉を出してもちゃんと家に帰れるか不明だし、せっかく溜まった力を無駄遣いしないようにしただけで、別に帰るのがまだちょっと気が重いとかそういうことではない。ないったらない。


 ということで移動だ。


 ベル様はまた腕を一振りして城に繋がる出入口を出してくれたんだけど、それは私が使うような扉ではなくて「鏡」だった。縁の部分が金色で綺麗な装飾がされている大きな姿見だ。覗き込んだら普通に姿が映ったけど、自分の顔が予想以上に酷くてびっくりしてしまった。


 なので私は「うわぁ、こんな顔でお城の人達に会いたくないよぉ」って唸っていたんだけど、ベル様は何も言わずに私の顔に手をかざしてむくみを取ってくれた。お礼を言ったら、「ふんっ」ってすごく仕方なさそうにしてたけど、やっぱりベル様は優しいと思う。


 そして「何してる行くぞ」とベル様がさっさと鏡の中に入ってしまったので、私も恐る恐るそれに続いた。最初に鏡に手をついたら鏡の表面が揺らぎ、思い切って体を進めたら「ぐにゅん」って感じで水の中のような抵抗があって向こう側に出た。


 そこは小ぶりな部屋の中で、まわりには家具などが雑多に置かれていた。高い位置にある窓からの光しかなくて少し薄暗く、正面には扉があり、振り返るとベル様が出してくれたのとそっくりな鏡があった。なるほど、ここから出てきたのか。


「なんだここは」


 あたりを見回していたベル様が訝しそうに呟いた。


「物置とか倉庫みたいですね」


 なんとなく、さっき考えていたことが当たっていそうな気がしてきた。


 そしてまずは部屋を出ようと扉に向かったところで、なんとその扉が先に開いて中を覗き込んできた兵士の人と目が合ってしまった。


「……あ、こんにちは~」


 何て言っていいか分からずそう挨拶したんだけどね。


「な、なんだお前たちは! 何処から入った?」


 めちゃくちゃ不審者扱いされてしまった。


「いやあの、怪しい者じゃないですって」


 両手を挙げてそう言ったけれど信じてもらえず、というか聞いてさえもらえずに笛を鳴らされ、駆けつけてきた応援の兵士も加わって囲まれてしまう。


 私は「どうします?」って聞いたんだけど、「どうなっているんだ、これは」とベル様はもの凄い困惑顔だった。






 ――ガチャンッ


 大きな音を立てて扉が閉められた。


 今居るのはあの懐かしい地下牢だったりする。


 とりあえず大人しくしていたら連行されてしまったんだけど、このあとまた事情聴取とかされるんだろうか。


「なんで抵抗しなかったんです?」


 一応男女で牢は別らしく、壁を隔てた隣にベル様は居る。


「城の兵士とてフランメルの民だろう。傷付けたくはない」


 へー、何かやりようはあると思うけど……まあベル様ならこんな牢はすぐ出られるだろうし、私も扉を使えるから余裕はある。だけど思わぬ状況に、まだベル様の戸惑は続いているようだった。


 さて、これからどうしようかなーって、私は考えていたんだけどね。


「あ、あ、あーっ!!」


 現れたのは、私を指さして叫ぶ、これまた懐かしいちょび髭のおじさん兵士で。


「こんにちはー、お久しぶりですー」


 思わず手を振って挨拶してしまった。


「え、あの、ちょ、なんでぇっ!?」


 しかしおじさんはそう言うと、「うわぁー」って叫びながらどこかへ走り去ってしまったんだよね。おいおい。


「なんだあれは?」


 隣から呆れたような声が聞こえたけど、「たぶんこれで助けがきますよ」って言ったら「そうか」ってひと言返ってきた。


 結局、そのあとすぐに戻ってきたおじさん兵士に牢から出してもらって平謝りされ、さらに命乞いまでされてしまった。おじさん泣いてたね、可哀そうに。


 そして私達はすぐに豪華な部屋に案内されて、そこにギルベルト殿下とロイさんが駆け付けてくれた。これで話ができそうだ。


「突然来るから驚いたぞ。しかし何故あんな場所から……何があった?」


 私が城を訪れる時はいつも事前に連絡してからだし、扉を出すのは城にある私の部屋だ。だからこんなに突然、しかも部屋ではない場所から現れたことにとても驚かれた。地下牢の件はもちろん謝罪されたけど、知らない人から見たら確かに不審者で侵入者だから仕方ない。ちゃんと兵士さんは悪くないと言っておいたよ。


「それでそちらは……?」


 殿下が聞いてきたのはもちろんベル様のことだ。


「ああ、えっとですねぇ……」


 ベル様はさっきからひと言も話さず、腕を組んで難しい顔をしてる。私が紹介するのって思ったけど、ベル様に話す気配がなさそうなので私は続けることにした。


「こちらはフランメルの初代王、ベルスベディア様、です」


 そう言った後の沈黙、のちの――


「「はぁぁ?」」


 ですよねぇ。すぐに信じてもらえないのは分かってた。


「リカ、いくらリカでも初代様の名を騙るのは不敬だぞ」


 しかも怒られたし。


 でもね、じっとベル様を見ていたロイさんが「……まさか」って。その言葉に殿下も「え」ってなって、ベル様をまじまじと見つめた。


 だから私は言ってあげたんだよ。嘘つき呼ばわりされるのも心外だったし。


「正真正銘、フランメル建国の王にして神の使徒、ベルスベディア・フランメル、初代様ですよ」


「「っ……!!!」」


 どうやら今度は信じてくれたらしい。


 だけど神殿の像がきちんとベル様に似ているとはいえ、本人だってちゃんと信じるんだなぁって、こちらの常識はやっぱり違うなと改めて思う。


 そして目を見開いて声もなく驚いていた二人だったけど、しばらくして我に返り、それからはもう大変だった。


 殿下はすぐにご挨拶を開始。まあ牢に入っていたと報告は受けているだろうし、かなり青ざめた顔でひたすら謝罪を繰り返していた。で、その後は従者に「すぐに陛下を」って途中まで言いながら「いやいい私が行く」って出て行こうとするのを「私が行きますので殿下はこちらに居て下さい」って止められて、ロイさんが転がるように飛び出して行ったり。いつもの優雅さはどうしたってくらいのドタバタぶりで混乱していた。


 私もベル様もちょっとあきれていたけど、まああれくらいが本来の反応なのかもしれない。私の反応が薄すぎたことはともかく、ベル様が「これはどういうことだ」って改めて聞いてきたので、とりあえず私の考えを言ってみることにした。


「推測ですけど……ベル様への連絡手段って伝わってないんだと思うんです」


「伝わっていない?」


「はい、どういう経緯でそうなったかは分からないですけど。だからベル様の存在は神殿で祀られてる神様扱いで、こうやって実在してるとは思われてないんですよ。それで驚かれてるんだと思います」


 そう話したら、ベル様は「まさか……」ってすごく驚きながらも、さっきの鏡の扱われ方や殿下達の様子を思い出したのか、また黙ってしまった。


 そうしてしばらくすると、それはもう大慌ての陛下や王妃様や王太子に王太子妃、エルンスト殿下がやってきた。全員、部屋に入るなりベル様に向かって一斉に跪き頭を下げる。


「フランメル建国の王にして偉大なる導きの星、ベルスベディア王にご挨拶申し上げます」


 陛下が長々しい挨拶を始めたんだけど、王族勢揃いであの態勢って、私がこのままベル様の隣に座ってちゃ駄目だよねって思った。だから後ろの方に下がろうとしたんだけど、気付いたベル様に捕まって脱出失敗。仕方ないので大人しく小さくなっているけど……


 居心地悪いー!





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